タイ・カンボジア国境で武力衝突、死傷者160人超に

タイとカンボジアの両軍が領有権を争う国境地帯で衝突し、現地時間25日までに戦闘は2日目に突入した。タイ保健省やカンボジア国防省の発表によると、双方で少なくとも28人が死亡し、130人以上が負傷した。避難者は13万人を超え、戦闘は依然続いている。
事態を重く見た国連安全保障理事会は25日、緊急会合を開催。カンボジアのチア・ケオ国連大使は会合後、「無条件の即時停戦を求める」と述べた。一方、タイのプームタム・ウェーチャヤチャイ暫定首相も同日、「戦争へと向かう可能性がある」と警告した。
100年以上の対立が再燃、砲撃と戦闘機も投入
戦闘が始まったのは24日朝、タイのウボンラーチャターニー県とスリン県にまたがる係争地だ。2008年から2011年にも戦闘が繰り返されたこの地では、2013年の国連裁判所の判決により一旦は沈静化したものの、2025年5月に再びカンボジア兵の死者が出たことで火種が再燃していた。
今回の戦闘では、両軍が重火器を使用し、戦車やロケット砲、さらにはタイ空軍のF-16戦闘機も出動する事態に発展。戦闘は古代寺院周辺を含む複数地域に拡大しており、激しい地上戦が報告されている。
タイはカンボジアを「民間インフラ攻撃」と非難
双方は先に攻撃を仕掛けたのは相手側だとして非難を応酬している。タイ側は、病院やガソリンスタンドがロケット弾や砲撃の標的となったと主張し、「カンボジアによる民間インフラへの違法な侵略行為」と糾弾。一方のカンボジア国防省報道官は、「自衛の範囲内で応戦した」とし、タイの主張に反論している。
タイ保健省によると、民間人14人と兵士1人の計15人が死亡し、兵士を含む46人が負傷。避難民は13万8000人に上る。カンボジア側は13人の死者と71人の負傷者を発表しており、戦闘による死傷者は合計で160人を超えている。
ASEAN議長国・マレーシアの仲介なるか
タイ外務省報道官ニコルンデイ・バランクラ氏は、戦闘は25日午後には小康状態になりつつあるとしながらも、「対話の用意がある」と述べた。同氏はまた、ASEAN議長国であるマレーシアを介した仲介の可能性にも言及しており、地域協調による外交解決が注目されている。
現地ではなお緊張が続いており、カンボジアの町サムラオンでは、爆撃の音におびえながら家財道具を積んで逃げる家族の姿も確認された。現地住民の男性(41歳)は「私は国境のすぐ近くに住んでいます。怖いです」とAFPに語り、家族と共に仏教寺院へと避難していた。
国際社会は即時停戦を呼びかけるが…
国連安全保障理事会は非公開会合の後、双方に「最大限の自制」と「外交的解決」を求める声明を発表。ただし、会合後に記者団に応じたのはカンボジア代表のみであり、タイ側からの具体的な発言は確認されていない。
観光業を支える両国間の国境は、年間数百万人の外国人観光客が行き交う重要な接点でもある。今回の衝突が長期化すれば、地域の安全保障だけでなく経済にも深刻な影響を及ぼしかねない。
今後、ASEANや国際社会がどのように介入し、和平への道筋を描くのかが問われている。