「脱炭素社会」の実現に向けた取り組みに、取り組みたくない理由(内閣府「気候変動に関する世論調査」2021年3月)として最も多かったのが、「地球温暖化への対策としてどれだけ効果があるのか分からないから」(48.4%)。
確かに自分の行った取り組みが本当に地球温暖化防止になっているのかを分からない状況で行動を継続するのは容易ではありません。しかし、実際に温暖化は進み続け、IPCC第5次評価報告書では、このまま地球温暖化が進むと、今世紀末には地球の平均気温が最大で約4.8℃上昇すると予測しています。
全世界の人にとって喫緊かつ深刻な課題であるにもかかわらず、改善できないのは何故なのでしょうか。取り組みたくない理由に私たちはどう向き合うべきなのか。特定非営利活動法人フォーエヴァーグリーンはこうした課題に独特の手法でアプローチしています。
今回は理事長の渡邊圭氏にフォーエヴァーグリーンの事業内容とステークホルダーへの感謝を伺うなかで、地球温暖化への効果的な啓蒙活動のあり方について探っていこうと思います。
環境問題にこそKPIを
特定非営利活動法人フォーエヴァーグリーンについて教えてください。
フォーエヴァーグリーンは、2001年に地球温暖化防止活動を行うことを目的として設立されました。と言うと、いわゆるチャリティ団体、つまり寄付を活動費として無償奉仕を行う団体を想像される方も多いと思いますが、私たちは違います。法人である以上、補助金や協賛に依存せず、企画提案・環境政策のコンサルテーションの報酬で活動資金を得るという事業コンセプトで環境問題に取り組んでいます。
環境問題に取り組む団体には、寄付や補助金、協賛などをメインに活動している団体が多いかと思うのですが、何故そういったものに頼らず活動していらっしゃるのでしょうか?
実は私がフォーエヴァーグリーン理事長になった2014年当初、学校で教育コンテンツを展開して寄付を募るという戦略をとっていた時期もありました。しかし、実際にやってみたら社会的なニーズが全くなかったんですよね。というのも、学校の週1回の総合学習の授業枠に対して、実績作りのためにも無償で教育コンテンツを実施する団体が多すぎて、枠の取り合いになってしまったんです。
私たちが参入した当時人気だったのはスマートフォンの使い方講座でした。有害サイトに近づかないとか、課金を勝手にしないようにといった内容は母親からのニーズが高く、緊急性もありました。もちろん環境問題が重要ということはみんな分かっていますが、やはり明日から使える情報を得たいと思うのは仕方ありません。ここは勝負すべき場ではないと思って手を引いたのですが、同時に大きな気づきがありました。それは、私たちは「教育コンテンツを提供した後のことを考えていなかった」ということです。
環境学習を受けた後にどうなるか?という問題ですか。
そうです。つまり、KPIがありませんでした。「地球温暖化を防ぐために二酸化炭素を削減することが必要です」と私たちが子どもたちに伝えることによって、何がどのくらい変わるのかを数値で示せていなかったんです。この数値化は簡単ではありません。以前、有名な環境活動家の方に「先生のこれまでの活動によって、一体どれだけの二酸化炭素が減ったのでしょうか?」と伺ったら、「難しい問題だね」と言われました。教えることが目的となってしまっており、本来の目的に沿った数値目標を明確化できる方や団体は非常に少ないと思います。教育活動に対する評価の可視化を望む以上、私たちも数字で効果や根拠を出すべきです。
当時の私たちは「茶道を通して物を大切にするライフスタイルを学ぶ」という環境学習と茶道体験を組み合わせた体験型カリキュラムを展開していたのですが、それも「物を大切にすることが大事だと気づいたら何が起きるか」をきちんと数字で示せるプログラムへと着地するようにしました。
正論を押し付けるより、感性に訴える
「環境学習と茶道体験を組み合わせた体験型カリキュラム」など非常にユニークな取り組みを行っているフォーエヴァーグリーンの強みはどこにあるのでしょうか?
