
オンラインゲーム大手のガンホー・オンライン・エンターテイメント(東証プライム:3765)が、9月24日に臨時株主総会を開く。最大の焦点は、アクティビスト株主であるストラテジックキャピタルが提出した森下一喜社長の解任議案だ。会社側はこれに真っ向から反対姿勢を示し、直前には元幹部社員による総額3億4,600万円規模の不正流用が発覚。ガバナンスと経営責任を巡る議論が一気に加熱している。
“仕事依頼サービス”悪用の手口 架空発注で2億円超着服
8月14日の適時開示によると、元幹部社員は過去数年にわたり、他社運営の仕事依頼サービスサイトを介し、ガンホーを発注者、自身を受注者とする架空の業務契約を繰り返し、業務委託費の大半を着服。被害額は約2億4,600万円に上った。
さらに、別の取引先に対しても業務実態がないまま業務委託費を支払い、約1億円を不正流出させていた。この不正は権限の集中と隠蔽工作により長期間発覚せず、同社は7月24日付で懲戒解雇とし、刑事告訴の準備を進めている。
社内調査で単独犯と断定 背景に統制不備
社内調査チームと外部専門家によるフォレンジック調査で、組織的関与はないと断定。ただし、背景には「元社員の著しいコンプライアンス意識欠如」「外部事業者発注プロセスの抑止力不足」「権限集中による業務内容のブラックボックス化」「個別取引モニタリングの機能不全」など複合的要因があったと同社は説明している。
ガンホーは過去にも、社員の不正を許している。ラグナロクオンライン全盛期の2006年に不正を監視する側の責任者GM(ゲームマスター)が不正にゲーム内で仮想通貨を作ってリアルマネートレード業者に販売し、後に男は逮捕されていた。一度起こした社員の不正が再度起きたことを考えると、現段階では、コーポレートガバナンスに対する意識が低い会社と言わざるを得ない。
再発防止策として、(1)コンプライアンス教育・研修の拡充、(2)発注・支払承認プロセスの内部統制強化、(3)リスクベースの内部監査導入を打ち出した。また、経営責任を明確にするため、森下社長は8月から3カ月間、月額基本報酬を30%減額、業務執行取締役も同期間10%減額する。
一方で、今回の臨時株主総会では、こうした内部統制やガバナンスの在り方そのものにも関わる株主提案が上程される。提案の当事者は、日本のアクティビスト投資の草分け的存在として知られるストラテジックキャピタルだ。
ストラテジックキャピタルとは
ストラテジックキャピタル(SC、東京・渋谷)は、丸木強(まるき・つよし)氏が2012年9月に設立した日本発のアクティビスト(物言う株主)投資ファンドである。丸木氏は日本のアクティビスト投資のパイオニアの一人で、日本初の本格的なアクティビストファンドとされる旧村上ファンドの創業メンバーでもある。野村證券勤務を経てM&Aコンサルティング(後のMACアセットマネジメント)の創業に参画し、その後ストラテジックキャピタルを立ち上げた。
資本金は5,000万円、本社は東京都渋谷区に所在し、投資運用業・投資助言業・第二種金融商品取引業などを展開。責任投資原則(PRI)やTCFD提言にも署名している。日本投資顧問業協会の統計によれば、2024年9月時点の運用資産額は1,000億円に迫る規模となっており、上場企業に対してガバナンス改善や資本効率向上を目的とした株主提案や企業との対話を積極的に行っている。今回のガンホー株主提案も、そうした活動の一環である。
株主提案は森下社長解任と定款変更
臨時株主総会では会社提案として「定款一部変更(取締役解任決議要件の加重を削除)」が上程される。一方で、株主提案としてストラテジックキャピタルが「森下一喜社長の解任」を提案しており、同趣旨の定款変更案も株主側から提出されている。第1号議案(会社提案の定款変更)が可決された場合、第2号議案(解任案)は普通決議で可決可能となる。定款変更案は、株主による追加取締役選任を容易にし、経営陣の保身を防ぐ狙いがある。
解任提案理由として株主側は、過去10年で時価総額が4,567億円から1,496億円へ約67%減少、営業利益も724億円から174億円へ約75%減益と指摘。世界のゲーム市場が4倍以上に拡大する中、他の大手ゲーム企業が株価を数倍に伸ばす一方、同社は▲35%と劣後しているとする。
さらに、「パズル&ドラゴンズ」以降13年間ヒット作を生み出せず“一発屋”と化したこと、社外取締役の独立性不足、森下氏の報酬増額や株主との対話拒否などを列挙し、「経営責任を果たしていない」と断じた。
会社側は全面反論 「森下氏は企業価値の源泉」
これに対し会社側は、森下氏はラグナロクオンライン日本導入やパズドラ開発指揮、Gravity社子会社化などで日本のオンラインゲーム市場を切り開き、10年以上売上高1,000億円規模を維持してきたと評価。
パズドラのロングヒットは「世界的にも稀有」とし、他タイトルも収益を確保。株価比較は事業構造が異なり恣意的だと反論する。仮に解任すれば「主要ゲーム収益の大幅低下、開発人材流出、部門混乱で企業価値毀損の恐れ」と警告。
また、報酬増額は株主承認済みの業績連動導入によるもので合理性・透明性があると説明。株主との対話はCFOや社外取締役が対応しており、森下氏の開発専念は企業価値向上に資すると主張した。社外取締役の独立性についても、東証および社内基準を満たし法令通り開示していると反駁している。
臨時総会は9月24日、ガバナンス刷新なるか
今回の不正発覚と株主提案は、同社のガバナンス構造に対する株主・市場の視線を一層厳しくしている。経営トップの解任可否に加え、定款変更による株主権限強化が可決されれば、今後の経営陣人事に直接的な影響を及ぼす可能性が高い。
不正の傷跡が生々しい中、株主は“創業者社長”の続投と刷新のどちらを選ぶのか。9月24日の臨時株主総会は、単なる経営者人事を超え、同社の統治体制の方向性を決定づける節目となる。