株式会社エコトバは、コピーライターである棕澤和宏さんが2007年に設立した会社です。社名の「エコトバ」は、絵(写真)と言葉の意味。広告業界では、写真とキャッチコピーだけの広告はインパクトがあるため、しばしば用いられます。「スタンダードな広告を大事にコミュニケーションの仲立ちし、さらに踏み込んで広告のプロデュースまで領域を広げるために立ち上げた会社です」と棕澤さんは語ります。最近は「動画制作・YouTube運営管理」から、「食品製造直販」にまで事業領域が拡大。マーケットインの事業にシフトしてきた中で、どのようにステークホルダーと向き合ってきたのか、棕澤さんに語っていただきました。
企業がオウンドメディアの動画チャンネルで情報発信する時代
──エコトバを設立した経緯をお聞かせください。
フリーランスの法人成りのような形で事業をスタートしました。ライター業だけでは事業の継続が難しい環境になってきたので、コンテンツとして動画制作を手掛けたり、広告業界以外での事業も模索しながら現在に至っています。
──「動画制作・YouTube運営管理」の業務はどのようにスタートしたのでしょうか。
YouTubeがコミュニケーションツールとして市民権を得る中で、これからは動画で企業がコミュニケーションを図ることが主流になっていくだろうと思いました。媒体を経由するのではなく、独自のメディアとして動画チャンネルを作って情報発信をしていくことが普通になっていくでしょう。そのような中で、技術的にどう進めたらいいかと思う人はたくさんいるはずだということが、「動画制作・YouTube運営管理」も業務領域とした経緯です。
岡山中央病院との思いがけない出会い
──畑違いの分野ですから、事業展開は簡単ではなかったでしょう。
そうですね。弊社のステークホルダーはグラフィック関係者がメインでしたので、「今度は動画も手掛けます」と言ったところで仕事の依頼が入るわけではありませんでした。
ところが、従来であれば全く知り合いになるはずがない方と、Twitter経由でつながった縁で新たなフェーズが訪れました。その方とは一緒にお酒を飲む仲になったのですが、東日本大震災が起き、東京を離れる決断をしました。当時、小さい子供が生まれたばかりということもあって、放射性物質による汚染を心配されたからです。
岡山県に移住し転職されたのですが、地域を盛り上げるために一肌脱いでくれないかという依頼を受けて、移住経験者としてIターンの相談に乗るようになりました。
そして岡山県で多くの方と接点できる中で、新しい広報宣伝活動ができないかという相談が来たそうです。それが社会医療法人 鴻仁会 岡山中央病院さんでした。今から2~3年前のことです。そして私に話が回ってきたというわけです。思いがけない出会いでした。
──その相談に対して、従来の広告企画・制作ではなく、動画チャンネルというソリューションを提案したのですか。
そうです。「これからの時代はYouTubeチャンネルの開設が主流になりますよ」という提案をしました。「病院だからYouTubeなんて必要ないよ。よく分からないからやらなくていいよ」と言われても不思議ではないのですが、「なるほど。病院もそういった新しい情報発信をチャレンジしていくべきだ」と同意していただきました。2020年8~9月にそのような話し合いをして、チャンネルを開設し、現在に至っています。
それまで本業で行っていたわけではないですから、弊社にとってもチャレンジでした。東京と岡山で距離が離れていて、なかなか直接お会いできませんでした。なおかつコロナ禍でもあり、実際に私が岡山中央病院に伺ったのは1回だけでした。岡山中央病院のスタッフにiPhoneで動画を撮影していただき、弊社で編集してアップしています。
こういった広報宣伝活動をしていかなければ、今後は病院経営も難しくなります。どんな医師や看護師がいて、どのような設備の中で働いているのかといったことは、写真やテキストだけでは十分に伝わりません。その点、動画は断然分かりやすい。実際にコロナ対策について発信したときは多くのアクセスがありました。タイミングを捉えた情報発信には、YouTubeというメディアはとても適しています。
ドレッシングは広告と同じ存在
──「ドレッシング製造販売」の業務はどのようにスタートしたのでしょうか。
私の子供から、小学校の給食でおいしいドレッシングがあるという話を聞きました。そんなにおいしいものだったら、栄養士さんにレシピを聞いて家でも作ろうということになりました。それを妻が周りのママ友に教えて作ってみたそうですが、不思議なことに誰も同じように作れなかったのです。それだったら、わが家のものを瓶詰して売ったらいいのではないかと思ったことが、そもそもの始まりでした。
おいしい食べ物で家族・友人・知人とのコミュニケーションが広がりますから、そのお手伝いをするドレッシング(調味料)という存在は、いわば広告と同様に1つのコミュニケーションツールなのです。
特に、子供には好き嫌いなく食べてほしいではないですか。子供は大体野菜が嫌いになるので、おいしいドレッシングがあれば子供も野菜が好きになるだろうと。
実際にドレッシングの製造は委託先を探しましたが、商品企画・パッケージ・流通・販売方法までを自分たちでゼロから進めていきました。製品化する段階では、栄養士さんが考案したレシピからさらに改良を加え、弊社のオリジナル商品となっています。
アピールや差別化をいろいろ考えた結果、商品名を『子供が野菜をモリモリ食べちゃうドレッシング』にしました。
ネーミング、パッケージ、プロモーション、そして商品の特徴そのものをどうするかということもマーケティングの大事なところです。規模は小さいですが、マーケティングで必要なことは全部試みて、世の中に送り出しました。
ランキングサイトで1位を獲得!
