
「シリコンロード」と称される京都府は、電子部品・半導体装置・ゲーム・物流など多彩な業種が集積する“技術と伝統”の交差点だ。本稿は各社の決算短信・有価証券報告書など一次資料のみを突合し、連結売上高(金融は経常収益)を基準に“県内に本社(登記本店)を置く企業”20社で作成した最新ランキングだ。
20 位 TOWA〈京都市伏見区〉 売上 534億7,900万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は534億7,900万円(前年比+6.0%)、営業利益88億8,000万円で営業利益率は16.6%と高水準を維持した。Tech Insights調べでは、同社の半導体モールディング装置は2022年に世界シェア66%を記録しており、コンプレッション成形技術で圧倒的首位を固める。2024年3月期決算説明資料によれば、生成AI向け高性能半導体や中国の通信デバイス投資を背景に、独自コンプレッション装置と金型の受注・売上が通期で過去最高を更新した。さらに公開された第二次中期経営計画では、2026年3月期に売上560億円、営業利益率17.5%を目指し、車載・パワー半導体需要が拡大するアジア市場での拡販とサービス収益の強化を掲げている。
19 位 京都フィナンシャルグループ〈京都市下京区〉 経常収益 1,672億5,800万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結経常収益は1,672億5,800万円(前年同期比21.5%増)に達した。同社は京都銀行を中核に、証券・カード・リースなど計11社を束ねる体制を整備し、法人向けソリューションを拡充している。さらに、株式会社ことらの発表によれば、携帯電話番号だけで送金できる「ことら送金」の累計取扱額が2025年3月に1兆円を突破し、決済関連手数料を押し上げた。その結果、連結経常利益は509億円と過去最高を更新し、2026年3月期も増益が見込まれる。地域金融の枠を超えたデジタル戦略が収益多角化を後押し、同社は株主還元策として年間配当を70円へ引き上げる方針を掲げている。
18 位 ワコールホールディングス〈京都市南区〉 売上 1,738億9,600万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上収益は1,738億9,600万円で前年同期比▲7.1%となったが、固定資産売却益が寄与し純利益69億8,900万円へ黒字転換した(IFRS)。同社は中期計画で国内外100店舗に3Dボディスキャナーを導入し、AI計測データに基づくサイズ提案で返品減を狙う。ECも堅調で、国内ワコールのEC売上は187億円(+3%)、主要5社合計のEC化率は30.8%に上昇した。決算説明資料では2026年3月期に売上収益1,875億円、EC構成比35%を目指す方針を示しており、北米・欧州事業の立て直しとOMO強化が成長ドライバーとなる。
17 位 ニチコン〈京都市中京区〉 売上 1,757億5,100万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は1,757億5,100万円となり、全体では前期比3.2%の減収だったが、エネルギー制御機器を担うNECST事業は765億8,300万円で1.8%の増収を確保し、家庭用蓄電システムとV2H関連が伸長した。決算短信はまた、車載向け導電性高分子アルミ固体電解コンデンサがADASや生成AIサーバー向けに需要を広げたと分析している。2025年4月に発表された新「PCY」シリーズ(125℃対応導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ)は7月から量産開始予定で、太陽光・風力発電向けパワーコンディショナーなど再エネ機器への採用を見込む。同社は車載市場の在庫調整に直面しつつも、ハイブリッド車需要の底堅さを背景に京都・福井両工場で増産体制を強化。車載用コンデンサと蓄電・V2Hシステムの両輪により収益性の回復と事業ポートフォリオの多角化を狙う。
16 位 NISSHA〈京都市中京区〉 売上 1,956.0 億円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:2024年12月期連結売上高は1,955億9,800万円(前年比+16.6%)、営業利益は54億8,600万円へ黒字転換した。医療機器を扱うメディカルテクノロジー事業が買収効果で伸長し、同事業比率が3割強に達した。海外売上比率は86.6%と高水準を維持し、為替リスクを現地生産と予約取引で抑制している。産業資材事業では、成形同時加飾(IMD/IML)フィルムの北米EV内装採用が拡大。2024年10月開催の「Automotive Interiors Expo 2024 Europe」ではモビリティ向け装飾・機能フィルムを出展し、感光性センサーやヒーター内蔵品を披露した。さらに、EVフロントパネル用フィルムヒーターが寒冷地仕様車に採用されるなど新規案件が進行中で、同社は2026年に売上高1,908憶円・営業利益率3.5%への上積みを計画している。
