株式会社VISITUSは東京・上野で地域に根ざした学習塾「進学個別桜学舎」を14年にわたって経営しています。一貫して指導してきたのは受験のテクニックではなく「学び」です。特に進学個別桜学舎の中学受験では中堅校に絞ったゆとりのある受験指導を行い、有名中学校への合格率を競うメジャーな大手進学塾とは一線を画した戦略を展開しています。
独自路線で学習塾界のインディーの雄になりたいと語る代表の亀山卓郎さんに事業への思いと株式会社VISITUSのステークホルダーについて伺いました。
社名の由来は“Visit us”
―株式会社VISITUSの事業内容について教えてください。
小学生から高校生までを対象にした進学個別桜学舎という学習塾を経営しています。現在社員は2名で、非常勤の講師は24名です。
―VISITUSという社名の由来は?
Visit usでヴィジタスと読みます。どうぞ我々をお訪ねくださいという意味です。学習塾なのでもちろん勉強を教えるのですが、勉強だけ教えて成績が上がったらもう終わりという関係性ではなくて、いろんな相談事まで丸ごと受けてしまうような場所。門は開かれています、どうぞ私たちを訪ねてくださいという意味でVISITUSという会社名にしました。
―学習以外の相談を受けることはありますか?
ありますね。親御さんから子育ての相談はもちろんありますし、そういったことを飛び越えて家庭の問題、ご夫婦の考え方の違いとか、私も事業者なのでご商売の話とか、子どもを通してご家庭の悩みを聞くことも結構あります。
進路って人生の中で結構大きな選択で、その人生選択の場に私たちはいるので、子どもたちからもいろいろな相談を受けます。小学3年生から私の塾に通い、大学に入学後も講師アルバイトで残ったりして、人生の半分以上を桜学舎にいるという生徒もいますので、就職どうしようとか、「先生、仕事ってどういうふうに考えたらいいの?」みたいなことも相談されます。そういうことも全部ひっくるめて、地域の中で何かあったら相談できる場所として存在することに、私たちみたいな私塾の意味があるのかなと思っています。
中学受験で疲弊する親子を救いたい
―塾の特徴について教えてください。
中学受験に限っては、トップ校受験のための指導をしないということです。試験にパスするためのテクニックを覚えることや意味を理解せずに丸暗記することは本来の学びではないからです。
中学受験するとなったとき最初どこに行くかと言ったら、皆さん大手進学塾を考えるじゃないですか。でも全員が大手のやり方に合うわけはなくて、激しい競争の中で夜遅くまで残されたりして疲れ果てているお子さんとか、我が子を少しでも良い学校に入れなきゃって思いすぎてノイローゼになってしまうようなお母さんってやっぱりいるんですよ。大手学習塾のやり方が合わなくて悩んでいらっしゃる方や、初めからそれを望んでいない方の受け皿となる場所。そういう場所でありたいと思いながら運営をしています。
―大手進学塾とは逆を行くということですか?
テレビCMを打つような誰しもが知っている塾。これがメジャーだとしたら私たちはインディーです。インディーでトップになりたいと思っています。全国区でなくて地域内でいいんですよ。「この地域でインディー派の人たちが筆頭にあげるのはどこ?」となったとき「進学個別桜学舎」って言ってもらえるインディーの雄になることを目標にしています。
−必要とされている手応えはありますか?