──実際に取り組んでみた結果はどうでしたか。
弊社の商品は、委託生産をしていることや、材料に手を抜かないということで、どうしても原価が高くなり、販売価格は1本780円(税抜き)までに落とすのがぎりぎりでした。子供がいる家庭向けに作っているのですが、子供がいる家庭ほど食費にあまりお金を回すことができないという事情もあります。ですから、購買層はある程度生活にゆとりがあり、健康のために野菜をおいしく食べたいというシニア層が多く買っています。
売上が堅調なのは名古屋と大阪です。名古屋は経済状態が良好だということが大きな要因です。大阪や京都などの関西圏は、味が良いのであれば値段は問わないという層が一定数あるようです。
それでも、ランキングサイトで1位を獲得するなど、今のところ順調だと思います。今では、広告業よりもドレッシングのほうが売上構成比が高い月もあります。
エコトバのステークホルダーへの想い
岡山中央病院さん
渡邉伸作副院長が担当で、櫻間さんという女性が窓口となっています。主にZoomで打ち合わせをしながら仕事を進めています。
病院経営だけではなくて、組織の取りまとめについても、業界で名が知られた方です。講演会で外部講師もされているような方です。組織をまとめるためには、どのように情報発信をすべきかという問題意識があるのです。
情報発信をするためには組織の内部がそのことについてきちんと理解していなければいけなりません。内部の意見を集約して発信し、フィードバックを受けてまた内部で検討するというサイクルを回しています。単純にアクセス数を見るのではなくて、組織の活性化や組織を束ねることに広報宣伝物を使っていくという意識の高さが尊敬できるところです。
私はもともとマーケティングや情報発信をするプロですけれども、渡邉副院長の姿勢はとても参考になり、勉強させていただいています。
漫画やアニメーション作品でいうと、主人公のキャラクターだと思います。目的に対して突き進むパワフルな方です。そういうことも、動画チャンネルの取り組みがどんどん前に進んでいった要因の一つだと思っています。ご縁ができて大変ありがたいです。
──渡邉副院長に聞いてみたいことはありますか。
私もこの事業を立ち上げたばかりでしたし、病院としても動画で発信していくということは初めてのことです。YouTubeを含めたSNSでは、コメント欄にネガティブなことを書き込む人もいますから、走り出していいものかどうかという迷いもありましたが、二人三脚で始めていきました。これからもよろしくお願いします。
あらかじめプロジェクトのゴールを設定すると、そのゴールに到達したら完了となりますが、どこまでこの二人三脚で走っていきましょうか。その点を聞いてみたいです。
もちろん、弊社はどこまでも行くつもりです。崖であろうが、藪の中であろうか、川であろうが、付き合っていきます。どういった形でこの情報発信の活動を継続していくのか、さらにどういった形に発展していくのか、楽しみです。今後ともよろしくお願いします。
──その他に伝えたいことがあればお願いします。
2020年からコロナ禍となって、病院を見る世間の目が変化しました。皆さんが、病院は本当に大事な存在であり、病院あっての今の社会なのだということを感じたことでしょう。あるいは逆に、語弊があるかもしれませんが、特定の感染症で日本全体がこんなに大変な状況になるのは、システムに課題があるのではないかという疑問を抱く人もいると思います。
どちらにしろ、病院は患者さんを診るだけではなくて、病院から情報を発信していくことも大事になってきたのではないかという気がします。そういった点について、どのように取り組んでいくのかということも二人三脚で考えていきたいです。
これまであまり情報発信をしてこなかった企業・団体・サービスなども、これからは自分たちのメディアを持って情報発信していくでしょう。そうした方々に対して、何か一つのモデルを示すことができればと思います。
緊急事態宣言が出されてからは、渡邉副院長の役割がさらに増えて、本当に大変だったことでしょう。戦争状態のような日々で毎日状況が変わり、検討・対処すべきことも毎日変わるので、とても苦労したと聞いています。お体には十分にご自愛ください。
渡邉副院長の下で働いていらっしゃる女性で、多忙な渡邉副院長と私のパイプ役になってくださる方です。また、部局ごとに動画を作りますので、そういう現場との意見調整もしていただいています。調整役として大変だろうと思います。感謝しています。
食品は商品単価が低めなので、ステークホルダーとしては多くの小売店があります。卸売業者を含めた流通業者もステークホルダーです。そして、何といっても一人ひとりのお客様が最も重要なステークホルダーになります。
広告業は実際に広告を見た方と話す機会はあまりありませんが、こういった食品関係はお客様と直接やりとりする場合もあるので、弊社のステークホルダーは劇的に変化しました。そこには戸惑いもありましたが、新たなやりがいも生まれました。
反応がダイレクトなので、「おいしいですよ」と言ってもらえれば当然うれしいです。逆に、工場から一定のクオリティーで出すことができないタイミングもあり、お客様から直接クレームをいただくこともあります。そういうことも含めてやりがいとなっています。
商品企画・パッケージ・流通・販売方法までを手掛けることは、自分たちでマーケティングの実証実験をしていることにもなります。これからどこまで拡大できるか、本当に楽しみです。
<企業情報>
株式会社エコトバ
設立:2007年2月22日
代表者:棕澤和宏
所在地:〒160-0005東京都新宿区愛住町18番3号
TEL:050-3171-7795