
米アルファベット傘下のグーグルは3月18日、新興サイバーセキュリティー企業ウィズ(Wiz)を320億ドル(約4兆8000億円)で買収すると発表した。全額現金取引で行われ、2026年に買収が完了する見込みだ。これはグーグルにとって過去最大規模のM&A案件であり、クラウドサービスの安全性を強化する狙いがある。
ウィズの技術を取り入れることで、法人向けのセキュリティー機能を向上させ、クラウド市場での競争力を高めることが期待される。
グーグルのウィズ買収とは?史上最大のM&Aがクラウド市場を変える
ウィズは2020年に創業された企業で、クラウド環境のリスクを可視化し、サイバー攻撃を未然に防ぐ技術に強みを持つ。企業のクラウド環境における脆弱性を特定し、攻撃の危険性をリアルタイムで分析できるシステムを提供しており、クラウド上のデータをより安全に管理できる仕組みを構築している。グーグルはこの技術を自社のクラウドサービスと統合することで、企業がより容易にサイバーセキュリティー対策を実施できるようになると見ている。
クラウド市場において、グーグルはアマゾン・ドット・コム(AWS)やマイクロソフト(Azure)にシェアで後れを取っている。企業がクラウドサービスを選ぶ際に最も重視するのは、安全性と信頼性であり、この分野での強化が市場拡大の鍵となる。
ウィズの買収は、グーグルにとってクラウド市場での競争力を向上させる戦略の一環と考えられる。ウィズは特定のクラウドプロバイダーに依存しない形でセキュリティー機能を提供しており、AWSやAzureの環境でもその技術を活用できる点が特徴だ。買収後もこの方針が維持されるかは注目される。
クラウドセキュリティーはどう変わる?ウィズの技術がもたらす革新
ウィズの技術は、クラウド上の脅威をリアルタイムで検出し、管理者に警告を送ることができる。従来のセキュリティー対策は、攻撃を受けた後の対応が主流だったが、ウィズの技術は「攻撃を未然に防ぐ予防型セキュリティー」を提供する点が特徴だ。企業はクラウド環境のリスクを直感的に把握し、脆弱性のある箇所を可視化できるようになる。
また、ウィズの技術はクラウド環境全体を俯瞰できるため、複数のプラットフォームを利用している企業にとっても有用だ。AWSやAzure、Google Cloudを併用している企業は、異なる環境のセキュリティー状況を一元的に管理できるようになる可能性がある。
AWS・マイクロソフトとの競争激化!ウィズ統合でグーグルが狙う次の一手
クラウド市場では、AWSとAzureが圧倒的なシェアを誇っている。グーグルはこれまで、データ分析やAIとの統合で競争力を高めてきたが、企業が求める「安全性」という点ではAWSやAzureに後れを取っていた。ウィズの買収によって、グーグルは「クラウド業界で最も安全なプラットフォーム」を目指す可能性がある。
AWSは既に高度なセキュリティー対策を提供しており、マイクロソフトもエンタープライズ向けの堅牢なセキュリティー基盤を持つ。ウィズの買収により、グーグルはこの2大勢力に対抗し、法人向けクラウド市場でのシェア拡大を狙う。
4.8兆円の買収は適正か?ウィズがIPOではなく買収を選んだ理由
今回の買収に至るまでの交渉は長期にわたった。昨年7月、グーグルは当初、ウィズに対して230億ドル(約3兆4500億円)での買収を提案したが、ウィズ側は新規株式公開(IPO)による資金調達を選択肢として模索し、グーグルの提示額を拒否していた。その後、グーグルが買収額を約100億ドル引き上げたことで合意に至った。ウィズは急成長を遂げており、IPOによってより高い企業価値を実現できる可能性もあったが、最終的にはグーグルの傘下に入る道を選んだ。
背景には、クラウドセキュリティー市場が急速に進化している点がある。ウィズは単独で成長を続ける選択肢もあったが、グーグルとの統合により、より広範な市場で技術を活用できると判断した可能性がある。
2026年以降のクラウド市場、セキュリティー競争はどう変化する?
グーグルは、ウィズの技術をクラウド部門に統合し、セキュリティーリスクの可視化や脅威の検知を強化する方針を示している。これにより、企業のクラウド利用における安全性が向上し、サイバー攻撃の被害を抑える効果が期待される。さらに、ウィズが開発したシステムを活用し、クラウド環境のセキュリティー管理をより直感的かつ効率的に行えるようになる可能性がある。
一方で、今回の買収は規制当局の審査を受ける必要がある。グーグルは現在、検索サービスを巡り米司法省と独占禁止法(反トラスト法)違反の訴訟を抱えており、当局がクラウド市場における競争への影響をどのように判断するかが焦点となる。グーグルによるウィズの買収が市場の公正な競争を阻害する可能性があると判断された場合、承認が難航する可能性もある。
クラウド市場は今後も成長が続くと予想されており、特に生成AIの普及に伴って、データの管理とセキュリティー対策の重要性が増している。企業がクラウドを選ぶ基準として、価格や性能だけでなく、どれだけ安全にデータを守れるかが重視されるようになっており、今回の買収はその流れを反映したものだ。今後の市場動向や競争環境の変化に注目が集まる。