
二宮和也主演の実写映画『8番出口』が8月29日に公開され、わずか3日で興行収入9.5億円を突破。2025年公開映画の実写作品としてトップを走る大ヒットとなっている。一方で、劇中に登場する“津波を想起させるシーン”が観客の間で物議を醸し、SNSでは「閲覧注意」との声が相次いでいる。原作ゲームを知らない観客にとっては予期せぬ改変でもあり、自然災害の描写をめぐる表現の在り方に議論が広がっている。
ゲーム原作の実写化で大ヒットスタート
『8番出口』は、2023年にPC用インディーゲームとして登場したホラー作品を実写映画化したものだ。プレイヤーは地下通路を歩きながら“異変”を見抜き、出口にたどり着くことを目指す。
街灯の点滅、貼り紙の変化、人影の不自然な動きなど、わずかな違和感を見抜くことで進行する「観察力ゲーム」として人気を集め、累計販売本数は180万本を突破。実況動画を通じて海外でも話題となった。
この“出口にたどり着けるか否か”という独特の緊張感を実写映画として再現したのが本作である。
主演には嵐の二宮和也を起用。地下通路を舞台に、観客を不安と恐怖の連続に巻き込む構成は、公開前から注目度が高く、結果として公開3日で興行収入9.5億円を突破した。
“警告なしの津波描写”に戸惑い広がる
ただし、映画版には原作ゲームにはなかった描写が加えられていた。最大の議論を呼んでいるのが“津波を想起させるシーン”である。劇中、地下通路に泥水のような濁流が突如流れ込み、主人公を飲み込んでいく。さらに、濁流が引いた後には瓦礫が積み重なる。映像は極めてリアルで、東日本大震災の惨状を想起させる観客も少なくなかった。
SNSでは、
《心の準備がなかった。3.11を経験した身としては本当にきつかった》
《注意喚起なしであの津波描写は無理。PTSDを抱える人には危険》
といった声が相次ぎ、「閲覧注意」と警告を促す投稿が広がった。
原作ゲームとの違いと“予想外の改変”
原作ゲームにも“波が迫る”場面は登場する。しかしそれは「血の洪水」による演出で、津波を想起させる表現ではなかった。映画では泥色の濁流や瓦礫が描かれることで現実の災害映像を連想させる形となり、ゲームを知る観客も「予想外の改変だった」と驚きを隠せなかった。
映画ライターは「ゲームを知っていた人ほど落差が大きく、精神的ショックが強まった可能性がある」と分析する。原作を知らない観客にとっては、なおさら突如現れる津波描写に戸惑いを覚える結果となった。
公式が“後出し”で出した注意文
批判の高まりを受け、映画公式SNSは公開から3日後の9月1日、《ご鑑賞の皆様へ》と題した注意文を発表。《津波など自然災害を想起させるシーンがございます》と呼びかけた。
だがこの“後出し”対応には批判が殺到。
《初日に出さなければ意味がない》
《震災経験者にとっては耐え難い。なぜ事前に予告しなかったのか》
といった意見が寄せられ、配慮不足を指摘する声が広がった。
津波以外にも、リアルな嘔吐描写や喘息発作、奇形生物、赤ん坊の泣き声、男性の怒鳴り声などが“苦手な人は要注意”としてSNSで取り沙汰されている。これらは観客に強いストレスを与える可能性があり、海外作品では“トリガーアラート”として事前に明示されるケースが増えている。
映画ライターは「どこまでを警告対象に含めるかの判断は難しい。しかし災害大国である日本では、特に津波や地震の描写はセンシティブな題材であり、注意喚起が必要だった」と語る。
海外映画祭での評価と課題
『8番出口』は今後、トロント国際映画祭や釜山国際映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭でも上映が予定されている。映像のリアルさは作品の大きな魅力であり、国際的評価を高める可能性を秘めている。一方で、日本国内においては“配慮不足”が浮き彫りとなり、映画表現の自由と観客への配慮のバランスが改めて問われている。
大ヒットという華々しい成果の裏側で浮上した“トリガー問題”。映画業界にとって、観客の心の安全をどう守るかが今後の重要な課題となりそうだ。