ありますね。選択と集中で、絞っていった方がはっきりわかる。それこそが差別化だと思うんですよ。皆さん差別化、差別化と言っているけど、私たちから見ると何も変わらないんですよね。私たちここが違いますと言われたところで、大手とあまり変わらないように見えます。
そうじゃなくて真反対。私たちは大手に立ち向かうつもりは毛頭ないので、中学受験で首都圏模試の偏差値で60以上の学校に行きたいなら大手に行ってくださいと公言しています。ある程度の難関校に合格するためには点を取るテクニックが必要で、そのための勉強をしなければ受からないからです。そのテクニックを学びたいなら大手に行ってくださいということです。
はっきり申し上げるので私たちの塾のことを嫌いな人は嫌いですよ。偉そうなことばっかり言うし、お母さんにお説教するし(笑)。面倒くさいなと思う人はいると思います。ただ強烈なファンもいるんですよね。上野の駅から歩いて10分もかかるような場所にわざわざ電車に乗って遠くから通ってくださる人もいるし、福岡の方がオンラインセミナーに参加してくださったり。
お会いする親御さんは初めて相談に来たときから涙ぐんでいたりすることもあるんですよね。「大手の学習塾に行っていたけれども自分と同じように疲弊してしまっている方はいっぱいいると思います」とおっしゃるので、当塾の存在をもっと知ってもらって、その人たちに訪ねてもらえたらなと思っています。
―亀山さんが塾の先生になったきっかけはなんだったのですか?
最初に大層な理念があったわけではないんです。すごく不純な動機で、学生のときバンドをやっていて、夜に稼いで、昼にスタジオに入れるアルバイトを考えたときに、バンドのメンバーがみんな塾の先生をしていたので、「私も…」という感じで始めたんですよね。そうしたら意外に責任が大きいということに気付き始めた。喋りが立って割と真面目なので生徒たちにもかなり信頼されて、自分で言うのもなんですがちょっと引っ張りだこの先生になっていったんです。
自分が必要とされているってことは結構ありがたいなって思うようにもなったし、自分が活躍できるステージって何だろうって考えていたときに、これも1つのステージになるんだっていうことに気付いていったんですよね。音楽でステージに上がりたいと思っていたんだけど、ステージ替えをしたというか、子どもたちの前に立って将来の選択に役立つ仕事をしていくっていうのも性に合っているんだろうなと思って、塾の先生になるという選択をしました。塾の先生になってからも、やっぱり必要とされることが多かったので、続いてきたんですね。何だかいろいろと相談されちゃうんですよ。
株式会社VISITUSのステークホルダーについて
兄弟で通ってくれるのは信頼の証
―御社のお客様について教えてください。
通って来てくれる生徒の皆さんですね。お客様ですし、もちろん皆さん大切なんですけれど、その中でも特にご兄弟を預けてくださるのはとてもありがたいと思うんですよね。3兄弟全員預けてくださったりするご家庭は全幅の信頼をいただけていることは間違いなく、本当に感謝しています。
それから最近は、教え子がうちの子をお願いしますって預けてくださるパターンが出て来たんですよ。これもやっぱり信頼の証と言うか、そのおかげで他のご家庭からの信頼が得られています。
もう一つ特徴的なのはお客様が当塾の講師になると言うパターン。今も8割ぐらいが卒業生講師なんですよ。中学受験から塾生として通ってくれて、今講師として働いてくれる教え子が数多くいます。元はご家庭からお月謝をいただいていた教え子たちで、いろいろ考えるとお客様との関係の積み重ねでうちの塾は成り立っていますね。
塾業界に骨を埋めると言ってくれた卒業生
―今社員のお話も出ましたが、特にエールを送りたい社員の方というのはいらっしゃいますか?
今当塾の筆頭の社員です。彼は私がこの塾に合流する前に奥さんが塾長だった時代の生徒なので、実際、私が出会ったのは彼が講師になってからなんですが、ここに居着いてくれてもう13年になります。哲学が専門だったので、フランスに留学したいという時期もあって一度ここを離れたんだけれども最終的に帰ってきて、「僕は塾業界に骨を埋める覚悟をしました」と言ってくれた。
塾講師はアルバイトとして大学の4年間働いて、就職して「ありがとうございました」って出ていく人が多いですよね。その中でこの業界に残って「僕も塾で食べて行きます」って言ってくれたのは非常に嬉しいし、彼を一人前にする責任は私にあるんだろうなと思っていて、今、一本立ちできるように一生懸命育てているところです。
彼が残ってくれたことはうちの会社だけではなく、業界全体としても大きいかなと思っています。フランチャイズに加盟して、生徒をお金に換算して、生徒集めることに必死になるのではなくて、街の塾の先生として地域社会に貢献していける人、みんなの困り事を受け止められるような先生というのがやっぱり地域地域にいないと塾業界は衰退すると思うし、そういう業界であるべきだと思うんですよね。私はそう思いながら1人で勝手にやっていたんだけど、そこにちょっと粋を感じて「塾長みたいになりたい、やりたいです」って言ってくれたというのは非常にありがたいなと思いますね。本当に頑張ってほしいなと思っています。
隠岐にもオンラインでも教室と変わらぬ授業を展開
―お取引先で特に感謝を伝えたい方などはいらっしゃいますか?
