騙されたのか見抜けなかったのか、その重い代償は?

3月末に明らかになった、KDDI子会社における累計2460億円にも上る前代未聞の架空循環取引事件。実はこの巨大な不正の裏側で、東証グロース市場に上場するマーケティング支援会社「バリュークリエーション株式会社」もその商流に深く巻き込まれ、約16億円もの売上訂正を余儀なくされていた。
5月8日に同社が公表した特別調査委員会の報告書とKDDI側の調査結果を照らし合わせると、一人のエリート社員の暴走が、いかにして別の上場企業をも巻き込む巨大な闇へと膨れ上がっていったのか、その全貌が浮かび上がってくる。
空き家問題にも取り組む成長企業を襲った罠
バリュークリエーションは2008年に設立され、主にインターネット上の運用型広告などを手掛けるマーケティングDX事業と、社会問題化する空き家の解体業者をマッチングする解体の窓口を運営する不動産DX事業を二本柱として展開している企業だ。直近の通期決算である2025年2月期の業績を見ると、売上高は約34億3200万円、営業利益は約1億2100万円を計上しており、堅調な成長を見せていた。
しかし、その売上の裏側には巨大な幻が潜んでいた。同社が仲介業者として関与していた架空循環取引による純額での売上高は、2019年2月期から2026年2月期までの累計で約16億3200万円に達していたのだ。特定の時期、たとえば2023年2月期においては、この問題の取引先であるジー・プラン社への依存度が全体の売上高の10.6パーセント、売上総利益の33.8パーセントを占めており、会社の屋台骨の大きな部分が実は虚構で出来上がっていたという衝撃的な事実が明らかになった。
赤字隠しと売上至上主義が生んだ錬金術
事の発端は2018年に遡る。バリュークリエーションの取引先であるKDDIの孫会社、ジー・プラン株式会社の担当者であるa氏の焦りからすべては始まった。当時、a氏が立ち上げた広告代理事業部は数十万円の赤字を抱え、数千万円単位の売上目標未達が見込まれていた。事業撤退の危機を感じたa氏は、架空の売上を計上して赤字を補填することを画策した。そこで目をつけたのが、過去に同じ職場で働いた経験があるバリュークリエーションの担当者であるj氏だったのだ。
a氏は、自社と既存取引先との直接取引は監査で指摘されるから間に入ってほしいと持ちかけた。さらに、支払いを長めに確保したいという理由で、バリュークリエーションからの支払いが先行する先出しの形をとるよう依頼した。この資金の先出しこそが、実体のない取引のループにお金を循環させるための重要なポンプ役となってしまったようだ。
バリュークリエーション側は手数料を得られる仲介取引としてこれを承諾し、結果的に資金がただグルグルと回るだけの架空循環取引がスタートしたのである。
偽造請求書にキャバクラ接待と暴走するエリート社員
売上が好調に見えたことで社内での期待が高まり、a氏の暴走は加速していった。不正の発覚を恐れたa氏が行った隠蔽工作は、まさにやりたい放題だった。資金繰りの辻褄を合わせるため、a氏はバリュークリエーションが発行した請求書のデータを自らエクセルで加工し、同社の角印を勝手に真似て偽造した上で自社の経理に提出していた。さらに、監査法人向けの残高確認状には、自社の代表取締役の氏名を無断で冒用して署名し、社印を押して提出するという大胆な偽装まで行っていたのである。
悪質なのは書類の改ざんだけではない。架空取引のループを維持するため、a氏は架空取引に関与した下流取引先の担当者と頻繁にキャバクラを訪れ、その高額な代金を取引先に負担させていた事実も判明している。また、取引先に社内調査が入る際には、事前に想定問答集を作成し、虚偽の説明をするよう強く要求するなど、周囲を巻き込んで嘘を重ねていった。
知らなかったで済むのかと問われる上場企業の審査体制
特別調査委員会の調査に対し、バリュークリエーション側は担当者が外部と共謀した事実や不適切取引の認識はなかったと主張しており、委員会もこれを認めている。しかし、その管理体制の実態はあまりにも無防備だった。通常の広告取引ならあり得ない、先に支払額を決めてから取引数量を調整するかのような異常なやり取りがチャット上に残っていたにもかかわらず、現場はそれに違和感を抱かなかった。
最も致命的だったのは、取引の実態を確認する作業を実質的に放棄していたことだ。取引の実在性を確認するための成果物や広告管理画面の提出を監査法人が求めた際、a氏からノウハウに属する部分だから開示しないのが業界の慣行だと言いくるめられると、バリュークリエーションはそれをあっさりと受け入れてしまった。
さらに、数億円規模の取引を任せる下流取引先が設立間もない小規模会社であったにもかかわらず、独自の検証を行うことなくa氏の指定するままに発注を続けていたのである。これらの巨大な取引に関する業務は社内のわずか2名の担当者に完全に属人化しており、客観的な牽制機能が全く働いていなかったことが被害をここまで拡大させた要因と言える。
崩壊した砂上の楼閣と経営陣の代償
結局、親会社であるKDDI側の内部調査によって事態が発覚し、この巨大な砂上の楼閣は崩れ去った。KDDI側からの入金留保の連絡を受け、バリュークリエーションの取引も完全に終了することとなった。同社は過去の有価証券報告書等において、総額約16億円もの売上高を取り消し、営業外収益として訂正する見込みとなっている。
この事態を重く受け止め、同社の新谷晃人社長が月額報酬の65パーセント減額、大坂谷優介取締役が同56パーセント減額をそれぞれ12カ月間にわたって自主的に行うと申し出た。意図的な不正はなかったとはいえ、上場審査の過程でも特定企業への依存リスクを指摘されていたにもかかわらず、これほどまでに脇の甘い管理体制を敷いていたバリュークリエーション。
今後は成果物の開示を拒む取引先とは取引しないなどの再発防止策を掲げているが、一度失墜した市場からの信頼を取り戻すための道のりは、決して平坦ではないだろう。



