
物価の高騰、頻発する自然災害、地方における病院や担い手の不足。暮らしを支えるセーフティーネットが揺らぐなか、社会課題の最前線に立つ認定NPOへの期待は年々高まっている。
2日、その認定NPO同士が初めて横に手を結ぶ「認定NPO全国ネットワーク」の設立発表記者会見が、東京・霞が関の厚生労働省記者会見室で開かれた。寄付DXシステムを手がけるコングラント株式会社が事務局を担い、児童労働、子どもの貧困、LGBTQ+、防災、緊急人道支援、医療、虐待防止と、分野の異なる7つの認定NPOが登壇。個々の活動が抱える限界と、束ねることで生まれる可能性が語られた。
【会見概要】
日時:2026年7月2日(木)14:00〜15:00
場所:厚生労働省記者会見室(東京都千代田区霞が関)
主催・事務局:コングラント株式会社
登壇団体:コングラント/ACE/キッズドア/グッド・エイジング・エールズ/桜ライン311/ジャパン・プラットフォーム/ジャパンハート/バディチーム(団体名五十音順)
公助だけでは支えきれない時代に

冒頭、コングラント代表取締役CEOの佐藤正隆氏が、ネットワーク設立の背景を語った。同社は2020年の創業以来、ソーシャルセクター向けの寄付DXシステムを提供し、現在は認定NPOや公益法人、学校、病院、自治体など約4,200団体に利用されている。その現場感から佐藤氏が示したのは、公助だけでは支えきれなくなりつつある社会の輪郭だった。
会見で示された資料によれば、社会保障給付費は2001年度の81兆円から2026年度は144兆円(予算ベース)へと、25年間でおよそ1.7倍に膨らんだ。人口が減るなかで公助を厚くすることは難しく、一方で暮らしの土台は大きく変わっている。同じ25年間で、一人暮らしの高齢者は約2.3倍の736万世帯に、小中学生の不登校は約2.5倍の34万人超に、年収300万円未満の低所得世帯は1,960万世帯に増えた。ヤングケアラーや孤独・孤立、在住外国人など、既存の制度に収まりにくい課題も次々に生まれている。
こうしたなかで、制度の隙間に落ちる人々を支えてきたのが認定NPOである。ただ、その足場は必ずしも強くない。佐藤氏の問題意識は、この一点に向けられていた。
「認定NPO」を、個社を超えて支える仕組みへ
NPO法人は、1998年に制定された特定非営利活動促進法にもとづく法人を指す。そのうち、より高い公益性が認められ、税制優遇を受けられるのが認定NPO法人だ。認定NPOへの寄付は寄付額の最大およそ半分を税金から控除できるが、取得にはパブリック・サポート・テストなどの厳しい基準があり、有効期間は5年で更新審査も必要になる。認定NPOの制度は2001年に始まり、2026年で25年の節目を迎えた。
その広がりは、まだ限定的である。2026年5月末時点で、NPO法人が48,944団体あるのに対し、認定NPO法人は1,317団体。全体の3%に満たない。「NPOと認定NPOの違いが知られておらず、寄付金控除の仕組みも一般には認知されていない」と佐藤氏は指摘する。ガバナンスや会計の水準が高く、本来なら国や企業、個人が安心して支援先に選べるはずの認定NPOが、その価値を十分に評価されていない。個々の団体の努力だけでは動かしにくいこの外部環境を、全体で押し上げる。それがネットワークの狙いである。
掲げる取り組みは6つ。認定NPO自身が講師となる勉強会・共有会、年1回のカンファレンス「ignite!」、制度改善の提言、会計・税務・法務を無料で相談できる専門相談窓口、認定NPOのブランディング、そして企業連携だ。勉強会は2026年7月からオンラインで定期的に開き、団体間の相互学習と交流を促す。相談窓口では、寄せられた相談を匿名化して共有し、ある団体が解決した知見を他団体でも活かせるようにするという。「ignite!」は2026年11月20日に高輪ゲートウェイコンベンションセンターで開催され、関係省庁の後援も予定されている。
制度面では、寄付控除を受けやすい仕組みづくりを提言する。給与所得者の多くは年末調整で納税が完結するため、少額の寄付が税控除に結びつきにくい。2026年1月に確定申告向けのマイナポータル連携へ寄付金が加わったことも踏まえ、国税庁や民間送達事業者との連携を進める考えだ。認定NPOの取得要件の複雑さや、所轄庁ごとの対応のばらつき、事務負担の大きさといった現場の声も、ネットワークとして集約していく。
7団体が語る、現場の課題とネットワークへの期待
続いて、すでに参加を表明した約50団体のうち、7つの認定NPOの代表が登壇し、それぞれの現場から課題と期待を語った。
児童労働の撤廃に取り組むACEの岩附由香代表は、寄付税制の改善を訴えた。控除の上限が40%にとどまり、災害時などに多く寄付しても翌年に繰り越せない現行制度は、寄付額の約9割を控除できる米国などと比べて見劣りする。認定要件の煩雑さ、対価性をめぐる運用の硬さ、国際協力NPOの海外送金にかかる過剰な規制も含め、環境そのものの見直しを求めていきたいとした。
子どもの貧困に向き合うキッズドアの渡辺由美子理事長は、学習支援や困窮家庭への食料支援を通じて、年間およそ2,200人の子どもたちと向き合ってきた。

