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都営地下鉄大江戸線の延伸が進まない。練馬区の「光が丘駅」から「(仮称)土支田駅」「(仮称)大泉町駅」「(仮称)大泉学園町駅」の3駅を新設する構想があるが、40年以上前の計画ながら着工の目処は立っていない。物価高騰や採算性の問題が障壁となる中、練馬区は110億円の基金を積み立て、東京都と協議を続けるが、具体的な進展は見えてこない。なぜこの計画は停滞し続けているのか。
延伸計画の概要と背景
都営大江戸線の延伸計画は、現在の終点である「光が丘駅」から北西へ約4キロ延長し、3つの新駅を設置するものだ。この地域は最寄り駅まで1キロ以上離れた「鉄道空白地域」であり、住民からの長年の要望があった。
光が丘—大泉学園町間の計画は1985年の運輸政策審議会の答申に盛り込まれた。東京都も2015年に発表した「広域交通ネットワーク計画」で、大江戸線延伸を「優先的に整備すべき5路線」の一つに位置付けている。2016年の国の交通政策審議会答申でも「進めるべき6プロジェクト」の一つに選ばれ、国や都が重要視する路線であることは明らかだった。
しかし、計画から40年が経過した現在も着工には至っていない。その背景には、財政面の課題がある。
採算性が課題、積み上がる事業費
大江戸線延伸計画の最大の障壁は、事業の採算性である。2016年時点で試算された事業費は900億円だったが、建設費の高騰などにより、現在では約1500億円に膨らんでいる。
練馬区大江戸線延伸推進課の原田昭二課長によると、「鉄道事業の取得に必要となる、開業後40年以内の累積損益収支が黒字転換する見通しが立たない」ことが、着工を阻む要因となっている。
2016年の試算では、事業の費用便益比(B/C)は2.0〜2.1であり、採算が取れるとされた。しかし、コロナ禍による通勤需要の減少や、物価上昇による建設コストの増大が影響し、現在では黒字転換の見込みが立ちにくい状況となっている。
練馬区の対応:110億円の基金を積み立て
延伸実現に向け、練馬区は「大江戸線延伸推進基金」を設立し、2025年度までに110億円を積み立てる方針だ。2024年度には30億円を追加し、これまでの総額は80億円に達した。
練馬区の前川燿男区長は「区がいくら負担するのか決めなければならない」と述べており、区としても一定の財政負担を覚悟している。
しかし、これだけの基金を積み立てたとしても、1500億円規模の事業を進めるには不十分であり、東京都や国の支援が不可欠だ。
なぜ大江戸線は進まないのか?他の延伸計画との違い
東京都では、他の地下鉄延伸プロジェクトが着々と進んでいる。たとえば、東京メトロ有楽町線の豊洲—住吉間や南北線の白金高輪—品川間の延伸工事はすでに着工されている。
これらの路線が先行している理由として、収支採算性が比較的良好であることが挙げられる。とくに豊洲—住吉間の延伸は、都心部や観光地へのアクセス向上が期待され、利用者増加が見込まれている。
一方、大江戸線の延伸区間は住宅地が中心で、利用者増の見込みが立ちにくい。練馬区の推計では、延伸により沿線地域の人口が約2.1万人増加するとされているが、それだけでは採算性の確保には至らない。
今後の展望:事業化の鍵を握る要素
現在、東京都は「大江戸線延伸にかかる庁内検討プロジェクトチーム」を立ち上げ、延伸に向けた調査を進めている。都の長期計画「未来の東京戦略 version up 2024」にも、「関係者と事業化について協議・調整を進める」と明記された。
しかし、現時点で事業化の時期は明示されておらず、進展は不透明だ。今後の焦点は以下の3点となる。
1. 旅客需要の創出:延伸による通勤・通学需要の増加をどのように見込むか。
2. コストの低減:建設コスト削減の具体策をどう講じるか。
3. 財源の確保・活用:国や都の補助をどの程度引き出せるか。
東京都によると、今後の検討結果の公表時期は未定であり、延伸実現にはさらなる協議が必要となる。
まとめ
都営大江戸線の延伸は、鉄道空白地域の解消や移動時間の短縮、地域活性化の観点からも重要なプロジェクトである。しかし、40年以上の年月が経過しても事業化されない背景には、採算性の問題や建設コストの高騰がある。
練馬区が110億円の基金を積み立てるなど、延伸実現に向けた動きは進んでいるものの、具体的な着工時期は未定であり、東京都の判断次第という状況だ。今後、収支採算性の確保が最大の課題となり、どのように克服するかが焦点となる。
住民の「いつになったら実現するのか」との声に応える日は、果たして訪れるのか。
【参照】都営大江戸線延伸(光が丘~大泉学園町)(練馬区)