ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

神谷宗幣が斬り込む「延命ビジネス」終末期医療と年金依存、膨張する社会保障費のゆがみとは

ステークホルダーVOICE 未来世代
コラム&ニュース コラム ニュース
リンクをコピー
終末期医療
Sasin TipchaiによるPixabayからの画像

参政党代表の神谷宗幣氏は、2025年7月8日、終末期医療にかかる医療費の全額自己負担化を参院選の公約として掲げた背景について、「啓発する思いがある」と説明した。盛岡市での遊説中、記者団の質問に応じたもので、終末期に向けて備える意識の必要性を国民に訴える狙いがあるという。

一方、福岡資麿厚生労働相は同日、「生命倫理に関わる問題として慎重な検討が必要」と述べ、全額自己負担化には否定的な立場を示した。

 

神谷氏が公約に掲げたのは、「過度な延命治療に高額医療費をかけることは、国全体の医療費を押し上げている」という指摘を基にしたものだ。胃ろうや点滴、人工呼吸器による延命措置を原則行わず、その費用は本人負担とすることを提案。

さらに、本人の意思を尊重し、医師の法的リスクを回避する「尊厳死法制」の整備も主張している。

延命の常識は国によって異なる

 

神谷氏の提起は、単なるコスト論にとどまらない。背景には、日本の終末期医療が、世界標準からかけ離れているという問題意識がある。欧米諸国では、意思疎通ができない高齢者に対し、延命措置を行わないというのが常識となっている。オランダやベルギーでは、回復の見込みがないと判断されれば、「いかに穏やかに命を終えるか」に重点が移る。フランスや北欧諸国でも、胃ろうによる栄養投与は一般的でなく、食べられなくなったらそれが「自然な終わり」として受け入れられる文化がある。

これらの国では、本人が生前に意思を書面にしておく「アドバンス・ディレクティブ」が普及しており、「望まない延命はしない」という選択が可能だ。いわゆる「尊厳死」が、医療と文化の中に制度として組み込まれているのである。

 

医療費の裏側にある“誰も望まない延命”

一方の日本では、患者本人の意思が不明である場合、医師や病院は「延命しないと訴訟になるかもしれない」「家族から苦情を受けるかもしれない」というリスク回避のために、胃ろう、点滴、人工呼吸器といった措置を取りがちである。結果、地方の療養病床では、意識も回復もない患者が何年も寝かされたままの状態に置かれ、その医療費の大部分は税金や保険料でまかなわれる。

これは医療の名を借りた「延命ビジネス」とも言える側面を持つ。現場の医師たちも、本心では「このような医療はしたくない」と感じている者が多く、実際、終末期医療の現場を離れる医療従事者も少なくない。

 

そして、もう一つ見逃せないのは、こうした延命が患者の意志に基づくものではなく、むしろ年金を生活資金とする親族によって“延命させられている”という構図だ。医療が生命の延長ではなく、社会的保障制度に依存した“生存維持装置”に堕しているとすれば、それは制度の歪みそのものである。

未来を担う世代のために、終末期医療の見直しを

 

現役世代が支える社会保障制度は、今や限界に近づいている。高齢者人口の増加とともに膨れ上がる医療費は、将来世代の財政を圧迫するだけでなく、現役世代の可処分所得や教育費、育児支援などの予算をも削っている。

「終末期に医療を受けられる国は豊かな証拠」との論調もあるが、果たしてそれが「誰もが望まない延命」に費やされているとすれば、本末転倒だろう。生きることの尊厳とは、苦痛に満ちた時間を延ばすことではなく、自分の意志で人生の最期を選ぶ自由にこそある。

 

神谷氏の提案がすべての人に受け入れられるわけではない。だが、「死なせてもらえない社会」でよいのか、という根源的な問いを提示した点において、極めて重要な論点提起であることは間違いない。

いずれにせよ、終末期医療と社会保障制度のゆがみを放置したまま、次の世代へとこの社会を引き渡すわけにはいかない。いつか誰かが、痛みを伴う議論に向き合わなければならないのだとすれば、その役割を担う覚悟をもつ政治家の存在は不可欠である。

その意味で、こうした問題提起すら避け、耳障りのいいスローガンや生命軽視と批判ばかりを繰り返す既成政党や政治家たちは、未来の子どもたちから「なぜあのとき改革を行わなかったのか」と問われることになるだろう。

今こそ、「死」と「生」に真正面から向き合う政治の姿勢が問われている。

【この記事を読んだ人におすすめの記事】


Tags

ライター:

ライターアイコン

寒天 かんたろう

> このライターの記事一覧

ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

関連記事

タグ

To Top