
神奈川県川崎市で昨年末から行方不明となり、遺体で発見された岡崎彩咲陽さん(20)の家族が「ストーカー被害を警察に相談したのに取り合ってもらえなかった」と強く訴えている問題で、神奈川県警は5月3日夕方、当時の対応について詳しく説明した。
家族側が一方的に公表してきた見方とは異なる主張も示され、恋愛関係のもつれが背景にある複雑な事案であることが改めて浮き彫りになった。
警察発表の主な内容

今回の会見は、2024年6月から2025年4月末にかけて、岡崎さん本人と警察、そして容疑者となった元交際相手・白井秀征容疑者(27)の間で繰り返されたやりとりを時系列で整理する形で進められた。警察側は「ストーカー相談を受けた認識はない」としつつも、事実として複数回のトラブルや被害届などが存在していた点は認めている。
特に、岡崎さんが家の周囲をうろつかれて怖いと何度か電話しているにもかかわらず、来署や事情聴取への協力が得られなかったため、警察として正式な警告や規制法の適用には踏み切らなかったと説明した。
また、岡崎さんと白井容疑者は「別れと復縁を何度も繰り返す関係」だったとの認識を示し、あくまで双方の話を聞きながら対応を進めていたと強調した。
警察側が示した時系列
2024年6月13日
岡崎さんから「彼氏とけんかになった」との通報を受け、警察官が現場に臨場。岡崎さんは「帰りが遅くなったことで彼氏とトラブルになった。彼とは別れようと思う」と話したため、祖母宅に避難させた。
2024年7月5日
川崎臨港署員が岡崎さんの状況を確認。岡崎さんは「再度トラブルとなり別れることを決意。3日前に彼氏が荷物を持ってきてくれて以降はトラブルがない」と説明。親族を交えて話し合い、結果的に別れることで事態は沈静化したとして、取り扱いを終えた。
2024年9月20日
岡崎さんの父親から「娘が元の彼氏から暴行を受けた」と通報。岡崎さん本人は「昨日、殴られたり蹴られたり、ナイフのようなもので脅された」と説明したため、警察は「暴力行為」として被害届を受理し、双方を聴取。
2024年10月29日
岡崎さんが「大げさに話した」「刃物を向けられた事実はなかった」として被害届を取り下げる。警察は岡崎さんや白井秀征容疑者(27)、さらに両家族とも話し合いを続けていた。
2024年10月30日
岡崎さんの姉から「誰かに家に入られたようだ。おそらく妹の彼氏」との通報があり、岡崎さんを聴取すると「無理やり連れ出された」と話した。しかし後日、事実と異なる説明があったため、警察は継続して状況を確認。
2024年11月5日
岡崎さんから「元彼から暴力を受けた」との通報。
2024年11月10日
父親から「娘がいなくなった。白井容疑者と一緒にいるのでは」と連絡があったが、行方不明届は出す意向がないとされた。その後、岡崎さんと白井容疑者が共にいることが判明し、事実上は復縁状態だった。
2024年11月22日
父親から復縁している現状を確認したとの連絡を受け、防犯指導を行った上で、9月20日以来の取り扱いを終える。
2024年12月9日
岡崎さんから「白井容疑者が家の周りをうろついている」と電話。警察は来署を促して詳細を聞きたいとしたが、岡崎さんは「また連絡する」「話をしなくてもいい」として応じなかった。
2024年12月10日
岡崎さんから「白井容疑者に自転車を盗まれた。逮捕してほしい」と電話。警察は事件化に必要な手続きや被害届の提出を求めたが、岡崎さんは「もういいです」と電話を切った。
2024年12月11日
岡崎さんから再度の電話。自転車盗難に関するものとみられるが、短時間の通話で詳しい話は聴けず。
2024年12月12日
岡崎さんが「白井容疑者が自宅付近をうろついているので怖い」と連絡。警察はパトカーを出し、職務質問を試みたが不審者を発見できなかった。
2024年12月16日・19日
岡崎さんが自転車盗難の被害届を出し、その手続きなどのため複数回にわたって警察と連絡を取り合う。
2024年12月20日
岡崎さんが警察に電話するが、担当者不在のため折り返しを依頼。
この日、祖母宛てに「少し出かけてくる」とSNSで残したまま岡崎さんは行方不明に。
2024年12月22日
