
卒業後の「捨てられない」を、日常で「使える」喜びへ。老舗・池田屋と静岡の家具職人が仕掛けるスツールへのアップサイクルは、単なるリメイクを超えた家族の物語の再生だ。山中湖の自然の中で、親子の絆が新たな形へと刻まれる。
押し入れの「お荷物」が宝物に変わる瞬間
春の足音が聞こえる季節、全国の家庭で密かに巻き起こる「ランドセルどうする問題」。6年間のキズも落書きも、すべてが成長の証。しかし、いざ卒業すれば、それは場所を取るだけの「巨大な思い出」と化してしまうのが現実だ。
そんな中、鞄づくりの名門・池田屋が、山梨県の富士山麓「PICA山中湖」で仕掛けるワークショップが、にわかに熱い視線を浴びている。2026年4月19日、そこでは役目を終えたはずのランドセルが、なんと実用的な「スツール(折り畳みイス)」へと姿を変えるというのだ。
職人と二人三脚で挑む「思い出の解体」
このイベントが、巷に溢れる「リメイク代行サービス」と一線を画す理由は、その圧倒的なライブ感にある。ユーザーは完成品を待つだけでなく、自らの手で愛着のある革に刃を入れ、組み上げていくのだ。
パートナーを組むのは、静岡の無垢家具職人集団・ヒノキクラフト。熟練のプロが横につき、親子で「世界に一脚」の椅子を作り上げる。自分が背負い続けた革が、パチンと木のフレームに収まった瞬間、それは単なる「家具」ではなく、家族の歴史を語り継ぐ「依代(よりしろ)」へと昇華する。この劇的な変化を目の当たりにすれば、参加者の目から思わず涙がこぼれるのも頷ける。
「使い捨て」を許さない静岡の職人魂
なぜ、池田屋はここまで「体験」にこだわるのか。その根底には、地場産業である静岡の職人たちが守り続けてきた「いいものを、手入れしながら、長く使う」という、愚直なまでの美学がある。
「ランドセルは卒業して終わりではない。その後の人生にも、形を変えて寄り添い続けたい」という池田屋の情熱。そこにヒノキクラフトの技術が共鳴した。大量生産・大量消費の波に抗い、一つのモノを愛し抜く。そんなサステナブルの本質を、子どもたちはワークショップを通じて、理屈ではなく肌で学ぶことになるのだ。
未来へつなぐ、親子の「共同作業」
現代において、モノを壊して新しくすることは容易い。しかし、壊さずに「活かす」ことには、知恵と愛が必要だ。山中湖の爽やかな風の中、かつての相棒に新たな命を吹き込む時間は、親子の絆を再確認する何よりの贅沢と言えるだろう。
役目を終えたはずのランドセルが、再びリビングで家族の団らんを支え始める。そんな「第2の人生」をプロデュースする池田屋の試みは、効率を優先する現代社会が忘れかけていた「モノへの敬意」を、私たちに問いかけている。



