
経団連は12月8日、コーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する提言「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」を発表した 。その中で打ち出されたのは、株主提案権の要件を厳格化するという踏み込んだ要求だった。
「濫用(らんよう)的な提案を防ぐ」という大義名分の下、長年維持されてきた「議決権300個」での権利行使を一律廃止しようという動きは、株主総会の風景を一変させる可能性がある。
濫用防止の切り札? 「議決権300個」廃止論
現行の会社法では、総株主の議決権の1%以上、または「300個以上」の議決権を6カ月前から保有する株主に対し、株主提案権を認めている 。 これに対し経団連は、近年の証券取引所による投資単位引き下げ要請(株式分割など)により、以前よりも少額の資金で「300個」の要件を満たしやすくなっていると指摘。
「濫用的な株主提案が行われる可能性がある」として、企業の規模を問わず一律に権利を認める現行の300個要件について「合理性を有するとはいえず、廃止すべき」と断じた。
あわせて、本来は経営陣が判断すべき「業務執行事項」に関し、定款変更の形をとって提案を行う手法(近年アクティビストが多用する手法)についても、これを認めない方向での検討を求めている。
「守り」から「攻め」へ 経営者に突きつけた覚悟
一方で提言は、企業側に対しても厳しい注文をつけている。 デフレ下でのコストカット経営で現預金を積み上げた状態を「目先の資本効率改善に囚われた縮み志向」と批判。経営者に対し、野心的な意欲を指す「アニマルスピリット」を呼び覚まし、研究開発や人的資本への投資など、中長期的な価値創造へ大胆に舵を切るよう求めた。
要件厳格化で「守り」を固める代わりに、経営自体は果敢な「攻め」に転じろ、というのが経団連の描くバーターだ。
反原発・環境提案は消滅へ 「金持ち喧嘩せず」の総会になるか
今回の提言が実現した場合、市場にはどのような影響があるのか。
毎年話題になるような、事業との関連性が薄い奇抜な提案や、多くの人が「なぜこんな提案を?」と首をかしげるような、いわゆる「トンデモ提案」が制限されることについては、総会の効率化観点から賛同する声も多い。
しかし、今回の「300個要件の廃止」が、企業の脅威となっている「強力なアクティビスト」を止める決定打になるかといえば、答えは「NO」だ。 数百億円規模の資金を動かす機関投資家やアクティビスト・ファンドにとって、代替要件となる「議決権1%」の取得は、投資戦略上必要なコストに過ぎない。「痛くも痒くもない」のが実情だろう。
真に割を食うのは、資金力のない個人株主や、社会運動の一環として株式を持つNGOだ。 例えば、電力会社への「脱原発」提案や、メーカーへの特定の人権・環境(ESG)課題に関する提案などは、多くの場合、少額の株式を持つ市民株主によって行われてきた。巨大企業の株式「1%」を取得するには莫大な資金が必要となるため、300個要件が廃止されれば、こうした「社会の声」を帯びた株主提案は、物理的に不可能となり、姿を消すことになる。
経団連の提言は、表向きは「濫用防止」を掲げるが、その実質的な効果は、プロの投資家との対話(金銭的な利益追求)のみを残し、市民社会からの異論排除につながる可能性をはらんでいる。



