TCBに警察の捜査が本格化 無資格麻酔の実態が明らかに

大手美容クリニック「東京中央美容外科(TCB)」に対し、警察が違法医療行為の疑いで本格的な捜査を進めている。問題視されているのは、看護師資格を持たない美容アシスタントが笑気麻酔や塗布麻酔を投与していたことだ。警察はすでに一部スタッフを事情聴取し、書類送検している。
全国約100院を展開するTCBは、美容医療業界の大手として急成長を遂げた。しかし、ここ数年の間に雇い止めや違法な減給制度、高額契約の強要といった問題が相次いで発覚し、業界の中でもその経営体質に疑問の声が上がっていた。今回の警察捜査は、こうした企業のあり方そのものを問うものとなりそうだ。
「犯罪者扱いされた」現場スタッフが訴える苦境
「突然、警察がクリニックに来て、カルテを押収し、事情聴取を求められました。出頭しなければ身柄を拘束するとまで言われたんです」。そう語るのは、中国地方のTCBのクリニックで働いていた美容アシスタントのAさんだ。
Aさんは、週刊文春の報道によると、もともと看護師資格を持たないが、TCBでは入社時の研修で「笑気麻酔のかけ方」や「麻酔の濃度調整」を指導され、それが日常業務として定着していたという。「違法だという認識はなかった。先輩も普通にやっていたし、マニュアルにも詳しく手順が書かれていた」と話す。
掲載されたTCBの内部マニュアルには、「(無臭の空気から甘い匂いがすると伝えると一生懸命吸ってくれる為効きが早い)」などと、麻酔のかけ方について詳細な記述があった。警察はこれを違法行為の証拠と見て、捜査を進めている。
企業の問題が次々と噴出 TCBの経営体質に疑問
TCBの企業体質をめぐる問題は、今回の件だけにとどまらない。2024年9月には、100人以上の看護師が突然雇い止めとなり、現場の混乱を招いた。その後、見込み客に100万円以上の契約を強要する“閉じ込め商法”や、違法な減給制度が導入されていたことも発覚している。
経営トップも変わった。創業者で理事長だった青木剛志氏が退任し、新たに寺西宏王氏が理事長に就任。しかし、その後も問題は続き、今年2月には国税当局から9億円の追徴課税を科されたことが明らかになった。企業のトップが変わっただけでは、組織の体質は改善されなかったという指摘もある。
警察の捜査が示す業界の根深い問題
TCBのような大手美容クリニックでは、無資格のスタッフが施術に関与することが業界内でも問題視されてきた。厚生労働省は昭和40年に「無資格者による麻酔行為は違法」との通達を出しているが、現場レベルでは形骸化している可能性が高い。
TCBでは「厚労省に確認を取ったから大丈夫」との説明がスタッフに対してなされていたが、書面での保証などは一切なく、不安を抱えながら業務にあたる者も少なくなかった。ある元スタッフは「会社が守ってくれるという保証はなく、もし何か問題が起きても責任は現場に押し付けられると感じていた」と語る。
一方、SNSでもTCBの運営に対する批判が広がっている。医師であり「タイガーファンディング」の出演者でもある細井龍(ドラゴン細井)氏は、3月22日、Xで「TCBで働いている方々、退職届を出しましょう。TCBで予約を取っている人、キャンセルしましょう」と発信。この投稿は多くの共感を呼び、美容医療業界の問題点として拡散されている。
TCBは信用を取り戻せるのか 今後の対応が問われる
問題が次々と発覚し、警察の捜査が進む中、TCBが今後どのような対応を取るのかが注目されている。現場スタッフの安全を守るためにも、企業としてのガバナンスを強化し、明確なコンプライアンス体制を整えることが求められる。
業界の健全化に向けては、違法行為が常態化しないよう、国や業界団体による監視の強化も必要になるだろう。TCBの対応次第では、行政処分や営業停止といった事態に発展する可能性もある。
果たしてTCBは、経営の透明性を確保し、信頼を取り戻すことができるのか。美容医療業界全体の在り方を問う今回の問題は、業界の未来にも大きな影響を与えそうだ。