
日本各地で進むゴーストタウン化。少子高齢化、企業撤退、産業構造の変化によって、多くの地域がかつての賑わいを失い、急速に衰退している。その影響は地方にとどまらず、東京をはじめとする都市部にも広がりつつある。
今回は、1月25日にABEMA TIMESが報じてトレンド化している栃木県矢板市の事例を皮切りに、全国各地のゴーストタウン化した町々を紐解いていく。
栃木県矢板市:シャープ撤退による城下町の衰退
ABEMA TIMESが2025年1月25日に報じたのは、かつて「シャープの城下町」として栄えた栃木県矢板市の変容だ。1968年にシャープの矢板工場が設立され、最盛期には3,100人の従業員が働き、地域経済を支えていた。しかし、2018年12月に工場が閉鎖されると、街は急速に衰退し、駅前商店街はシャッター通りと化した。
地元のタクシー会社の従業員は「街全体が沈んでいるようだ」と語り、かつての繁栄を知る住民は寂しさを滲ませている。報道では、工場跡地に残された研修所や寮、運動場といった施設が人の気配を失い、まるで映画のセットのようだと描写されている。
SNSでも、矢板市の現状が大きな注目を集めている。ある投稿者は「昔は工場で働く人たちで溢れていた街が、今では寂れてしまった。子どもの頃、賑やかだった駅前が静まり返っているのを見てショックを受けた」と過去と現在の対比を語った。
また、「地元に戻っても就職先がない。シャープに依存していた街全体が衰退してしまった」との声もあがっており、地元を離れることを余儀なくされた若者たちの現実が浮き彫りになった。一方で、「こういったゴーストタウンにも観光の可能性があるのではないか」と、廃墟の活用に期待する意見も見られた。
全国各地に見るゴーストタウン化の実態
矢板市以外にも、かつて企業城下町として栄えた都市がゴーストタウン化する事例は全国に点在している。以下では、その背景と現状を詳しく見ていく。
北海道夕張市:炭鉱から観光業、そして財政破綻へ
夕張市は、かつて石炭産業で栄え、最盛期には12万人の人口を抱える都市だった。しかし、1960年代のエネルギー革命により炭鉱が次々と閉鎖され、観光業への転換を図ったものの、過剰投資により2006年には財政破綻。現在では人口が約6,000人に減少している。
SNSでは、夕張市に対するエピソードも投稿されている。「小学校の修学旅行で行った夕張の石炭博物館が懐かしい。でも、今ではその活気が失われてしまったのが残念だ」と、かつての観光地としてのイメージを語る声がある一方、「財政破綻後も観光で再生しようとしている姿勢には学ぶべき点がある」というコメントも見られた。
岩手県釜石市:新日本製鐵の拠点としての栄華
釜石市は新日本製鐵の拠点として、かつて高炉が稼働し、地域経済を支えていた。しかし、合理化に伴い高炉が廃止され、現在は棒線事業部が操業するのみとなった。市内の人口は減少を続け、地域の商業施設もかつての賑わいを失いつつある。SNSでは「ラグビーで有名な釜石だけど、製鉄業が衰退してからは街の勢いもなくなってしまった」という意見が共有されている。
広島県呉市:製鉄所閉鎖による経済的打撃
日本製鉄の瀬戸内製鉄所が2023年に閉鎖されたことで、呉市では約1,500人が職を失うと推計されている。鉄鋼製品の出荷額が市全体の35%を占めていたことから、閉鎖の影響は甚大だ。あるSNS投稿では、「地元の友達がほとんどいなくなった。呉市の製鉄所が閉鎖された影響がこれほど大きいとは思わなかった」との声が見られた。
北海道名寄市:国鉄城下町の現在
名寄市は、国鉄分割民営化に伴い大規模な人員異動や路線廃止が行われた影響で、地域経済が衰退。現在では駅周辺の商業地にシャッターが目立ち、かつての繁栄が影を潜めている。SNSでは「北海道の鉄道文化が失われていくのが悲しい。名寄駅がかつてのような拠点に戻る日は来るのだろうか」との意見も。
東京都汐留エリア:リモートワークが生んだ都市型ゴーストタウン
ゴーストタウン化しているのは地方だけではない。都心でも都市開発に失敗し、ゴーストタウン化した地域や施設が散見されるようになっている。
例えば、汐留エリアもそうだろう。かつて新橋駅近くの一等地にそびえるオフィス街・汐留エリアは、多くの企業本社や商業施設が集まり、都心の繁華街として賑わっていた。しかし、近年、コロナ禍によるリモートワークの普及や企業のオフィス縮小の影響で、人通りが激減。「カレッタ汐留」も例外ではなく、施設内の多くのテナントが撤退し、シャッター通りの様相を呈している。
カレッタ汐留内の飲食店では、かつては昼休みの時間帯に長蛇の列ができていたが、現在ではお昼時、人はいるが、かつての賑わいはない。それ以上に目に入るのが、空きテナントの数の多さ。実際に地元メディアは「カレッタ汐留の空き店舗率が増加している」と指摘し、かつての活気が失われた様子を報じている。SNSでは「ビルの中が薄暗く、寂しい雰囲気。これが都心なのかと驚いた」という投稿もある。
岐阜県本巣市:LCワールド本巣の廃墟モール
岐阜県本巣市にあった「LCワールド本巣」は、開業当初、多くの店舗が入居し、地域の商業拠点として期待されていた。しかし、時代の流れや競合施設の台頭により、次第に店舗が撤退。現在ではテナントがほぼ撤退し、一部の店舗が営業を続けているだけだ。「ゴーストタウンのようなショッピングモール」とSNSで話題になったこともある。
滋賀県守山市:ピエリ守山の苦難と再生への挑戦
「日本一の廃墟ショッピングモール」として一時話題を集めた「ピエリ守山」は、商業施設としての再生を目指してリニューアルを行った。現在は一部のテナントが営業を再開しているが、かつての賑わいを取り戻すには至っていない。
住民の声と未来への課題:タクシー運転手との小話
ここまでゴーストタウン化が指摘される有名な事例をあげてきた。ただ、少子高齢化が進む日本では、ここに上げた自治体以外も町の寂れ方が酷いものが目立つ。いや、寧ろさびれていない町を指摘する方が今日日難しいともいえる。ほとんどの地方で、その中核都市でもシャッターが目立ち、人通りはまばら、酷いところでは車の往来さえ減ってしまっている。
冒頭の矢板市で昨年取材の予定があり、地元のタクシー運転手に、筆者は話を聞いたことがある。運転手はこう語っていた。
「昔はシャープ工場の従業員や町の人たちがひっきりなしに使ってくれてね。仕事のある日中だけではなく、夜だって、居酒屋やスナックに繰り出しているのか、街が活気づいていました。タクシーの客もひっきりなしで、『もう少し待ってて!』と居酒屋で声をかけられるのが当たり前だったんです。でも今は、夜になると街が真っ暗で、お客さんを乗せるのもひと苦労ですよ」
その声には寂しさとともに、街が再び活気を取り戻してほしいという切実な願いが滲んでいた。
ゴーストタウンから再生へ:人が集う仕組みづくりを
日本各地で進むゴーストタウン化は、単なる地域問題にとどまらず、少子高齢化社会全体の課題を象徴している。住民の声が語るように、地域再生には「人が集まる仕組みづくり」が必要だ。観光資源の活用や新たな産業の誘致、若者世代が暮らしやすい環境整備を通じて、かつての城下町が再び笑顔で溢れる日を期待したい。