
2025年10月1日に施行される育児・介護休業法の改正は、育児期にある労働者の働き方に大きな柔軟性をもたらす一方で、企業側には個別対応と制度整備の徹底が求められる内容となっている。制度の概要と改正前後の違い、そして実務への影響を整理する。
改正の概要:2つの柱で仕事と育児の両立を支援
今回の法改正では、以下の2点が新たに義務付けられる。
- 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の導入(3歳〜小学校就学前の子を持つ労働者対象)
- 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮の義務化
この改正により、企業は単に制度を用意するだけではなく、労働者一人ひとりの育児環境や希望に即した柔軟な働き方を支える必要がある。
改正前後の主な違い(比較表)
項目 | 改正前(2021〜2022年改正) | 改正後(2025年10月施行) |
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個別周知・意向確認 | 育児休業の制度内容を知らせ、意向を確認するまで | 内容の説明に加え、働き方の意向聴取・配慮も必要に |
対象時期 | 妊娠・出産の申し出時など | 出産の申し出時、または子が2歳11か月になるまでの1年間 |
企業の対応義務 | 制度の説明、意向確認のみ | 労働者の事情に応じた就業条件の見直し、調整配慮が必要 |
柔軟な働き方措置 | 努力義務または限定導入 | 5項目中2つ以上の制度導入が義務化 |
周知手段 | 面談、書面等 | 面談(オンライン可)、電子メール等も可 |
労働者にとっての影響:柔軟な選択肢と配慮の強化
改正によって、労働者は以下のような恩恵を受ける。
- 柔軟な働き方の選択肢が拡大
- フレックス勤務、短時間勤務、月10日以上のテレワーク、保育支援、育児支援休暇などから1つを選択可能
- 個別事情への配慮が明文化
- 子に障害がある、一人親家庭などの事情に応じた働き方の調整が可能となり、労働環境の改善が期待される
- 意向を伝える機会が定期的に確保される
- 面談や意向確認が定期的に実施され、希望や課題を相談しやすい仕組みに
企業にとっての影響:制度整備と運用の高度化が必須に
企業側には、次のような対応が求められる。
- 制度の選定と就業規則改定が急務
- 5つの措置(フレックスタイム、テレワーク、保育支援、育児支援休暇、短時間勤務)から最低2つ導入が義務化されるため、実施内容の検討と就業規則の整備が不可欠
- 人事担当者・管理職への制度周知と教育
- 意向聴取・配慮の場面で誤解や萎縮が起きないよう、所属長や管理職への研修が求められる
- 人事管理の効率化にツール活用も重要
- SmartHRなどの人事労務ソフトを活用し、アラート機能・面談記録の保存などで対応漏れを防止
- 助成金など外部支援の積極活用
- 両立支援等助成金など、制度整備に活用できる助成制度の導入も検討したい
今後の展望:改正は人材確保・企業評価の好機に
本改正は、単なる制度変更にとどまらず、職場環境の質向上と労働者満足度の向上につながる可能性が高い。育児・介護の両立が求められる今、企業が柔軟な働き方の支援に積極的であることは、優秀な人材確保、ひいては企業の社会的評価の向上にもつながる。
中小企業にとっては対応負担も大きいが、外部の専門家の支援や行政の助成制度を活用しながら、制度設計・運用を前向きに進めることが望まれる。