務安国際空港で発生した済州航空機の着陸失敗事故で、滑走路先のコンクリート壁が事故の重大な要因になった可能性を専門家が指摘している。壁の存在意義や安全基準の妥当性について疑問の声が上がり、調査の行方が注目される。
専門家の見解
12月29日午前、済州航空の旅客機が韓国全羅南道の務安国際空港への着陸時に滑走路をオーバーランし、ローカライザーアンテナ(着陸誘導施設)とコンクリート壁に衝突、炎上した事故。イギリスの航空専門家、デビッド・リアマウント氏は、コンクリート壁がなければ生存の可能性が高かったと指摘する。
「操縦士は可能な限り最善の着陸をしたと思われる。着陸滑走が終わるころには機体に大きな損傷はなく、火災も発生していなかった。しかし航空機が非常に堅い何かにぶつかったことで火炎に包まれ、それにより搭乗者らが負傷した」とリアマウント氏は語る。
彼はさらに、「滑走路からわずか200メートルと距離にあのようなコンクリートの壁があるというのは世界中で見たことがない」と付け加えた。他の専門家からも、滑走路先に十分な緩衝地帯があれば被害を軽減できたという意見が出ている。
コンクリート壁の構造と問題点
務安国際空港のローカライザーアンテナは、盛り土の上の強化コンクリートに設置されていた。アンテナ自体は地面に設置されるのが一般的であり、このような構造は異例と言えるとのこと。また、コンクリート壁の高さも問題視されている。高さ3~4メートルの壁は、オーバーランした航空機にとって大きな障害物となった。
ローカライザーアンテナとは
ところで、このローカライザーアンテナ(着陸誘導施設)とは何か。航空機が滑走路に着陸する際、安全を確保するために使われる装置とのこと。ローカライザーは、計器着陸装置(ILS)の一部として機能し、航空機に滑走路の中心線に沿った水平誘導を提供する装置のようだ。通常、ローカライザーアンテナは滑走路の末端に設置されている。発信する電波を航空機が受信し、自機の左右の位置を正確に把握する仕組みを持ち、この信号により、航空機は滑走路の中心に向けて進入できる。
ローカライザーの重要性
ローカライザーアンテナは、特に視界不良時にその役割が重要になる。悪天候や夜間でも、航空機はこのシステムを頼りに正確な着陸ができる。さらに、自動操縦システムとも連動し、精密な進入を支援する。このため、パイロットの負担軽減と安全性向上に寄与している。
他空港との比較
仁川空港では、滑走路先のローカライザーアンテナは、地面に埋め込まれたコンクリート構造物の上に設置されており、高さも7.5cm以下に抑えられている。2016年にはUPS貨物機がオーバーランしローカライザーに衝突する事故が発生したが、この構造のおかげで乗員は全員無事だった。
また、2015年4月に広島空港のアシアナ航空機の不時着事故の際も、航空機は滑走路を外れてローカライザーと衝突したが、乗客81人のうち27人が軽傷を負っただけで犠牲者は出ていない。アシアナ航空機は時速200キロと非常に速く、衝突後に機体の破損とエンジンの炎上があった。
いずれの事故も務安空港との構造の違いが、被害の大きさに影響した可能性がある。
国土交通部の見解
韓国の国土交通部(日本の国土交通省に相当)は、ローカライザーアンテナの設置場所について「空港ごとに様々なケースがあり、規格化された形態は定まっていない」と説明している。また、コンクリート構造物についても安全基準に違反するものではないとしている。
しかし、専門家からは基準の曖昧さや実効性について疑問の声が上がっている。リアマウント氏は「(コンクリート外壁が)その場にあるべき理由はまったくなく、その場にあることは犯罪に近い」と厳しく批判している。
今後の対策と課題
今回の事故は、空港の安全基準の見直しの必要性を改めて浮き彫りにした。専門家の意見を踏まえ、ローカライザーアンテナの設置基準や滑走路先の安全地帯の確保など、具体的な対策が求められる。国土交通省は事故調査委員会を設置し、原因究明を進めている。
調査結果を踏まえ、再発防止策を早急に講じる必要がある。また、他の空港についても同様の危険性がないか、徹底的な点検を行うべきだ。