デジタルIDは、インターネット時代における新たな身分証明の形として注目されています。
特に、ブロックチェーン技術を活用した分散型のデジタルIDは、信頼性が高く、新興国における社会的インクルージョンの推進において重要な役割を果たすでしょう。
本稿では、デジタルIDとESG(環境・社会・ガバナンス)の関連性、ブロックチェーンがもたらす未来の可能性について考察します。
デジタルIDとは
デジタルIDは、個人がインターネット上で自分の身元を証明するための電子的なアイデンティティです。
これは、パスポートや運転免許証などの物理的なIDのデジタル版と考えられますが、その役割はより広範囲に及びます。
例えば、オンラインバンキングや政府サービスへのアクセス、個人データの管理など、デジタルIDは現代社会のさまざまなサービスに不可欠な要素となりつつあります。
特に新興国において、従来のIDシステムが整備されていない地域に対して、デジタルIDは新たな社会参加の手段を提供する可能性があるでしょう。
新興国における社会的インクルージョンの課題
新興国では、多くの人々がIDを持たないために、金融サービスや社会的支援へのアクセスが制限されています。日本では当たり前の銀行口座の開設や選挙への参加も、容易なことではありません。
デジタルIDは、これらの人々に新たな機会を提供し、社会的インクルージョンを促進する鍵となります。
例えば、デジタルIDを持つことで、銀行口座を開設し、ローンを利用することができるようになり、経済活動に参加する道が拓かれます。
また、選挙へのアクセスが可能になり投票率が向上すれば、政治的な意思決定に参加する権利も保障されるでしょう。
ブロックチェーンとデジタルIDの革新
ブロックチェーン技術は、デジタルIDの分散型管理を実現するための手段です。従来の中央集権的なIDシステムでは、個人情報が一元的に管理されるため、データ漏洩やハッキングのリスクが伴います。
しかしブロックチェーンを活用すれば、データは分散型ネットワークに保存され、改ざんが不可能となるため、信頼性とセキュリティが飛躍的に向上するでしょう。
SDGs(持続可能な開発目標)目標16.9では、「2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供すること」を掲げています。
この目標は、特に新興国において法的な身分証明を持たない人々に対し、法的権利とサービスへのアクセスを保障するための重要な目標です。
デジタルIDは、この目標達成に向けた革新的なソリューションとして注目されており、出生登録が整備されていない地域においても、法的な身分証明を簡便に提供できる可能性を秘めています。
デジタルIDとESG投資
ESG投資の「S」(社会)は、企業がどのようにして社会に貢献し、包摂的な成長を実現するかが評価される基準です。
デジタルID技術は、特に金融包摂や社会的インクルージョンを促進するための手段として、ESG投資の社会的側面に貢献しています。
例えば、デジタルIDを利用することで、これまで金融サービスを受けられなかった人々が経済に参加できるようになり、企業や投資家はこの技術を活用するプロジェクトに投資することで、持続可能な社会構築に寄与することができるでしょう。
ガバナンス強化におけるブロックチェーンの役割
ESGの「G」(ガバナンス)においても、ブロックチェーン技術は役割を果たします。デジタルIDが分散型で管理されることで、政府や企業による中央集権的なデータ管理のリスクが軽減されるからです。
また、透明性の高いシステムを構築することで、データの改ざんや不正行為を防ぎ、ガバナンスの強化にもつながります。
このような仕組みは、企業や政府に対する信頼性を高め、ESGを重視する投資家にとっても魅力的な要素となります。
インクルーシブで公平な未来を築くために
ブロックチェーン技術を活用したデジタルIDの普及は、特に新興国においてインクルーシブで公平な社会を実現するための重要な手段です。
デジタルIDによって法的な身分証明が可能になれば、金融サービスや社会的支援、教育、医療などへのアクセスが改善され、多くの人々が基本的な人権を享受できるようになります。
ESG投資は、この技術を支援し、持続可能な未来を築くための重要な要素であり、デジタルIDの導入と普及を進めることで、より良い社会の実現に向けて貢献できるでしょう。
出典・参考:
ブロックチェーン技術等を用いたデジタルアイデンティティの活用に関する研究|株式会社野村総合研究
デジタル時代の社会基盤「デジタルID」|日本総研
次回のコラムでは、「ブロックチェーンによる循環型経済とESG」について解説します。