ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

マイナカード時代の「アンチDX」の儲けしろ

コラム&ニュース コラム
リンクをコピー
imadoki 2 TOP

最近の経済現象をゆる~やかに切り、「通説」をナナメに読み説く連載の第2回!

マイナカードはなぜマイナ“トラブル”カードとなったのか

マイナンバーカードの失態が続いている。失態続きに呆れてマイナンバーカードの返却も起こっている。政府は失態の言い逃れに汲々としているが、「なんなら返却も可」、でも従来の保険証廃止の日程は変えず、新たに300億円を投じて「資格確認証」を発行するという。それって意味あるの?と思うのはワタシだけではないだろう。

政府は、7月19日より個人情報保護委員会にデジタル庁を立入検査させている。政府が進めたマイナンバーカードの問題を同じ政府機関が検査したとして、いったい何が出てくるのだろう。出てくるのは“丁寧に説明”できる言い訳だけのような気もする。

政府がマイナンバーカードの普及を急ぐのは、コロナ給付金の給付の際に不手際やトラブルが相次ぎ、時間差が生まれたことにある。山口県のある町で個人に町民全員の給付金が振り込まれてしまい、大問題になったことは記憶に新しいところだ。

そうならないために、マイナンバーカードに金融機関の振込口座を紐づけし、コトが起こった際には国民に一斉に給付できるようにするというのが目的だったはず。

マイナカードがマイナ“トラブル”カードと化したのは、1つのカードに機能を紐づけ過ぎたことにある。ワンストップでさまざまなサービスが利用できことは、利用者にとってありがたいことだが、一気になんでもかんでも取り込んでしまうと、トラブルになるのは過去の様々な事例が物語っている。

保険診療医の任意団体・全国保険医団体連合会によれば、マイナンバーと一体化した保険証の読み取りでシステムを導入している医療機関のうち65.1%がトラブルを経験しているという。

そりゃ、返却したくなって当然だ。

チェックは機能せず、現場に丸投げ。責任は誰も取らない美味しい官製方程式

そもそもこうした巨大プロジェクトを一気呵成に進める時には、十重二十重のチェック機能を用意しておく必要がある。行政のコロナ対応といい、今回のマイナカードの急展開といい、平時の人員では対応できるはずがないわけで、漏れや誤認、不手際が起こるのは当然といえば当然だ。

失敗を糧に再挑戦するのは、人として、組織として正しい。だがいくらフレームやプラットフォーム、名称、人を変えても、チェック機能が変わってなければ同じ過ちは起こる。だいたいこういったケースの増員は、人材派遣会社や大手広告代理店に丸投げで、その元請け会社も下請けに丸投げで、そのための「なんちゃら実行委員会」とかアドホックな「凸凹運営法人」などがあったりして、お金は抜くけど責任を取らないという、一部関係者に美味しい方程式が活用されることになっている。

まだまだ高いFAX普及率。キャッシュレス化目標は未達

DXは進めるべきだが、それを推進する人たちがアナログな思考のままでは進まないのである。
確かにコロナ禍でDXはかなり進んだ。この3年、財布から現金を取り出すことが俄然少なくなったと思うのは、ワタシばかりではないと思う。設定は面倒だが、なんちゃらPayやクレジットのタッチ決済は、一度使うと病みつきになる。これは、人々の間にコロナで紙幣や貨幣を通じたウイルスのやり取りを極力避けたいという心理が働いたことが大きい。また紙幣や貨幣を持ち歩く不安軽減の心理作用もある。

それでもまだまだ現金のみで商売をしている店や人々はいる。2021年の日本のキャッシュレス化率は32.5%(経産省データ)だ。年は1年古くなるが、諸外国を見てみると韓国が93.6%、中国が83.0%と、“ほんまかいな”と思うほど進んでいる。他にはオーストラリアが67.7%、イギリスが63.9%、シンガポールが60.4%、カナダが56.1%、アメリカが55.8%と軒並み半数以上、フランスが47.8%、スウェーデンが46.3%と意外と欧州・北欧が低い。それでも日本より進んでいる。日本は2020年まで、キャッシュレス化率を40%まで引き上げる予定だったが、未達だ。

日本におけるアンチDX市場の「儲けしろ」

キャッシュレス化はDX普及のバロメーターと言えるが、翻って国や関係者の思惑ほどDXが進まないのは代替コストに比べ、メリットが見いだせないことが大きいと考える。もっと言えば「アンチDX」のほうがまだまだ“儲けしろ”がある。

ワタシは大小のものづくり企業の現場で話を聞くことが多いが、コロナ禍のなか企業連携で生き残りをかけている両毛地区の部品製造会社を訪ねたことがある。

従業員数10名ほどの2代目社長は、日本の製造拠点の中国シフト、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナの苦悩をひとりしきり語った後、国が進めるDXについて言及した。

