業界最大規模の消費者被害、背景に「過当競争」と「前払いモデル」の課題
医療脱毛大手「アリシアクリニック」を運営していた医療法人社団「美実会」(さいたま市)と一般社団法人「八桜会」(東京都)が12月10日、東京地裁に破産を申請した。
負債総額は124億円を超え、債権者は9万1818人にのぼる見通しで、エステ業界では過去最大規模の倒産となるとみられている。突然の営業停止と破産申請は、利用者に動揺と困惑を与えた。
「突然すぎて信じられない」困惑する利用者たち
アリシアクリニックは首都圏を中心に全国で約40店舗を展開。有名俳優を起用した広告戦略によって認知度を高め、低価格での全身脱毛プランを提供していた。多くの利用者が事前の支払いを済ませており、一部では10万円から30万円を超える未施術分が残っているケースもある。
東京・渋谷の店舗を訪れた利用者の一人は、「全身脱毛で30万円を支払っていました。倒産なんて全く気配がなかったので、本当に驚きです」と話した。また、別の男性利用者は「12月11日に施術予約を入れていたのですが、突然営業停止の知らせを知り、やり場のない気持ちです」と戸惑いを隠せない様子だった。
同クリニックの公式ウェブサイトには、「未施術分の返金は極めて難しい」という記載があることから、経済的な打撃を受ける利用者が続出する可能性が高い。
相次ぐ大手脱毛サロンの倒産、その背景とは
近年、脱毛業界では大手を含む倒産が相次いでいる。昨年には脱毛サロン「銀座カラー」を展開していた企業も倒産し、同様の前払いモデルによる消費者被害が問題視された。広告費に過剰な投資を行っており、業界全体が過当競争に陥っていることが要因と考えられる。現況は、前払い金を事業拡大の原資として活用する自転車操業型のビジネスモデルをとっている企業が多いのではないか。
新型コロナウイルス感染拡大による来客数の減少や、消費者のセルフエステ需要の高まりも経営悪化を加速させた要因と考えられる。エステ業界全体では、今年10月末までに87件の倒産が確認されており、過去最多を更新する勢いだ。
SNSの声から見える消費者の課題
アリシアクリニックの倒産に対し、SNS上でも多くの意見が寄せられている。「広告が多すぎる店舗は注意したほうがいい」「前払いシステム自体に問題がある」といった声がある一方で、「自分も契約していた。どうしよう」「返金されないなんてひどすぎる」といった利用者の悲痛な訴えも目立つ。
また、「都度払いにすべきだ」「法規制で消費者を守るべきだ」といった意見も散見され、業界全体のビジネスモデルや規制の在り方に疑問を投げかけるコメントが少なくない。
破産後はどうなる
アリシアクリニックは倒産して破産手続きが開始されたので今後はどうなるのだろうか。アリシアクリニックの財産は破産管財人(弁護士)の管理下に置かれる。利用者が返金等についてクリニックと直接交渉することはできなくなる。利用者は、債権者届」を破産管財人に提出し、破産管財人の作成する債権者名簿に登録された後、破産管財人からの連絡を待つしかないというのが現実的なところだ。
また、清算は、税金や社員の給料などの優先債権への支払いを終えてから行われるため、利用者への返金はほとんど期待できないと言える。
消費者保護のための制度改革が急務
今回のアリシアクリニックの倒産は、消費者保護の観点からも大きな課題を残した。高額な前払い金を伴う契約方式が消費者リスクを高めている点は明らかであり、被害を未然に防ぐための制度改革が求められる。フランスやドイツなどの欧州諸国では、前払い金を一定額に制限する法律が整備されている例もある。
日本においても、消費者庁や政府が業界への規制強化や法整備に乗り出すべき時期が来ているのではないだろうか。利用者を保護しつつ、持続可能な産業としての発展を目指すため、今後の対応が注目される。