日枝久氏が完全退任、フジサンケイグループ代表職も辞任へ 長年フジテレビを支配してきた日枝氏が完全退任

フジ・メディア・ホールディングス(東証プライム、4676)は、子会社であるフジテレビジョン(以下、フジテレビ)の経営体制を大幅に刷新することを発表した。今回の改革では、代表取締役の交代、取締役数の削減、ガバナンス強化が実施されることになったが、最も注目されるのは、40年以上にわたりフジテレビの経営を支配してきた日枝久氏の完全退任である。
フジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役を務めていた日枝氏は、今回の改編によりすべての役職を辞し、経営の第一線から退くことになった。
さらに、これまでフジサンケイグループの代表を務め、実質的な影響力を保持していたが、同職からも退任する意向を示しており、フジテレビにとって歴史的な転換点となる。
フジテレビ、総務官僚出身の吉田真貴子氏も退任
また、総務官僚出身で監査役を務めていた吉田真貴子氏(旧姓・山田氏)も退任することになった。吉田氏は総務省時代に菅義偉政権下で総務審議官を務め、放送行政に大きな影響力を持っていた人物として知られる。しかし、週刊文春の報道によると、総務官僚時代に大手メディア関係者からの過剰な接待を受けていたとされ、その後フジ・メディア・ホールディングスの取締役就任に「利益相反」の懸念が指摘されていた。
さらに、吉田氏は総務省退官後、フジ・メディア・ホールディングスの取締役(監査等委員)に就任していたが、今回の人事により、総務官僚出身者がフジテレビの経営陣から完全に姿を消すことになる。これにより、政官とメディアの「癒着構造」の解消に向けた第一歩が踏み出されたといえる。
経営体制の見直し—取締役数を削減し、多様性を強化
今回の改革では、意思決定の迅速化とガバナンスの透明性向上を目的に、取締役会のスリム化が図られた。フジ・メディア・ホールディングスの取締役は17名から11名に、フジテレビの取締役は22名から10名に減員し、社内取締役の数を大幅に削減した。また、独立社外取締役を過半数とする方針を掲げ、「身内経営」からの脱却を進めることとなった。
取締役の平均年齢も引き下げる方針で、フジ・メディア・ホールディングスでは71.2歳から61.6歳へ、フジテレビでは67.3歳から59.5歳へと若返りが図られた。さらに、**女性取締役の比率もフジ・メディア・ホールディングスで36.4%、フジテレビで30.0%**と高められ、多様な視点を取り入れる経営体制を構築する。
また、インターネット・配信関連ビジネス、AI・データサイエンス、投資事業、グローバルビジネスなどの知見を持つ人材を新たに起用することで、従来のテレビ局の枠を超えた新たなメディア戦略を推進する狙いがある。
代表取締役の交代—清水賢治氏が新社長に
6月に開催予定の第84回定時株主総会をもって、フジ・メディア・ホールディングスの代表取締役社長である金光修氏が取締役会長に就任し、現専務取締役の清水賢治氏が新たな代表取締役社長に就任する。
清水氏は1983年に慶應義塾大学を卒業後、フジ・メディア・ホールディングスに入社。以降、フジテレビのメディア開発や経営企画を担当し、2025年1月からフジテレビ代表取締役社長を務めている。今回の人事は、グループ全体の経営改革を進めるための布石とみられる。
コンプライアンス強化と成長戦略
今回の改革では、コンプライアンス体制の強化も重要なテーマとなっている。フジ・メディア・ホールディングスは、グループ全体で**「人権デューディリジェンス」の仕組みを構築し、倫理規範を厳格化**する方針を示した。さらに、第三者委員会の調査結果を踏まえ、さらなるコンプライアンス強化策を検討する予定だ。
また、成長戦略の見直しも進められている。政策保有株式の整理や、新規事業投資の強化を推進し、資本収益性の向上を目指す。フジ・メディア・ホールディングスは、今後の方針について具体的な施策がまとまり次第、公表するとしている。
日枝氏の完全退任でフジテレビは本当に変わるのか?
これまでフジテレビの経営を大きく左右してきた日枝久氏が、取締役相談役のみならず、フジサンケイグループの代表職からも退任することが確実となった。これにより、日枝氏の影響力が完全に排除されることになり、フジテレビは名実ともに新たな経営体制へと移行することになる。
しかし、経営陣の刷新だけでフジテレビが本当に変われるのかは、依然として未知数である。日枝氏が院政を敷く可能性も指摘されている。
特に、フジサンケイグループ内には日枝氏に近い関係者が多数存在しており、彼らが経営の実権を握り続ける限り、実際には「影の影響力」を保持することも考えられる。例えば、新たな取締役の中に、過去に日枝氏の側近だった人物が残っている場合、意思決定プロセスにおいて影響を行使し続ける可能性は十分にある。
また、フジ・メディア・ホールディングスの株式構造や、報道部門への影響力の有無もポイントとなる。日枝氏の完全退任が本当の意味での「経営刷新」につながるかは、今後の実際の経営方針や人事動向を注視する必要がある。
視聴者や広告主からの信頼を取り戻すには、番組コンテンツの質の向上やデジタル戦略の強化も求められる。今後の動向が注目される。
【関連記事】