15 位 堀場製作所〈京都市南区〉 売上 3,173億6,900万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:2024年12月期連結売上高は3,173億6,900万円と過去最高を更新した。排ガス計測装置「MEXA」シリーズはHORIBAレポートが示すとおり世界シェア約80%を握り、欧米の環境認証機関でも標準機材となっている。半導体分野では子会社HORIBA STECの質量流量計(MFC)がEUV露光装置向けに採用され、アジア電子工業新聞はグローバルシェア約60%と伝えるほか、新型「DZ-107」を2025年1月に投入し20 SLMと10 mm筐体を両立した。自動車排ガス規制強化と次世代半導体投資が両輪となり、2024年第3四半期時点の売上営業利益率は15%台を維持しており、高い収益性(10%超)を保っている。
14 位 宝ホールディングス〈京都市下京区〉 売上 3,626 億9,300 万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025 年3月期連結売上高は3,626 億9,300 万円で、前期比+6.9%と増収を確保した。主力の酒類事業ではRTDテコ入れ策として、9月からタカラ「焼酎ハイボール」キレの5%シリーズを順次リニューアルし、フレーバーや酒質を刷新して需要を取り込む方針を示した。一方、バイオセグメントでは子会社タカラバイオの遺伝子治療CDMOなどを含む「遺伝子医療」領域の売上が37億5,700万円と前年同期比17.1%増となり、グループ全体の増収を下支えした。
13 位 ローム〈京都市右京区〉 売上 4,484億6,600万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は4,484億6,600万円となり、前期比4.1%減ながら自動車向けSiCパワー半導体が売上の約4割を占めたと決算短信は報告する。吉利汽車のEVブランド「ZEEKR」3車種が同社第4世代SiC MOSFETを量産採用したことで、EV関連受注が底堅く推移したとロームのニュースリリースは強調する。宮崎県国富町で2024年末に稼働した新工場は8インチ対応ラインを備え、筑後工場と合わせてSiCウエハ生産能力を2023年度比で実質2倍へ拡大する計画だとEE Times Japanによると伝えられる。さらにESG説明会資料によれば、2023年度の再生可能エネルギー導入比率は54%に達し、2030年度目標(65%)の前倒し達成が視野に入る。電動化需要と環境経営の両輪で成長を図る姿勢が鮮明だ。
12 位 村田機械〈京都市伏見区〉 売上 5,260億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は5,260億円と過去最高を更新し、創業以来初めて5,000億円を突破した。売上の約45%を占めるクリーンFA(半導体工場向け搬送装置)部門が前期比19%増の2,362億円となり成長を牽引し、営業利益も18%増の931億円へ拡大した。地域別ではアジア向けが2,687億円で全体の51%を占有し、台湾ファブ向け需要が際立つ。実際、同社は2024年にTSMCから「Excellent Performance in Fab Automation」を授与されており、独自AGV/OHTシステムが大量導入されたことが評価された。以上の実績が示す通り、半導体搬送装置と工作機械の二本柱戦略がアジア市場、とりわけ台湾大手ファブで結実し、過去最高業績を支えている。
11 位 島津製作所〈京都市中京区〉 売上 5,390億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は5,390億円(前期比+5%)で5期連続の最高更新となり、営業利益も717億円、営業利益率13.3%と2桁水準を維持した。同社は田中耕一フェローの発明として知られるMALDI-TOFMS質量分析の応用を広げ、5月には微生物データベースと連動するクラウド解析ソフト「MicrobialTrack」を発売し、創薬初期における迅速な菌種スクリーニングなどライフサイエンス向けの受託分析を強化している。装置保守や試薬・消耗品の伸長に米国Zef社買収効果が加わったことで、計測機器セグメントのリカーリング売上比率は38%(前期比+2ポイント)へ上昇し、安定収益基盤が厚みを増した。MALDI技術はタンパク質を壊さずイオン化できる高感度分析が特長で、この強みが創薬CRO案件の受注を押し上げつつある。
10 位 GS ユアサ コーポレーション〈京都市南区〉 売上 5,803億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は5,803億円(前期比+174億円、+3.1%)、営業利益は507億円で8期連続増益となった。自動車電池が補修需要と価格是正で伸長した一方、車載リチウムイオン電池事業の売上高は828億円(前年▲20億円)と減収したが、同社は2026年度に1,000億円へ拡大を見込むと公表している。また、特殊電池セグメントでは宇宙用途の実績が拡大し、2024年7月に打ち上げられたH3ロケット3号機および先進レーダ衛星「だいち4号」にGSユアサ製リチウムイオン電池が採用された。国内唯一の特殊電池メーカーとして衛星・探査機向けシェアを高め、次期中計では航空・宇宙分野の売上を3期連続で増加させる計画を掲げる。
