はじめまして、福岡市で歯科医院を経営しております歯科医師の角田智之(つのだともゆき)と申します。
私の経営する医院は「つのだデンタルケアクリニック」と申しまして、予防と舌痛症診療の二つを主軸とした診療を展開しております。
今日は、当院の社会貢献というテーマでコラムを書かせていただきます。
~予防と舌痛症診療を通して社会にはびこる“体と心の不健康”の根絶を目指す~
当院の存在目的は、“当院に縁のある人の幸せに貢献する”ことであり、理念は“当院は、予防と舌痛症診療を通して、全スタッフの物心両面の幸せ追求と、一人でも多くの患者さんに対し予防の新たな価値を創造し、*選択理論を広めることで社会に貢献します”を掲げています。
予防歯科は事前対応?
まず、予防歯科は防災と同様に私たちの多くが苦手とする“事前対応”ですが、その予防が健康にもたらす効果は小さくありません。
そのことを、患者さんにお伝えするべく日夜スタッフ一同奮闘しております。
特に歯周病は症状なく進行するため、定期的な口腔内のメンテナンスが予防に効果的であり、かつ常時細菌が多い口腔内の感染管理が重大な全身疾患を予防していることを是非とも気づいていただきたい、そんな思いです。
私は医院経営を始めて15年くらいになりますが、初めから予防歯科にシフトしていたのではありません。開業当初は、患者さんを沢山みて経営を安定させようと、医院理念もなく稼ぐことが目的でした。
そんな中で、患者さんが治療途中で痛みが止まったため通院を中断してしまい、再び来院されたときは、歯の崩壊が激しく抜歯になってしまいました。
こんなことが数多くあり、このままただ治療だけしていればよいのだろうか?と次第に疑問を感じるようになりました。
そこで本当の意味で患者さんに貢献するということはどういうことなのか、と考えた結果、7年前に治療を最小限にして予防を主体にした診療にシフトすることにしました。
患者さんに診療方針を転換したことを知っていただくために、多額の借金をして診療所の移転もしました。これが、現在まで続く苦難の始まりでした。
患者さんから「こんなことしてたら潰れるぞ!!」と言われ窮地に。
診療を予防にシフトした当初は、スタッフも予防は大事なことだからとついてきてくれていました。しかし、予防はまず患者さんに予防の重要性を理解していただかないと始まりません。
当院の予防システムは、予防したい患者さんはもちろんですが、歯が痛くて治療を希望した患者さんに対し、もちろん最初に痛みはとります。
ただ、苦痛をとった後は、治療を進め終わらせるのではなく、唾液検査など各種検査を行い、その患者さんの現在のお口の状態を評価し、虫歯の成因や歯周病の進行をご理解いただき、検査結果をもとにした患者さんと一緒にセルフケアを学ぶ予防プログラムの提供をおこなっています。
これは、およそ一般の歯医者さんが行わない取り組みですが、患者さんに自分の口腔内に興味を持ってもらい自ら予防行動へとつなげていただく習慣形成に非常に効果的です。
しかしながら、当然しっかりとした予防知識と技術を習得していただくので時間がかかります。
患者さんは、多忙な方も多いため、あと何回かかりますか?いつになったら治療してくれるのですか?暇ではないので、すぐ終わらせてください!等と言われる患者さんも多くおられ、挙句の果てには“こんなことしてたら潰れるぞ!”と言い残し去っていった患者さんも実際におられました。
徐々に患者さんが離れていき、スタッフも不安になったのでしょう“もしかしたら潰れるかもしれないし、院長の方針にはついていけないと、移転後半年で、スタッフ一人を残して一気に退職してしまいました。
この時ばかりは、私も終わったなと絶望し、閉院することを真剣に考えました。あの時の絶望感はいまでも忘れられません。
しかし、一人残ってくれたスタッフとともに本当に患者さんに貢献することを考え、診療方針を変えず、なんとか苦境を切り抜けることができました。
いまでは方針に共感してくれたスタッフが新たに入職し、当院を支えてくれています。
苦難から生まれた理念の完成
そんな状況だったからこそ、スタッフにまず貢献しようと考え、今の理念ができあがりました。
ただ、歯科の予防は治療しないようにすることが目的の一つです。歯科医院は歯を削ることで利益を得ている面は否定できません。
そのため、経営的には非常に苦しいですが、あえて予防の重要性を訴え続けていくことが、私たちにできる社会貢献ではないかと考えています。
国も予防の大切さには言及しますが、実際にはあまりお金を使っていないのが現状ではないでしょうか。
ここでいかに私たちのモチベーションを維持するかですが、ひとえに世のため人のために行う事業は必ず成功するという信念です。
歯医者は”痛いときに行くところ”から“痛くなくて(メンテナンスに)行くところ”に世の中の常識をシフトし、一人でも多くの方に予防通院を習慣化し、口腔の健康から全身の健康に対する行動につなげたいと考えています。
舌痛症の診療~私のライフワーク~
当院の主軸の二つ目ですが、それが舌痛症です。舌痛症の改善は、私のライフワークでもあります。
舌痛症(ぜっつうしょう)とは舌が痛くなる病気です。原因は不明ですが、心理的要因が大きく関わっていると考えられています。いわゆるストレス病です。
舌痛症の痛みの種類としては、ひりひり、ピリピリ痛いという軽度のものから、焼けるように痛い、舌がしびれる、味がおかしいなど、多彩な症状を呈します。
さらに、唇もひりひりするや顎の裏も痛いなど、舌の領域を超えて症状を出している場合も少なくありません。
また、食事の時や就寝時に痛みはあまりなく、痛みでとび起きてしまうことも希で、ほか何かに集中している時は忘れていることもあるようです。