私がミュージシャン出身なので、「感性に訴える」ことを大事にしています。茶道と出会ったのも米国でミュージシャンとして活動しているときです。ロサンゼルスから逆輸入した体験型環境学習カリキュラムとなっています。
「物を大切にしましょう!」と言われて行動に移す人は少ない。何故かというと、心に響いてこないから。でも、文化を通して感性に訴えれば気づくんです。例えば茶道の世界では、一期一会の気持ちで特別な茶碗を選ぶなど、干支と季節が組み合わされた茶器を使う場合、その茶器は12年に一度しか使いません。そのような珍しい茶碗を、今の時代の子どもに「iPhoneもGoogleも無いとして考えてね」と前置きして、どうやって探すか、そのくらいの想いをもって人をもてなすとはと話し合うと、物の大切さは伝わります。作った人、運んだ人、預かった人、紹介してくれた人、たくさんの人の想いや助けを借りて、やっと自分の想いを遂げられるのかと「気付く」と、物や人への感謝の気持ちは難しい話をせずとも簡単に理解できるのです。また、先にお茶を飲む際には「お先に失礼致します」と後の人への心遣いがあります。この礼儀作法を学ぶことは、実は環境に対する意識に共通する点が多いとアメリカで発見したのです。次の人に対する礼を持っていないことを、茶道の世界では良しとはしない。みんながこのような礼儀を持てば、環境問題は改善していくのではないでしょうか。
「物を大切にしなさい」と注意するより、「物を大切にしないとダサいな」「物を大切にするってかっこいいな」と思わせた方が人は動くはず。まずは感性に訴えかけ、それによって何が変わるかを、次のフェイズでは数字で出していくことが効果的だと思います。
感性に訴えかけるというのは非常に面白い着眼点ですよね。
2020年に渋谷で開催した『ピースフォーアース』も、感性に訴えかけることを狙ったイベントです。
これは渋谷のシンボルであるハチ公前に、SDGsを発信するかっこよくてお洒落なポスターを貼ることで、ミレニアル世代、学生等の若者にSDGsを認知してもらうことを目的とした啓発企画です。SDGsに興味のない人でも注目してしまうような言葉やデザインで、人を集めるのではなく、人がいる場所でメッセージを発信するという点を重視しました。結果、様々な人の目に止まるイベントになったと思います。
「私の代で地球温暖化を止めます」
数々のユニークな取り組みを行っていらっしゃいますが、やはりそれらは環境問題に対する強い気持ちから生まれるのでしょうか?
いや、全然。正直な話、環境問題なんてハッキリ言ってどうでもよかった、というか私の人生の主要テーマではありませんでした。地球環境が危ないということは初代理事長に会ってから知ったことで、当時は全く関心なかったです。ただ、今の私のモチベーションはフォーエヴァーグリーンの初代理事長から「頼まれた」、ということが最も大切なことなのです。私は起業して以来、「頼まれたことをやり遂げる」ことを信条にしています。これはお仕事ですので、やりたいことではなく、お願いされたことに対して全力でお応えするだけです。
初代理事長が私にフォーエヴァーグリーンを託してくれたとき、彼が70代で私は30代でした。日本エネルギー学会の会員が作ったフォーエヴァーグリーンは、非常に真面目に環境問題に取り組む団体で、率直に言うと、志は尊いが、ビジネス視点が欠けていたんです。初代理事もそれを分かっていて、法人を次世代に残すために私に話を持ちかけてくれました。
ビジネスモデルをきちんと成立させて、長期にわたって継続させてほしいと。
それもあるでしょうし、私に「地球温暖化を止めてくれ」と頼んだ以上、私ならできると思ってくれたのだと思います。誰も私に手術を頼まないのは、私が医者じゃないからですよね。地球温暖化の場合は、私が頼まれたので私ができるはずです。
だから私は自分の代で地球温暖化を止めます。そのためには具体的なプランを考えなければいけません。幸いにも、フォーエヴァーグリーンには、面白いことをやりたいという人が集まっています。私のアイディアを評価してくれる企業も増えてきました。フォーエヴァーグリーンは「結果以外にこだわらないこと」にこだわっています。メンバー間での会話も、思想を語り合うのではなく、「じゃあ何をやる?」という実践面のことばかり。ひたすら具体的に、感性に訴え、数字で効果を示すということを心がけ、今後も面白い活動を続けていきたいと思います。
特定非営利活動法人フォーエヴァーグリーンのステークホルダーに対しての感謝
人生を変えるような出会いというのは、そう何度もないと思いますが、新倉さんとの出会いはまさに私の人生を変えました。当時30代の私にフォーエヴァーグリーンを経営するという大きなチャンスをくださってとても感謝しています。地球温暖化防止は後もう少しで達成できるという期待を持ってフォーエヴァーグリーンの活動に取り組んでいるので、見守っていてほしいと思います。