島根県隠岐郡の西ノ島町教育委員会です。こちらが取引先として私が一番感謝したいところです。進学個別桜学舎は隠岐群島にある西ノ島のお子さんたちに週2回オンライン授業を行っています。島には個人の学習塾がないので学力をやっぱり懸念されるわけですよ。だから教育委員会が公的に放課後スクールのような形で週に2回、西ノ島学習塾というのを開いているんですね。
きっかけは東京で開かれた高校合同説明会に西ノ島町教育委員会の方が隠岐島前高校や島での学生生活などの説明にいらしていて、その親睦会の席で私たちの提案を真面目に聞いてくださったことです。「iPadを使って動画の授業を取り入れたものの、どうもうまくいかない」とおっしゃるので、それはそうでしょうと。「人と人との結び付きが強い島文化で暮らしている子どもたちに、東京で使っているような一方的な映像授業を見て勉強しなさいって言っても効果は薄い」と。「人と人がちゃんと繋がっているような授業じゃないと受け入れられないですよね」っていうところから、Zoomのような形でコミュニケーションを取りながら進める授業を島に提供できますよという話をしたら、その提案に乗ってくださったんです。私たちとしてはリアルの生徒の傍でパソコン繋いで、もう1人教えている感じです。今年3年目のご契約をいただきました。
英語や数学の指導をしているんですけれども、大手のような信用もない小さな塾の提案を地方の公共事業として採用していただくのは非常に難しいところですが、フットワークよく即断即決で採用してくださったんです。地方との繋がりができて、逆に東京から島根の高校に進学する子が出てきたりもしています。東京で行き詰まって困っている子どもたちに、島根というすごくバラエティに富んだ進学先を提案できるようになりました。弊社の実績としても西ノ島町でやっていることというのは非常に効果があって、おかげさまで他の地域からも問い合わせをいただけるようになってきているんです。
あと、このオンライン塾って学生が島の子どもたちに教えたりすることもあるのですが、それが地域興しに興味を持つことに繋がって、彼らにとってもすごく勉強になっているんですよね。
西ノ島町の町長や教育委員会の担当・三島さん、西ノ島学習塾のスタッフの皆様には本当に感謝申し上げます。
地域に生徒のことを親身になって考える塾の先生がいることを知ってほしい
−地域社会への貢献についてはいかがですか?