曰く「いずれ対応するが、当分はいまのままで十分だ。むしろFAXの顧客を重視していきたい」と。

その会社の場合、注文は9割以上をFAXで請ける。残りは電話で、メールは一切使っていないという。

東京の大手ITコンサルティングや経産省の識者の方々なら、「そんなことだから日本の製造業の生産性が上がらないのだ!」と尤もらしい口上を述べるに違いない。

しかし、そういった方々はそもそも生産性を履き違えているのかもしれない。現状の最低限の投資(資金だけでなく、時間や習熟コストなど)で最大のリターンを得ることを考慮すれば、大手と中小の生産性の定義や公式も自ずと変わるはずだ。

3次元CADを学んで、会社で2次元CADからやりなおす高専卒業生

もともとFAXと製造業は相性がいい。2次元の図面に注意点を手書きで添えてセットして、送信ボタンを押せば発注は完了する。

細かいことは、受け手と電話で確認すればこと足りる。公差や材料特性については、受け手の下請けメーカー側のほうがノウハウがあることが多いので、場合によっては受け手側が設計図を引き直して提案することもある。とくに小ロットで多品種をやり取りする場合は、図面をFAXでやり取りするほうが手っ取り早い。

工業高校や工業高専では、3次元CADを使った授業が進んでいるが、彼ら彼女らの主な就職先となる中堅・中小メーカーでは、3次元CADが十分行き渡っているとは限らない。

いうまでもなく3次元CADは導入コストが高い。ハードも一式揃える必要があるし、高額なソフトも必要だ。導入しても使いこなすにはソフトベンダーから長時間指導を受ける必要がある。自社だけでなく、取引先も互換性のあるシステム環境を整えていく必要もある。

それゆえ、こうした企業では新卒者に2次元CADから教え直すという。つまり新卒者は数年かけて学んだ3次元CADの技能は当面は活かせず、採用した企業側も人材として活かすまで余計な時間がかかっているのが実情なのだ。

新人の悩みと迷いを描き出す、2次元のポンチ絵

無論、資金に限りがある弱小メーカーは2次元CADで十分というつもりは毛頭ない。ただ2次元から3次元を想像するのには、思考の技術が要る。3次元CADに頼り過ぎると、そういう想像力が働かないのか、大手メーカーでは人が育っていないと嘆く中小の下請けメーカーの社長も少なくない。

最新の3次元CADを持つある中堅メーカーでは、新人はまずラフで仕上がり製品と設計図を描かせる、いわゆる“ポンチ絵”を描けるようにするところから育てる。そこから2次元CAD、3次元CADへとステップアップさせている。ポンチ絵・2次元にこだわるのは、新人や未熟練者の「迷い」がわかるからだ。新人や未熟練者は、何度も線を引き直す。消しては描き、描いては消すうちに、その思考や技術のレベルが見え、何をアドバイスすればいいかが見えてくるのだという。FAXはこうしたポンチ絵・2次元CADと相性がいいのである。

FAXはサイバーテロに強い?!

FAXは、ものづくり企業以外でも重宝されている。知られるところでは不動産業界や建設業界だ。平面図、設計図はFAXのほうがやり取りしやすいし、受け取ってそのままファイルもできる。細かい書き込みもしやすい。また小売店・飲食店などの受発注もFAXが多い。

コロナ禍で状況は刻々と変わっているかもしれないが、キャッシュレスの普及率と比しても、現場のFAX活用率はまだ相当高いはずだ。

総務省の調査ではFAXの世帯普及率は31.3%(2021年)。およそ3軒に1軒がFAXを使っている。対前年比では2.7%マイナスとなっているが、この先、この比率が劇的に下がるとは考えにくい。

加えてセキュリティ面を考慮するとDX化は諸刃の剣でもある。

DX化が進めば、外部とのネットワーク化が求められるため、サイバー攻撃の対象になりやすくなるからだ。当然セキュリティ対策が必要になるが、逆にFAXを軸としたオフラインコミュニケーションであれば、その心配はまずなくなる(一部高機能多機能カラーFAXには、サイバー攻撃の例がある)。

日本に対するサイバー攻撃の数は上がっている。それでも経済規模からすればまだ少ないというIT専門家もいる。理由はデジタル化、IoT化があまり進んでいないからだという。

皮肉、ともとれなくもないが、傾聴に値する指摘だ。

パラダイムシフトが進行する時は、旧市場を積極的に取るのもアリ!

大きなイノベーションやパラダイムシフトが起こる時、マーケットは大きく動く。だがそれは全体が一気にシフトするわけではなく、さまざまな層や規模の市場が、それぞれの速度で変化し、分化していく。その時どの層、どのマーケットを取り込んでいくかは、自社が持つアセットをしっかり考慮しながら適応することがポイントだ。少なくとも周囲に踊らされてトラブルを続出させるような拙速だけはゴメンだ。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

Tags

ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

タグ