祖母から「自宅のガラスが割られている」と通報。警察が駆けつけると岡崎さんが帰宅しておらず、祖母は「白井容疑者の家にいるかもしれない」と心配を訴えた。警察はすぐに白井容疑者宅を任意で確認するが、行方はわからなかった。
2024年12月23日
岡崎さんの父親が行方不明者届を出し、警察は祖母宅や白井容疑者の自宅などを捜索する。
2025年1月16日
白井容疑者の自宅と敷地内の空き家を再度確認。任意での捜査のため、詳細な捜索には至らなかった。
2025年4月8日
白井容疑者の所在がわからなくなり、家族が「外国に行ったようだ」と話す。
2025年4月28日~30日
白井容疑者がストーカー規制法違反の疑いで捜査対象となり、捜索差し押さえ許可状を請求した上で自宅を捜索。

警察は以上の経緯を示し、複数回の相談や被害届の取り下げ、そして岡崎さんと白井容疑者が別れたり復縁したりを繰り返していた事実を説明。特に「ストーカー相談を受けた認識はない」という姿勢を崩さず、「岡崎さんは来署に消極的だったため、警告などの措置には踏み切れなかった」としている。
臨港警察への家族側の強い反発

一方、岡崎さんの家族は会見の前にSNSで警察が会見を開くが、内容を事前に聞いたが、「嘘ばかりで警察が悪くないように話を変えている。隠蔽ばかりで真実ではない」と訴える文章を公開し、情報拡散を呼びかけた。
家族はもともと「娘がストーカー被害に遭っている」と捉えて警察に相談していたとの立場を堅持しており、警察の主張に対して「本当のところが隠されている」という強い不信感をあらわにしている。
浮かび上がる「恋愛の延長線上」の難しさ
警察発表を受けてSNS上では、「家族の話とずいぶん違う」「警察は相応に動いていたのではないか」という声もあれば、「被害者も再び会いに行ってしまったりして、警察の指導が生かされなかった面もあるのでは」「一度は別れさせても、個人が復縁してしまえば警察も手を引くしかない」と、当事者双方が抱える複雑な事情を指摘する意見が多く寄せられている。
一方で、「窓ガラスが割られるなどの明らかな事件性のあるタイミングでなぜ捜査が進まなかったのか」「危険を感じていたならなぜ動かなかったのか」という疑問の声も根強い。結果として岡崎さんが命を落としている事実を重く受け止め、捜査や警察の対応の妥当性を問い直す必要がある、という意見も少なくない。
真実はどこに? 警察発表を受けての7つの疑問
5月4日現時点では、真実がどこにあるのかはわからない。ただ、警察が公表した時系列と家族側の主張を照らし合わせ、現時点で浮かんでいる謎や疑問点を整理することで7つの疑問が浮かび上がってきた。
いずれも、警察が会見で明かした情報や家族側の発信内容のみをもとにしたものであり、まだ事実関係が完全には解明されていない部分があることに留意する必要がある。
- 「ストーカー相談」は本当に認識されていなかったのか
• 警察の主張: 岡崎さんから「彼氏が家の周辺をうろついている」などの電話相談はあったが、正式なストーカー被害相談として受け止めたわけではない。岡崎さん自身が「来署しない」「警告してほしくない」と言い、具体的な被害届や告訴に至らなかった。
• 家族の主張: 「娘はストーカー被害を受けている」と何度も警察に相談し、危険を訴えていたのに、きちんと対応してもらえなかった。
• 疑問点: 何が「ストーカーとして認識される基準」になったのか明確ではない。警察は「恋愛トラブル」と判断した可能性があるが、家族は「ストーカー行為」だと捉えていた。この温度差が結果的に認識の相違を生んだ可能性がある。 - 窓ガラスが割られた時点で事件性を警戒しなかったのか
• 警察の主張: 2024年12月22日に割れた窓ガラスを確認した際、「事件性がない」とは伝えていない。内側から割られた可能性も含めて説明し、白井容疑者宅の確認などを行ったとされる。
• 家族側の主張: 「窓ガラスまで割られているのに本格捜査をしてくれなかった。隠蔽している」という趣旨の発信が見られる。
• 疑問点: ガラス破損に対し、なぜすぐに被害届を取ったり、現場を厳重に調べたりしなかったのか。警察は「白井容疑者宅を任意で確認した」とするが、その後捜索が深まらなかった背景にどのような判断があったのか不透明なまま。 - 行方不明届の提出タイミング