この舌痛症という病気は、我々医師の間ではストレスによる病気で、治りにくいという認識が一般的です。
あまり知られていない病気ですが、歴史として大正時代からあるようです。舌の痛みは、さらに古くからあると思われますが病名がついたのがこの時期ではないでしょうか。
難民化する舌痛症患者
舌痛症の患者さんは、舌が痛み、がんやほかの病気を考え不安になり、まず耳鼻科や歯科を受診します。
そこでは、舌に何もないので、“がんはありません、良かったですね。舌痛症といって、ストレスで痛むこともあります。しばらく様子を見れば自然とよくなりますよ”と言われることが多いようです。
しかし、これは、がんはなくても、医者が症状に対して“さじ”を投げてしまったことになってしまいます。
やはり痛みが続くため、内科、外科、大学病院、整骨院など、あらゆる診療科を受診し、“漢方を出してみましょう”、“この薬を使ってみましょう”とのことで、しばらくは治療しますが、あまり改善せず、結果的にあきらめてしまう患者さんが多いようです。
しかし、症状の強い患者さんでは日常生活に支障をきたしているケースもあります。その患者さんは、最終的には心療内科または精神科を紹介され、抗うつ薬を処方されることが多くみられています。
舌が痛いのに、抗うつ薬?と心療内科や精神科で疑問を伝えると、“これはうつ病を治すわけではなく、脳内の神経伝達物質を調整して、痛みをとる効果があります。
だから、ちょっと飲んでみましょう。少し楽になると思いますよ”と言われているのではないかと思います。ここで考えてみると、うつ病ではなくても、抗うつ剤を飲むことは変わりありません。
飲むことで、リスクは必ず生じてしまいます。飲み初めてしまうと、飲み止めることができなくなってしまう可能性もあります。
しかし、お薬と同じ効果が心理療法で可能だとしたらどうでしょうか?逆に心理療法で改善可能ならば、抗うつ薬を飲むリスクはありません。
舌痛症のカウンセリングもたらす本当の価値
この舌痛症や他心因性の病気は心理的原因によって引き起こされます。
心療内科や精神科での抗うつ薬や抗不安薬は症状の改善には有効ですが、原因がその方の心理的要因によりますので、いわばその方の抱える大なり小なりの“不幸”が原因といえないでしょうか。
私は、その“不幸”を丁寧にカウンセリングにて聞き出し、その“不幸”への対処を一緒に考えていきます。
カウンセリング手法として、私が使用しているのが*アメリカの精神科医ウィリアム・グラッサーが提唱した選択理論心理学に基づいたリアリティ・セラピーという心理療法です。
そのために、日本選択理論心理学会の認定資格である選択理論心理士を取得しました。
舌痛症のカウンセリングをしていると、やはり心理的要因が背景にあることがほとんどです。
例えば、過去の後悔をずっと引きずっていたり、近親者の死が今も受け入れられなかったり、経済や病気の不安が絶えなかったり、現在の夫婦や家族、会社、コミュニティでの人間関係に悩んでいたりと様々な大なり小なりの“不幸”がうかがえます。
この不幸に対し、患者さんと一緒になって真摯に対峙することで症状の改善を目指します。
これを続けていれば、不思議と舌の症状だけではなく、他の病院でどこも悪くないといわれても治らない他の症状も一緒に改善していくようです。
逆にいえば、メンタルが身体に及ぼす影響は計り知れず、自分でも意識していない心の不具合が症状となって表れているのではないでしょうか。
ストレスは本当はない!?
現代社会においてストレスなく過ごすことは不可能といってよいと思います。
ただ、そのストレスをストレスと感じているのは誰でしょうか?ストレスはその方がストレスと自己解釈した時点でストレスとなります。
本人の解釈なので、解釈は自由に変えられます。事実(ストレスの原因となった出来事)は変えられませんが、解釈は無数です。
このことに気づいていただき、ストレスの原因など過去にフォーカスせず、自分の“望むもの”を明らかにし、その“望むもの”に対して、今からできる効果的な思考と行動の選択をするお手伝いをさせていただくことで治療の実績をあげています。
舌痛症の診療は、舌の痛みなどの症状を改善することは治療の過程で達成されることであり、真の目的はその方のこれからの人生の質に貢献することではないかと思っています。
おかげさまで、患者さんから「もし舌の痛みがなかったら先生に出会えなかった、そう考えれば舌が痛いことも悪いことばかりじゃないですよね」と嬉しいお言葉をいただくことも多くなりました。
舌痛症のオンライン診療
ただ、舌痛症に対し薬を使わず、心理療法のみで改善に取り組んでいるのは国内でも私一人であり、より多くの苦しまれている方を診察したいという思いから歯科では珍しいオンライン診療を取り入れております。
そのため、現在では居住地を問わず、遠方の患者さんも診療できています。
以上、当院の診療は医療の新しい価値を提供することで人々の体と心の健康に寄与し、ひいては広く社会に貢献できるものとスタッフ一同信じています。
◎プロフィール
角田智之(つのだ・ともゆき)
歯科医師
つのだデンタルケアクリニック院長・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。1992年、明海大学歯学部卒業。日本大学板橋病院、社会保険横浜中央病院、久留米大学病院、(医)高邦会高木病院歯科口腔外科を経て、2008年福岡市博多区につのだ歯科口腔クリニックを開設。2015年同じ博多区内で移転開設し、つのだデンタルケアクリニックに名称変更。予防診療と舌痛症のメンタルカウンセリングを行っている。専門分野は口腔外科、歯科心身症。つのだデンタルケアクリニック(tsunoda-dentoral.net)。舌痛症専門サイト(https://zettsu.com/)。