法律事務所として中小企業等の法務対応をしている弁護士法人 永 総合法律事務所。今回は「障害者雇用」について紹介します。
1 人材の積極的な活用
最近では、企業においてもダイバーシティ、多様性などの価値観を尊重することはますます重要になっています。
障害のある方について、その適性を見極め、その人にあったポジションで働くことができれば、企業にとって重要な人材になることはいうまでもありません。
企業としては、障害の有無にかかわらず、あらゆる人材を積極的に採用、活用していくことが求められているといえ、障害者雇用はその取り組みの一つであるといえます。
2 障害者雇用促進法について
我が国では、障害者雇用をはじめとし、障害のある方々が能力を発揮することを支援するため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「障害者雇用促進法」といいます。)を定め、民間の事業主、国や地方公共団体に必要な措置を求めています。
ここでは、主として、事業主を対象としている部分について見ていきます。
① 障害者雇用率制度
第43条1項では、「事業主…は、…その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数…以上であるようにしなければならない。」としており、従業員が一定数以上の規模の事業者に対し、障害者の雇用率を法定雇用率以上とするよう求めています。
具体的には、民間企業における現在の法定雇用率は2.3%であり(国や地方自治体の場合2.6%、都道府県等の教育委員会の場合2.5%)、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならないこととなります。
一般的に「障害者雇用枠」と呼ばれるものについては、この雇用率に関するものを指していることが多いと思われます。
「障害者雇用率」について対象となる「対象障害者」は、障害者雇用促進法第37条2項で、「身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第四十五条第二項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る。第三節及び第七十九条第一項を除き、以下同じ。)をいう」としており、必ずしもすべての障害者の方が対象となるわけではないことに留意が必要です。
そこで障害者雇用促進法第2条各号の定義をみると、「障害者」について1号で、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」としており、「身体障害者」については、通常の身体障害者を同2号で、「障害者のうち、身体障害がある者であって別表に掲げる障害があるものをいう」、重度の身体障害者を同3号で、「身体障害者のうち、身体障害の程度が重い者であって厚生労働省令で定めるものをいう」と定義しています。
「知的障害者」については、通常の知的障害者を同4号で、「障害者のうち、知的障害がある者であって厚生労働省令で定めるものをいう」、重度の知的障害者を同5号で、「知的障害者のうち、知的障害の程度が重い者であって厚生労働省令で定めるものをいう。」と定義し、「精神障害者」も同様に、同6号で、「障害者のうち、精神障害がある者であって厚生労働省令で定めるものをいう。」と定義しているのです。
上記の定義からすると具体的に対象障害者に当たるのかは厚生労働省令などを見たうえで検討する必要があるわけですが、一般的にいえば、身体障害者の方であれば、身体障害者手帳の交付を受けている方、知的障害者の方であれば、各自治体が発行する「療育手帳」や知的障害者判定機関の判定書を持っている方、精神障害者の方であれば、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方や統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む)、てんかんの方などが対象となり得るところです。
② 障害者の方に対する差別の禁止
障害者雇用促進法第34条では、「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない」とし、同35条で「事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない」と定め、障害者の方に対する直接差別を禁止しています。
なお、上記の規定における「障害者」については、各種障害者手帳を所持していない場合でもその対象となります。
直接差別とは、障害者であることを理由に差別することを指しますが、具体的には、障害者であることを理由として、募集又は採用の対象から排除すること、募集又は採用にあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと、採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用することなどの扱いがあげられます。
③ 障害者の方に対する合理的な配慮の実施
障害者雇用促進法第36条の2~4では、障害者の方に対し、事業主が障害者の方に対して合理的な配慮を尽くすよう求めています。
ここでの「障害者」についても、各種障害者手帳を所持していない場合でもその対象となります。
具体的な措置としては、第36条の2で、「労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない」とし、主として採用段階での配慮(例:面接を筆談等により行うことなど)を求めています。
第36条の3では、「障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない」とし、主として職務遂行における必要な措置(例:机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと)を求めています。
第36条の4では、第2項において、「その雇用する障害者である労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」とし、上記で述べたような各種措置を実施するための相談体制等の整備を求めているのです。
また、募集、採用段階の配慮については、障害者の方から必要な措置を行うよう申し出る必要があります。
これに対し、採用後の措置については、申出の有無にかかわらず事業主から職務遂行上の支障となっている事情を確認する必要があります。
なお、採用の応募時点で障害の配慮について申出を要する募集枠や採用後の配慮措置を前提して採用を行う採用枠をもって「障害者雇用枠」と呼称している企業も見受けられます。
いずれにおいても、事業主にとって過重な負担を求める趣旨ではないため、必ずしもあらゆる配慮を尽くさなければならないというわけではなく、合理的な範囲で実施可能な措置を行うことで足りるものです。
3 障害者雇用のメリット
障害のある方であっても、障害のない人と区別なく採用していくことは、以下のようなメリットがあり、積極的に検討する価値があります。
① 業務見直しのきっかけ
障害者の方に能力を発揮してもらうためには、職場環境の整備はもちろんのこと、業務内容も精査し、障害特性に応じた業務の割り当てを考える必要があります。
障害者雇用はこれまでの業務を見直し、最適化していくための一つの重要な機会といえるでしょう。
② 多様な人材の確保
身体などに一部障害があるとしても、それ自体は障害特性として個性の一つであり、障害がない人と変わりのない生活を送っています。
これまで障害が理由で就職機会に恵まれなかった人材の採用を積極的に行えば、それだけ優秀な人材と巡り合う機会も増えるといえるでしょう。
また、障害者雇用を活用し、新しい人材を雇い入れることで、異なる視点や価値観を企業に取り入れることができます。
③ 助成金制度の利用
障害者の方を一定期間雇い入れる等、条件を満たした場合には助成金などを受け取れることがあります。これにより、社内環境、社内施設の改善、整備等に関する負担を軽減することができます。
4 まとめ
障害者雇用は、多様な人材の確保のための重要な取組みの一つであり、一定規模以上の企業では、対象障害者の方について障害者雇用率の充足も求められているところです。
もっとも、障害者雇用を円滑に進め、その能力を発揮してもらうためには、既存の労働者の協力や理解が必須であり、制度だけを充実させればそれでいいというものではありません。
障害のある方もそうでない方も、お互いに理解を深めながら能力を発揮できるよう、事業者としては心を砕いていく必要があるといえるでしょう。
◎執筆者プロフィール
弁護士法人 永 総合法律事務所 所属弁護士
菅野 正太(かんの しょうた)
上智大学法学部法律学科 卒業
早稲田大学大学院法務研究科 卒業。中小企業法務、不動産取引法務、寺社法務を専門とする弁護士法人永総合法律事務所の勤務弁護士。
第二東京弁護士会仲裁センター委員、同子どもの権利委員会委員
弁護士法人 永 総合法律事務所HP:https://ei-law.jp/
寺社リーガルディフェンス:https://ei-jishalaw.com/