ある勉強会から帰る電車が一緒だったので色々話していたら意気投合し、「まだ話し足りないから今度会おうよ」という出会いから、理事になってくれた方です。大企業出身なので、私の知らない領域から意見を出してくれています。お互いを補完しあえることに非常に感謝しています。
出会いは経営者専用のビジネスマッチングアプリです。第1回・第2回ピースフォーアースの事務局長を務めていただきました。私がプロデューサー、彼女がディレクターです。彼女がいなかったらイベントは実現できなかったと思います。私のビジョンを信じて、実現するために力を発揮していただき、心より感謝しています。これから仕事量や、それに伴って責任も増えていくと思うので、より大きな課題に柔軟な姿勢で取り組んでゆきましょう。
環境活動に対して非常に熱い心を持つストイックな方です。ESD(エディケーション for サステナブル デベロップメント)の関係者にご紹介頂いて以来、お会いするたびに環境やリスクについてなど色々教えていただいています。私たちの理念にご賛同いただき、ピースフォーアース2020川崎・渋谷ともにご支援いただきました。イベントは高木社長のおかげで実現できたところが多く、非常に感謝しています。
彼も非常に面白い人で、ユニリーバジャパンもさらにCSR活動を進めるべきだと上司に直訴したらしいんです。「それなら君に任せる」と言われ、“UMILE(ユーマイル)”というユニリーバのシャンプーボトルなど一部の商品を回収BOXに入れると、LINEポイントと交換できるサーキュラーエコノミープログラムを立ち上げたリーダーです。このプログラムが始まるのがピースフォーアース2020渋谷の開催時期と被ったこともあり、ユニリーバさんがイベントに参加してくれることになったんです。そんな繁田さんにお伝えしたいことは、「昨年はピースにご参加いただきありがとうございます。繁田さんの『次はいつですか?ぜひ参加させてください』という言葉が励みになっております。ユニリーバさんが猛烈にプッシュしてくれたおかげで、活動規模が広がりました。
ピースフォーアース2020渋谷では、フォトグラファーの山城さんとコラボすることで、彼の撮影したスーパーモデルたちのかっこいい写真をたくさん使わせてもらいました。彼とのコラボがあったからこそ、気候変動やSDGsへの取り組みのイメージを、ファッショナブルでかっこいいものとして発信することができました。イベントやフォーエヴァーグリーンのイメージも大きく飛躍できたと思うので非常に感謝しています。これからも面白いことをぜひ一緒にやっていきましょう!とお伝えしたいです。
私たちがピースフォーアース2020渋谷を開催するにあたって、たくさんアイディアを出してくれました。当時片岡さんは渋谷公園通り商店街振興組合の理事として、渋谷丸井、PARCOや西武渋谷店などへのご挨拶周りに一緒に来てくださり、コラボの営業まで提案していただきました。そうしたご縁がきっかけで、現在はフォーエヴァーグリーンの理事になっていただいております。彼自身が役者出身ということもあり、「感性に訴える」ことの重要性をよく話しています。幅広い人脈を惜しみなく提供してくださり、今のフォーエヴァーグリーンの学生インターンも何名かは彼からの紹介です。そんな片岡さんに言いたいことは、「もっと一緒に飲みに行きましょう。あーだこーだ色んな話をしながらビジネスのことも話したいです。色々な人を紹介していただいたり、アイディアをたくさんくださってありがとうございます。引き続き、ご協力のほどよろしくお願いします」
環境学の権威の先生であり、3日間で12万人を集客する日本最大級の環境展示会 エコプロダクツを立ち上げた方です。ピースフォーアース2020川崎を開催することが決まると、「喋りに行くよ」と先生自らが手を挙げてくださいました。業界のレジェンドともいえる山本先生に、ただ同じ業界の専門家と話してもらうだけではもったいないと思い、あえて地元・川崎市のアイドル「川崎純情小町」と、13歳のガールズスノーボーダーと女性起業家とweb上で対談してもらったんです。最初は先生も困惑していらっしゃいましたけど、実際にSDGsや環境問題を世間に広めるときには、同様の噛み合わなさや、食い違いが出てくると思うんです。そのギャップがあるなかで、どうすればコミュニケーションができるかを模索したいという思いがあったので、あえてお願いしてみたんです。
