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「人から人へ感染するハンタウイルス」クルーズ船で3人死亡 “アンデス型”確認で世界が警戒する理由

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ハンタウイルス
DALLーEで作成

南大西洋を航行していたクルーズ船「MVホンディウス」で発生したハンタウイルス集団感染が世界を緊張させている。WHOは感染確認者が計6人になったと発表し、このうち3人が死亡した。確認されたのは、人から人への感染が確認されている「アンデス型」。新型コロナを連想する声が広がる一方で、WHOは「世界的リスクは低い」と説明している。では、船内で何が起きているのか。

 

 

南極クルーズの船内で広がった異変 

オランダ船籍のクルーズ船「MVホンディウス」は、南極半島やサウスジョージア島を巡る長期航海の途中にあった。

船には23カ国から集まった乗客と乗務員あわせて150人余りが乗船していたという。アルゼンチン最南端の港町ウスアイアを出港し、巨大な氷山や野生動物に囲まれた極地を巡る旅は、多くの乗客にとって特別な時間だったはずだ。

ところが、その船内で異変が起きる。

最初は、一部乗客の発熱や倦怠感だった。当初は長旅による疲労や風邪ではないかという見方もあったとみられる。しかし症状は急速に悪化していった。

高熱、激しい倦怠感、そして呼吸困難。

船内では防護服姿の医療スタッフが行き交い、体調不良を訴えた乗客が次々と隔離されていく。やがて死亡者まで確認されたことで、船を包む空気は一変した。

WHOによると、これまでに8人が感染疑いとなり、そのうち6人の感染が確認された。このうち3人が死亡している。

そして検出されたのが、「アンデス型ハンタウイルス」だった。

その名前が報じられた瞬間、世界中に緊張が走った。なぜなら、アンデス型は現在確認されているハンタウイルスの中で、唯一、人から人への感染が確認されているタイプだからだ。

 

ハンタウイルスとは何か “致死率38%”が持つ恐怖

ハンタウイルスは、主にネズミなどの齧歯類が媒介するウイルスとして知られている。

感染したネズミの尿や糞、唾液に含まれたウイルスが乾燥し、空気中に舞い上がった粒子を人が吸い込むことで感染すると考えられている。

今回確認されたアンデス型ハンタウイルスは、南米を中心に報告されてきたタイプで、「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」という重篤な呼吸器疾患を引き起こす。

感染初期の症状は風邪やインフルエンザとよく似ている。

高熱や頭痛、筋肉痛、咳、吐き気、倦怠感などが現れ、初期段階では一般的な感染症との区別がつきにくい。

しかし、この病気が恐れられているのは、その後の進行の速さにある。

肺の血管から大量の水分が漏れ出し、患者は急速に呼吸不全へ陥る。人工呼吸器による集中治療が必要になるケースも多く、米疾病対策センター(CDC)によると、重症化した場合の致死率は約38%に達するとされている。

さらに、人々の不安を強めているのが、現時点で特効薬が存在しないという事実だ。

現在の治療は、人工呼吸器や酸素投与、点滴などによる対症療法が中心となる。つまり、患者自身の免疫力がウイルスに打ち勝つのを待つしかないのである。

「致死率38%」
「治療薬なし」
「クルーズ船で集団感染」

こうした言葉が並んだことで、多くの人が新型コロナ初期を思い出した。

 

“次のコロナ”と恐れられた理由

今回の騒動がここまで大きく報じられている背景には、新型コロナの記憶が社会に強く残っていることがある。

クルーズ船で感染者が発生し、船内で隔離が行われ、各国が接触者を追跡する。

その構図は、2020年初頭の「ダイヤモンド・プリンセス号」の光景と重なった。

しかも今回は、「人から人への感染が確認されている型」という情報まで加わった。

WHOや各国保健当局によると、アンデス型ハンタウイルスは、現在確認されているハンタウイルスの中で唯一、人から人への感染が確認されているタイプとされている。

この事実が、「また世界的感染拡大が起きるのではないか」という不安を一気に広げた。

さらにクルーズ船という環境そのものも、人々の恐怖を増幅させやすい。

船内では客室や食堂、ラウンジなど多くの空間を共有することになる。閉ざされた環境の中で感染症が発生した場合、「船全体に広がるのではないか」というイメージを人々は抱きやすい。

