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ロシアによるウクライナ侵攻から1年 進む日本企業の脱ロシア

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PIXABAYより

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が過ぎましたが、戦闘は今でも続いていて、改善に向かう兆しは一向に見えません。これまでのところ、ウクライナ側は欧米諸国から供与された戦車数百台を駆使し、春にかけて大規模な攻勢に出るとみられます。

日本カウンターインテリジェンス協会理事や清和大学で講師を務める和田大樹先生に日本企業の脱ロシアの動きについて寄稿いただきました。

脱ロシアを図る企業の動き

ウクライナ側は2014年にロシアによって占領されたクリミア奪還までを想定して戦闘を継続していますが、ロシアもウクライナ東部ドンバス地方での支配地域拡大を目指して戦闘をエスカレートさせており、戦況の長期化は避けられない様相です。

このような厳しい情勢の中、この1年間、欧米とロシアの亀裂は決定的なものになり、脱ロシアを図る欧米企業や日本企業の動きが活発化しました。下記はその一部を示したものです。

欧米企業の動き

・ケンタッキーフライドチキンを運営する米ファーストフード大手ヤム・ブランズは10月、ロシアでのケンタッキーフライドチキンの運営をロシアの会社に売却することで合意。

・フランスの大手食品会社ダノンは10月、ロシアで販売してきた乳製品をロシアから撤退させる方針を発表。

・スウェーデンのアパレル大手H&Mは7月、ロシアで展開してきた事業から完全に撤退する方針を発表。H&Mはロシアがウクライナに侵攻した直後の3月からロシアでの事業を一時停止していたが、現在の状況では事業継続が不可能と判断。

・フランスのタイヤ大手であるミシュランは6月、ロシアでの事業から今年中に撤退すると発表。ロシアによるウクライナ侵攻以降、ミシュランはロシアでの事業を停止していたが、事業再開は不可能と判断。

・米国のマクドナルドは5月、ロシアからの完全撤退を発表。マクドナルドは3月、ロシア国内で展開する850あまりの店舗を一斉に閉鎖していた。

・米国の石油大手エクソンモービルは3月、ロシア極東サハリンにおける石油や天然ガスの開発事業から撤退することを発表。

日本企業の動き

日立製作所の子会社である日立エネジーは今年1月、ロシアで展開してきた事業を売却したことを発表。

・大手自動車メーカーのマツダは昨年秋、展開事業を現地の合弁会社や自動車研究機関に売却。

・ロシアで約2000人の従業員を抱えるガラス大手AGCも2月上旬、国際情勢を考えると運営する意義がなくなったと判断し、今後ロシア事業の譲渡の検討を始めたと発表。

・他の大手企業では、トヨタが現地での生産停止、JALやANAがロシア便の運行停止、ユニクロを展開するファーストリテイリングはロシア国内の全店舗で営業を停止(一部は閉店)。


ではもう少し詳しくみていきましょう。
JETROが今年1月下旬にロシアに拠点を置く日本企業198社(99社から回答)を対象にアンケート調査を実施しましたが、それによると、「ロシアからの撤退した・撤退を決めた」と回答した企業が4%にとなり、以下、「全面的に事業停止」が17.2%、「一部の事業停止」が43.4%、「通常どおり変わらない」が35.4%となりました。

そして、侵攻から約半年が経過した去年8月に実施された同調査と比べ、「全面的に企業停止」と「一部の事業停止」をあわせた回答は前回より11ポイントも上昇し、今回撤退と回答したケース含め脱ロシアを示した企業は6割を超えました。

脱ロシアの理由

国家が国家に侵略するという世界史で学んだことがこの時代に実際起こったことに、世界は衝撃を受けました。そして、侵略国家となったロシアでビジネスを展開してきた企業の間では当然のように脱ロシアの動きが拡大しました。では、どのような理由で企業は脱ロシアに舵を切ったのでしょうか。考えられる要因は主に2つあります。

1つは、ロシアを巡るヒト、モノの動きの混乱です。たとえば、これまで日本とロシアの間には直行便が運航されていましたが、侵攻によって直行便がなくなり、現在日本からロシア各地に向かうにはイスタンブールやドバイ経由など限られたルートしかありません。日本からも近い極東ウラジオストクに行く際も、わざわざ東南アジアのタイ・バンコクまで南下し、そこからまた飛行機で北上するという以前では考えられなかったルートしかありません。
また、欧米や日本はロシアへの制裁を強化しており、ロシアと日本を繋ぐ物流も混乱を極めています。

また、レピュテーションリスクがあります。レピュテーションリスクとは、簡単に言えば企業イメージの悪化を指し、侵攻以降、ロシアでビジネスを続けることで他企業からのイメージが悪化し、企業のブランド価値、評判が下がることを懸念する声が経営者の間で広がっています。

たとえば、米国とロシア双方に進出する日本企業としては、米国企業から“あの日本企業はまだロシアでビジネスを続けている”と思われることへの警戒心が強まっているとみられます。企業価値を守るために脱ロシアに舵を切った日本企業も多いことでしょう。

一方、今年になって帝国データバンクによる調査では、ロシア事業からの撤退を決めたのは進出企業全体の約16%で、先進7カ国(G7)中2番目の低水準となったとされます。
たとえば、総売上の2割あまりをロシアが占める日本たばこ産業は2月、原材料も十分に調達可能で従業員4千人以上を抱えているなどとし事業継続の方針を明らかにしました。

当然ながら、企業の中でも水産業界を中心にロシア依存が強い企業も少なくなく、そういった企業は簡単に脱ロシアに舵を切れません。多くの企業が脱ロシアに舵を切った一方、戦争と経営の間でジレンマを抱える企業が増えているという事実も忘れてはならないでしょう。

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ライター:

専門分野:国際安全保障論、経済安全保障・地政学リスクなど 一般社団法人 日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師、コンサルティング会社OSCアドバイザーなどを兼務。 特に、アルカイダやイスラム国、白人至上主義者などグローバルなテロネットワークの研究分析を行う。また、大学研究者として安全保障分野の研究に従事する一方、実務家として海外進出企業向けに経済安全保障・地政学リスクのコンサルティングを行う。

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