山本先生は対談の最初は自説を展開するスタイルでしたが、徐々にどうすれば受け入れてもらえるだろうか?という視点に変わってきたように思います。環境問題を啓発するうえで、「これをやらないと地球が滅びるよ」「あなた死ぬよ」なんて言われてもやる気は起こりませんよね。それより、少しエンタメ性も入れて朗らかな雰囲気で伝えた方が参加者の印象に残ると思います。先生にはご迷惑をお掛けしたことも多々あったと思いますが、イベントの趣旨を理解し、ご協力くださったことに本当に感謝しています。「できの悪い生徒で恐縮ですが、これからも教えていただきたいことがたくさんあるので、引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」とお伝えしたいです。
福島さんとの出会いは少し変わっています。私が以前、岐阜の学校に講演で呼ばれたとき、迎えの車に白髪の男性が座っていました。いただいた名刺に「オリエンタルランド」と書いてあるので驚いていたら、元社長さんだったのです。これは凄い縁だ、とワクワクしていたら、急遽宿泊予定のホテルの予約がとれなくなったということで、福島さんと二人で禅寺に案内されたんです。お寺の中をうろうろしながら、どうしようか?と困っていると、日本酒の一升瓶を見つけました。福島さんが「一杯やるか!」と言われたので、「お願いします!」と、非常に贅沢な時間を過ごさせていただきました。
実は私が大切にしている「感性に訴える」というのは福島さんからの受け売りでもあります。飲んでいるときに福島さんから、「ピノキオを知っているか?木の人形がグリーンフェアリーから勇気と思いやりと正直さを兼ね備えることができたら人間にしてもらえるという、ゼペット爺さんの子どもが欲しいという願いを叶える旅なんだよ。この勇気、思いやり、正直の3つこそが人間にとって一番大切なものなんだ。渡邊君も感性を大事にしなさい」と言われたんです。そこで福島さんから聞いた話は、今思い出しても学ぶべきことが多いと感じます。福島さんからはその後もたくさんの気づきや学びをいただいております。落ち着いて飲みに行けるようになったらぜひまたお酒をお供にお話をお聞かせいただきたいと思っています。「あの出会いを非常に感謝しています。今後ともどうぞよろしくお願いします」とお伝えしたいですね。
ぜひ、人生で一度はニューヨークを見に行ってほしいと思います。東京駅なんて目ではないほど巨大なビルが立ち並んでいるあのスケールの大きさを肌で感じてほしい。ロンドンやパリの美術館も良いですよ。
日本人は視野をもっと広げるべきだと思います。G7のメンバーである日本は、本来ならば世界をリードしていく役割を担っているはず。世界を変える可能性も十分に持っているでしょう。それにもかかわらず、肝心の国民が日本国内だけに目を向けているのはおかしいのではないでしょうか。
残念ながら日本人の視野はまだまだ狭いと思います。私が米国で生活しているとき、日本人として必要とされる瞬間を感じることが少なかったのを覚えています。例えばお風呂に入りに行くならコリアンタウンとか、安くて美味しいご飯ならチャイナタウンとか、それぞれの民族が多くの人を惹きつける独特の魅力を持っていました。一方リトルトーキョーはというと、比較にならないくらい小さく、その中で日本人同士が小競り合いをしている印象でした。本当は素晴らしいものを持っているのに、実にもったいないと思います。
日本は何かのきっかけで世界のヒーローにもなれる可能性を秘めています。だからこそ、まずは世界に飛び出してみてほしい。20代で起業した私の経験上、ちょっとやそっとの失敗はいくらでも取り返すことができます。未来世代の方も、欲しいものを得るため、夢を叶えるため、理由は何でも良いですから、一歩を踏み出してほしいと思います。もちろん私も踏み出しますよ。まずは日本で事業を展開し、世界に踏み出していきますから、ぜひ見ておいてほしいと思います。一緒に頑張りましょう。
<プロフィール>
渡邊 圭
26歳で起業し、アパレル業界を中心にマネージングディレクター、クリエイティブディレクターを経て、世界的アーティストのマーチャンダイズ企画でプロデューサー/デザイナーを務める。会社経営をしながらプロのDJとして活動。米国・ロサンゼルスでミュージシャンとしてデビュー。
2014年フォーエヴァーグリーン理事長就任。学童用環境問題教材や国際交流事業、六次産業化事業、今までにない新しい体験型環境学習カリキュラムやアクティブラーニングプログラムをプロデュース。ロジック理解だけでなく「感性で考える」を テーマに、新しい環境学習プログラムを開発。環境を破壊しない経済成長モデルを構築中。
<法人概要>
名称:特定非営利活動法人フォーエヴァーグリーン
住所
本部:東京都渋谷区神宮前六丁目23番4号 桑野ビル2階
支部:神奈川県横浜市中区弥生町1-5-1 506
電話番号:050-3702-0982
Mail:info@forever-green.jp
設立:2001年
事業内容:
・環境学習コンテンツ・アクティブラーニングコンテンツ、イベント制作・実施・レポート制作
・地方創生SDGsアプリケーション開発/普及
・エシカル商品開発/販売