
警察庁は、大分県別府市で2022年に発生した男子大学生死亡ひき逃げ事件で重要指名手配されている八田與一容疑者(29)について、懸賞金(捜査特別報奨金)の受付期間を1年間延長すると発表した。元々は今年10月末で終了予定だったが、2026年10月末まで継続されることになった。遺族による私的懸賞金を含め、最大で800万円が支払われる。
事件の経緯と捜査の現状
八田容疑者は2022年6月、別府市内の県道で停車中のバイクに軽乗用車で追突し、大学生2人を死傷させた上で逃走した疑いがある。制限速度を大幅に超過したうえ、被害者と事件直前にトラブルがあったことも判明している。
警察庁はその凶悪性を踏まえ、2023年9月に全国初となる「ひき逃げ容疑での重要指名手配」に指定。2025年6月には殺人と殺人未遂容疑でも逮捕状が請求された。
目撃情報は1万件超
大分県警によると、八田容疑者に関する情報提供は8月末時点で1万1059件に達している。そのうち「八田に似ている人物を見た」との通報が1万425件と大半を占め、地域別では関東が最も多く3919件に上った。九州1370件、近畿1366件、大分県内636件と全国に広がっている。また、ネット上の動画や画像に関する情報も990件寄せられているという。
「懸賞金ビジネス」の現実
懸賞金の延長は、市民の協力を得る上で一定の効果があるとみられるが、一方で寄せられる情報の多くは「人違い」で終わるケースが少なくない。海外では民間のバウンティーハンターが活発に活動し、懸賞金制度が逮捕につながる例も多いが、日本では制度として導入されてから実際の成功例は限定的だ。
今回の延長は「報奨金稼ぎ」への期待をあえて公に示した形でもあり、捜査機関が情報の精度をどう担保するかが課題となっている。
地域社会に広がる影響
観光都市・別府で起きたこの重大事件は、地域社会にも影を落としている。事件発生当時、地元では観光客から治安への不安の声が上がり、防犯カメラの設置や夜間パトロールの強化といった取り組みが進められた。事件から3年が経過してもなお、住民は「八田容疑者がまだ見つかっていない」という現実に緊張感を抱き続けている。
延長された懸賞金は、事件の風化を防ぎつつ、市民の監視の目を社会全体で維持する効果も期待されている。
県警の呼びかけ
大分県警捜査1課の松尾茂郎次席は「八田與一は皆さんのすぐそばに潜んでいる可能性がある。どんな些細な情報でも提供してほしい」と訴えた。また、県警幹部は「本件は県警にとって最重要課題の一つであり、総力を挙げて被疑者の身柄確保と事件の真相解明に取り組む」と強調している。
情報提供は別府警察署(0977-21-2131)まで呼びかけられている。