• 警察の時系列:2024年11月10日:父親が「娘がいなくなった」と通報するも、行方不明届は出さず。2024年12月23日:ようやく父親が行方不明届を提出。
• 家族側の主張: 「警察に相談しても動いてくれなかった」と怒りをあらわにしている。
• 疑問点: 一度は行方不明届を出さなかったのに、後日提出に至った理由や経緯が不明確。家族側がどういう説明を受けて届を出さなかったのか、警察が「届を出した方がいい」とどの程度働きかけたのかもはっきりしない。 - 被害届をいったん出しては取り下げる理由
• 警察の時系列:2024年9月20日:暴力行為で被害届を受理。2024年10月29日:岡崎さんが「大げさに話した、刃物を向けられた事実はない」として取り下げ。
• 家族側の主張: 警察に訴えていたストーカー被害をまともに扱ってもらえていない、という内容。
• 疑問点: 家族が警察に強く訴えていた一方で、岡崎さん本人が被害届を取り下げてしまう背景には何があったのか。本人の意思なのか、何らかの圧力や説得があったのか。それとも警察が「被害届を取り下げさせた」と感じるような働きかけがあったのか、事実は未解明。 - 警察が示す「別れと復縁の繰り返し」
• 警察の主張: 岡崎さんと白井容疑者は、何度も別れ話と復縁を繰り返していた。そのため「一方的なストーカー被害」というよりは「複雑な恋愛トラブル」という認識が警察内で強かった。
• 家族側の主張: 被害者自身がストーカー行為を恐れていたと証言しており、結果として最悪の事態に至ったのだから、恋愛関係だとしてももっと強力な介入をすべきだった。
• 疑問点: 警察は被害者の“復縁意思”をどこまで正確に把握していたのか。あるいは被害者が恐怖と執着の間で精神的に迷走していた可能性をどの程度考慮していたのか。この点は捜査や裁判で明らかにされる必要がある。 - 家族がなぜ「警察の対応は嘘だ」とまで言うのか
• 家族の主張: 会見内容を「嘘ばかり」「隠蔽」と断じ、SNSで拡散を呼びかけている。
• 警察の主張: 時系列で事細かに対応を説明し「家族に言われたような放置はしていない」と反論。
• 疑問点: 家族が主張する“嘘”と警察の実際の対応の食い違いが、具体的にどの部分なのかはまだ明らかになっていない。何が「嘘」なのか、警察が情報を歪めたのか、あるいは家族の受け止めと警察の認識にそもそも乖離があるのか、今後の捜査や説明責任が問われるところ。 - なぜもっと早期にストーカー規制法適用を検討しなかったのか
• 警察の時系列:2025年4月28日:初めてストーカー規制法違反容疑で捜査令状を請求。
• 家族の主張(推測): 窓ガラス破損や執拗な付きまといを「ストーカー行為」として警察が早期に扱っていれば、失踪や死亡を防げたのではないか。
• 疑問点: 誰でも「ストーカー規制法」をすぐ適用できるわけではないが、なぜ4月下旬になるまで法的手段をとらなかったのか。被害者が行方不明になってしばらく捜査が難航する中でも、早期にストーカー事案として処理できる可能性はなかったのか、という疑問が残る。
「真実はどこにあるのか」検証求められる今後
上記のように、警察側が提示する時系列自体に直接「虚偽だ」と断言できる矛盾があるわけではない。しかし、“家族側が語る現実”と“警察が認識・報告する事実”の間に大きな隔たりがあることは確かだ。特に「ストーカーとして正式認識しなかった理由」「ガラス破損など事件性を疑わせる状況で十分に捜査が進まなかった理由」「被害届の取り下げや行方不明届のタイミング」などに関しては、なお多くの疑問が解消されていない。
真相の解明には、家族側・警察側の主張がどこで食い違っているのかをさらに検証し、当時の捜査記録や関連証拠を照合する必要があるだろう。今後、捜査や司法手続きの中で詳細が明らかになるにつれ、「いつ」「誰が」「どのように」判断を誤ったのか、あるいは誤っていなかったのかが浮き彫りになるものとみられる。
両者の言い分が大きく食い違う中で、どのタイミングでどう動けば岡崎さんの命が救えたのか、今後の捜査や検証の過程でより正確な事実が明らかになることが求められる。