ビジネスでは解決しづらい課題を担うのがNPOの価値だと語る一方で、その活動を支えるべき社会的な信頼がまだ根づいていないと指摘する。心ない批判にさらされ、活動が萎縮しかねない場面もあった。だからこそ、ガバナンスの整った認定NPOがネットワークを組む意味は大きい。「認定NPOが束になることで、NPO全体が信頼に足る存在として社会に支えられるようになってほしい」と期待を寄せた。
LGBTQ+の場づくりを進めるグッド・エイジング・エールズの松中権代表理事は、事業のスピンオフや承継、あるいは終了といった経験を団体間で横に伝える仕組みを求めた。政治的とみなされて寄付が集まりにくい現状や、海外助成金の英語対応にかかる人的負担にも触れた。
東日本大震災を機に岩手県陸前高田市で桜を植えてきた桜ライン311の岡本翔馬代表理事は、防災・減災は成果が見えにくく資金がつきにくい分野だと語る。地方のNPOが置かれた厳しさにも言及し、規模ではなく目指す社会課題でつながれる場になることを望んだ。

災害や紛争の緊急支援を担うジャパン・プラットフォームの越川真吾事務局長は、認定NPOがNPO法人全体の約3%にすぎない点をあらためて挙げた。厳しい基準を満たしていることを、個々の団体ではなくネットワーク全体で発信し、信頼と認知につなげたいとした。
医療の届かない地域に医療を届けるジャパンハートの佐藤抄事務局長は、一人の患者や家族を支えるだけでも、経済状況や家族背景、高齢化やヤングケアラーの問題が複雑に絡み合うと指摘した。分野を超えた情報共有や協働の意義を語り、寄付をしようと思ったときにまず認定NPOが想起される状態を目指したいとした。

子どもの虐待防止に取り組むバディチームの岡田妙子理事長は、家庭を訪問して保育や家事を支える活動の意義を語り、官民や地域が連携する新たなモデルの発信に期待を寄せた。「寄付が社会に根づき、民間公益活動の基盤が強くなることで、安心して活動を広げられる」と、寄付文化の醸成への思いを述べた。
200団体、そして500団体へ。今後の展開
会見の最後に、佐藤氏が今後の予定を説明した。翌8月にキックオフイベントを開き、勉強会も順次立ち上げる。登録は無料で、会見時点ですでに60団体を超え、11月のカンファレンスまでに200団体、翌年春には500団体を目標に掲げる。地方への出張による地域団体との接続、企業とのマッチング支援、優れた活動の表彰、寄付領収書の電子化に向けた国税庁や民間送達事業者との連携、活動の成果を示すインパクトレポートの発行なども視野に入れる。
質疑では、ネットワークの位置づけについて、現状はコングラントが事務局を務める任意団体であり、バックオフィスは同社が担うと説明した。将来的に中立的な非営利組織へ移行する可能性にも触れ、「本来は別の組織が担うべきかと何度も議論した。それでも、2030年までにどこまでやれるかを考えたとき、資金を出せる自分たちがまず旗を振ろうと決めた」と、立ち上げの経緯を率直に語った。 「認定NPOは、収入に対する寄付の割合がどの法人格よりも高く、支援を集める力を持っている」と佐藤氏。その力を束ね、日本の寄付への信頼をどこまで変えられるか。認定NPOを起点に寄付を社会へ根づかせる試みが、2030年を見据えて動き出した。