実際、WHOや各国当局は現在、濃厚接触者69人の追跡を進めている。

未知の感染症、人から人への感染、高い致死率。

これらの条件がそろったことで、社会は“次のパンデミック”を本能的に警戒したのである。

 

しかしコロナとは決定的に違う WHOが「世界的リスクは低い」と説明する理由

ただし、WHOや感染症専門家は、「新型コロナと同じように考えるべきではない」と繰り返し説明している。

最大の違いは、“感染の広がり方”にある。

新型コロナは、飛沫やエアロゾルによって短時間の接触でも広がる感染症だった。同じ空間にいるだけでも感染が起きるケースがあり、不特定多数へ急速に拡大した。

一方、アンデス型ハンタウイルスの人から人への感染は、極めて限定的だと考えられている。

WHO感染症対策責任者のマリア・バンケルコフ氏は、「客室共有や医療ケアなど、非常に密接な身体接触が必要になる」と説明している。

つまり、電車で隣に座った程度で広がるような感染症ではないということだ。

これまで確認されている人から人への感染例も、家族間や医療現場など、長時間にわたる濃厚接触があったケースが中心だった。

さらに、感染源にも大きな違いがある。

新型コロナは、人から人への感染が主な拡大経路となった。一方、ハンタウイルスの基本的な感染経路は、あくまでネズミなどの齧歯類から人への感染だ。

つまり、人間社会の中で連鎖的に感染が拡大する性質は、新型コロナほど強くないと考えられているのである。

WHOが「現時点で世界的リスクは低い」と繰り返している背景には、こうした感染力の違いがある。

感染症において本当に社会を揺るがすのは、「どれだけ致死率が高いか」だけではない。「どれだけ広がりやすいか」が極めて重要なのだ。

 

それでも無視できない “動物由来感染症”が増える時代

それでも今回の問題が世界中で大きく報じられているのは、単なるクルーズ船内の感染事例では終わらない可能性があるからだ。

背景にあるのは、「動物由来感染症(ズーノーシス)」が増加している現代社会の構造である。

森林破壊や都市化、気候変動によって、人類はこれまで距離のあった野生動物の生態圏へ急速に踏み込んでいる。

WHOが近年強調している「ワンヘルス」という考え方は、人間・動物・環境の健康はすべてつながっているという概念だ。

ネズミの増加は単なる衛生問題ではない。生態系の変化や環境破壊とも深く結びついている。

つまり今回のハンタウイルス騒動は、“遠い海の上のニュース”ではなく、現代社会そのものの脆さを映し出している側面もある。

新型コロナを経験した世界は今、「次はどこから未知の感染症が現れるのか」という警戒感を常に抱えている。その空気が、今回の騒動をさらに大きくしているのである。

 

日本で感染する可能性はあるのか 

では、日本国内で同じような感染が広がる可能性はあるのだろうか。

国立健康危機管理研究機構などによると、日本には今回のアンデス型ハンタウイルスを媒介するとされる齧歯類は生息しておらず、国内で感染する可能性は極めて低いと考えられている。

ただし、専門家は「過度に恐れすぎないことと、軽視しないことの両方が重要だ」と呼びかけている。

感染症は、恐怖だけが先行すれば社会を混乱させる。一方で、「大丈夫だろう」という油断は危険を見逃す原因になる。

重要なのは、“未知の病気”という言葉だけに反応するのではなく、感染経路や感染力、重症化リスクを正しく理解することだ。

今回のハンタウイルス騒動は、人類が感染症とどう向き合うべきかを、改めて問いかけているのかもしれない。

 

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ライター:

Webライター。きれいごとだけでは済まない現実を、少し距離を置いて綴っています。

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