バイオベンチャー、株式会社ユーグレナが上場後初の希望退職募集を発表した。募集人数は50人程度で、これは2023年末時点の単体正社員数242人の約2割に相当する。退職日は3月末を予定しており、特別退職金が支給され、再就職支援も行われる。希望退職に伴う費用は約2億5000万円と見込まれ、特別損失として計上される。
苦境の背景と構造改革の必要性
ユーグレナは、2012年に東証マザーズに上場、その後東証一部を経て現在はプライム市場に上場している。しかし、営業損益は長らく赤字が続いており、2024年1-9月期連結決算でも営業黒字は確保したものの、純損益は赤字となっている。
同社は、この状況を打破するため、「原点回帰」を掲げた中期経営方針を加速させ、黒字体質を定着させるための構造改革に乗り出した。今回の希望退職募集もその一環とみられる。
ミドリムシの幻想と現実
ユーグレナはミドリムシの培養技術を基盤としたバイオ燃料事業などで知られ、環境問題解決への貢献を掲げてきた。しかし、同社のバイオ燃料「サステオ」は、実質的に廃油等由来であり、ミドリムシは使用されていないことが2024年3月のテレ東BIZのインタビューで判明。
この事実は、ミドリムシ由来のバイオ燃料で世界を変えるという創業当初のビジョンとの乖離を生み、少なからず投資家や消費者の失望を招くことになり、以後ますます株価は低迷。
バイオ燃料事業の難航
ユーグレナは、マレーシアにおいてバイオ燃料製造プラントの建設・運営プロジェクトを進めている。しかし、当初2025年としていたプラント完成時期は2028年に延期され、商業生産開始時期も2030年代にずれ込んでいる。さらに、初期段階ではミドリムシを使用しない方針であることが明らかになり、市場の期待とのギャップが浮き彫りとなっている。
バイオ燃料事業の商業化の遅延は、同社の業績回復への道のりをさらに険しいものにしている。
ミドリムシ由来SAFの挑戦と課題
バイオ燃料の開発は、航空業界の脱炭素化において重要なカギを握るとされる。とりわけ、微細藻類であるミドリムシを原料にしたサステナブル航空燃料(SAF)を開発するユーグレナは、かねてから投資家の注目を集めてきた。しかし、同社の取り組みを巡る現状を報じると、理想と現実のギャップが浮き彫りになったといえよう。
ユーグレナは2005年に創業し、ミドリムシの培養技術を基盤に成長してきた。同社はこれまで、ミドリムシから抽出した油脂を用いてSAFを製造するビジョンを描いてきた。だが、ミドリムシの大量培養に伴う技術的課題は依然として高い壁として立ちはだかる。報道によれば、現段階で同社が製造するSAFの多くは、他のバイオマス原料に依存しているのが実態だ。
「ミドリムシ由来の燃料」という響きは、環境意識の高い投資家や消費者にとって魅力的だ。しかし、実際には培養コストの高さや生産効率の限界が課題となり、ミドリムシ単独での商業規模生産は困難を極めている。専門家は、技術革新が進まない限り、現実的な選択肢として他の植物由来原料を併用する形が続くだろうと指摘する。
一方で、ユーグレナの経営陣は、技術開発を継続しつつ、現状の課題を克服するための戦略を模索している。同社は2024年の鶴見の実証プラント閉鎖後も、国内外での実証実験を推進し、バイオ燃料の生産量を拡大する計画を掲げている。しかし、投資家からは、事業の将来性に対する期待値の修正を求める声も出始めている。
今後の展望と課題
ユーグレナは、2025年度中の黒字化を目標に掲げ、バイオ燃料事業以外の収益性改善に注力している。ヘルスケア事業やサステナブルアグリテック事業など、既存事業の強化に加え、新たな収益源の開拓も急務となっている。しかし、競争の激しい市場環境の中で、持続的な成長を実現できるかは不透明だ。
今回の希望退職募集は、同社が抱える構造的な問題の深刻さを示すものと言える。ユーグレナは、成長神話に翳りが見え始めた今、真価が問われる局面を迎えている。
このままいくと、ユーグレナは夕暮れか。