今、当塾と近隣の私塾の先生と3人で「下町塾長会議」というYouTubeをやっているんですよ。違う塾の先生が3人集まって「お悩み相談・子どもが勉強しないのですが……」とか「男子校ってどう?」「塾選びのポイント」などなど、よもやま話を公開していくチャンネルです。塾の先生が堅い話をひたすら話すチャンネルはいっぱいあるんですけど、こういうチャンネルって今までなかったんですよ。でも塾長の会合などで集まると、「こういう子がいて困ってるんだけど、先生のところではどうしてる?」などと、意外にも情報交換したり助け合ったりしてるんですよね。そういう感じでよもやま話を繰り広げています。
塾の先生ってやっぱり真面目だから自分のところの生徒のことを四六時中心配しているんです。そういう先生がいるんだということを地域の人に知ってもらうべきだと思って2年前にこのチャンネルを始めました。悩んでいるお母さんたちがどこに相談したらいいか情報がなくて困っているのは私たちにも責任があるよね、宣伝しないって罪だよねと思いながら、もうほぼライフワークとしてやっています。公開した動画は100本を超えて、今はかつしかFMで月1でラジオ番組もやっています。
こういうことをやろうよと言ったとき、賛同してくれる人と、「そんなの意味あるの?」って動けない人がいて、吉元先生と飯塚先生は、「いいね!」って乗ってくれた。YouTubeやりましょう、ラジオやりましょう、テレビ出ましょうって、私1人ではやっぱりできなかった。この2人には本当に感謝を伝えたいです。よくぞ乗ってくれましたと。
このメディアでの活動は、大手進学塾の対極に地域の個人塾という選択肢があるというムーブメントに発展させるための第1段階と私は考えていて、この輪がもっともっと大きくなることを願っていますが、まずはこの3人だったから動き出せたんだろうな、と思っています。
一般社団法人下町塾長会議
https://shitamachi-jukucho.com
信用金庫は地域の味方
―感謝を伝えたい金融機関はありますか?
朝日信用金庫さんですね。いくつかの銀行さんとの取引もありますけれども、地域の中で私たちのような個の商売をしていると、やっぱり小回りよく動いていただけて、規模や状況に合わせて有利な融資とかをご紹介してくださる朝日信金さんのような金融機関は非常にありがたい存在です。元々は台東区の産業振興課でご紹介を受けたのがきっかけですが、区の斡旋融資の情報に関して圧倒的に強い。こういうやり方があるからこっちに切り替えた方がいいんじゃないですかというような提案を的確にしてくださる。本当にそういう形の支援は他と比べるとちょっと突出していますよね。地域の小さな商店や中小企業が発展するために動いてくれるので、すごく親身なんです。だから私は朝日信金さん好きですよ。本当にありがとうございます、とお伝えしたいです。
真剣にやってきたことだから、次の世代につなぎたい
―未来世代へ向けて、何か伝えたいことはありますか?
私には実は子どもがいないんですね。「先生は子どもがいないからこの気持ちわからないでしょ?」って言われたこともあって、一時期子育てに関わる仕事はやっぱり無理なのかなって思ったこともあったんですが、あるとき、やっぱり子どもがいないけれど塾をやっている先輩に「逆だよ、先生。子どもがいない人間こそが子育てに参加しなかったら不公平でしょう?『子どもがいないから俺は関係ない』って人が増えたらこの国は潰れちゃうよ」って言われたんです。「子どもを育てている人はそれだけで十分貢献しているから、むしろ子どもがいない人が子育てに関わることで、ようやくプラマイゼロくらい。だからそういう人ほど子育てに関係する仕事をしなきゃ駄目なんだ」とお説教されました。そのとき私がこの仕事をすることには意味があるなと思えたんです。
私たちに子どもはいないけれど、社員になってくれた教え子たちが今2人います。私は信念を持って、地域に根ざして勉強も相談事も全部引き受けるというやり方で塾を経営してきたので、そのイズムを後からついてくる若者たちに継承して拡散していってもらえたらなという思いがあります。だから次に繋がる世代の彼らを育てるということが私の今の仕事だと思っています。
【企業情報】
株式会社VISITUS(ヴィジタス)
代表取締役:亀山卓郎
東京都台東区上野桜木2-10-3 MSビル1-4F
http://www.ueno-sakuragi.com
創業:1997年9月
事業内容:学習塾・予備校・通信制高校学習センターの経営、教育出版物・教材の開発・販売、各種教育委研修・セミナーの開催など
従業員数:26名(正社員2名、時間講師24名)
【亀山卓郎 近著】
「ゆる中学受験」(現代書林)
「めんどうな中学生(わが子)を上手に育てる教科書」(Book Trip)
【進学個別桜学舎 学習監修】
「おっぱっぴー小学校算数ドリル」小島よしお著 (KADOKAWA)