9 位 三菱ロジスネクスト〈長岡京市〉 売上 6,655億9,400万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は6,655億9,400万円で、北米の排ガス認証遅延などによる前期比5.2%減を水素燃料電池フォークリフトやAGVなど次世代機の伸長が下支えした。フォークリフト世界シェアは『Modern Materials Handling』2022年調査で4位に位置づけられ、トヨタ、KION、ユングハインリッヒに次ぐ規模を維持する。物流2024年問題を見据え、愛知機械テクノシステムと協業して小型AGVを量産し倉庫自動化需要を取り込む。一方、自社開発の燃料電池モデルは実証段階から量産へ移行し、水素充填3分でCO₂排出ゼロを実現する。脱炭素と自動化の両軸で新規受注を広げ、利益も計画比を上回って推移している。
8 位 SCREEN ホールディングス〈京都市上京区〉 売上 6,252億6,900万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は6,252億6,900万円で前期比23.8%増、4期連続の過去最高を更新した。主力の半導体製造装置事業(SPE)が牽引し、営業利益は1,356億8,300万円に拡大した。同社の枚葉式ウエハ洗浄装置は世界シェア45%で首位を維持し、EUVリソグラフィ対応の裏面洗浄や後工程クリティカル洗浄ニーズが拡大している。
決算説明会資料では、生成AI向け投資の追い風で受注残が過去最高水準に達していると説明され、新中計「Value Up Further 2026」で一括受注・工程統合型ラインの開発を進める方針を掲げた。
7 位 オムロン〈京都市下京区〉 売上 8,018 億円〈2024/3 連結〉
名門ポイント:2024年度(2025年3月期)連結売上高は8,018億円となり、制御機器事業の受注調整を吸収しながらも前期比2.1%減にとどめた。主力の基板外観検査装置「VT-S10」シリーズは独自のMDMC撮像技術とAI判定ロジックを組み込み、照明条件と検査アルゴリズムを自動最適化することで設定工数を約70%削減し、PLCを介したライン制御とも連携して品質改善に寄与する。環境面では上海工場が2023年、中国工業情報化部の「国家グリーン工場」に認定され、エネルギー見える化や再エネ電源の導入でCO₂排出を大幅に削減したモデル事例として評価を受けた。AI検査とグリーンファクトリーを両輪に、高付加価値化と脱炭素経営の両立を進めている。
6 位 任天堂〈京都市南区〉 売上 1兆1,649億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上収益は1兆1,649億円(前期比▲30.3%)、営業利益は2,825億円で黒字を維持した。決算説明資料によれば、Nintendo Switchは発売8年目ながらハード1億5,254万台、ソフト13億9,123万本を販売している。オンラインサービス「Nintendo Switch Online」の有料会員数は2024年9月末時点で3,400万超で、その後も大きな減少はなくデジタル売上を下支えした。会社側は次世代機 Switch 2 を2026年3月期に1,500万台販売する計画を示し、研究開発費を1,437億円へ4.4%増額するなど投資を継続している。Switch 世代の粘り強い需要とサブスク基盤が減収局面を緩和し、今後のIP拡張とハード移行を後押しする構図だ。
5 位 SG ホールディングス〈京都市南区〉 売上 1兆4,792億〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結営業収益は1兆4,792億3,900万円(前年比+12.3%)、営業利益は878億円となり、いずれも過去最高水準に達した。決算短信は、宅配便平均単価の上昇と低温物流子会社C&Fロジの通期寄与を主要な増収要因として挙げている。グループは佐川急便を核に、ロジスティクス・グローバルフォワーディング・不動産を加えた4事業体制を構築し、2024年度第1四半期には不動産部門だけで営業利益12億円を計上した。2024年10月にはグーグル・クラウドと戦略的パートナーシップを締結し、生成AIを活用した集配エリア再設計とルート最適化の共同開発を開始、ラストワンマイルの走行距離削減によるCO₂排出抑制効果を検証している。DXと環境対応を梃子に、2026年3月期には営業収益1兆6,290億円を目指す計画だ。
4 位 マルハン〈京都市上京区〉 売上 1兆4,808億〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は1兆4,808億2,700万円(前期比+3.2%)、営業利益179億2,400万円、経常利益222億6,300万円と増収減益だった。公式IRによれば国内店舗数313店、遊技機台数22万3,954台(前期比+1537台)、従業員1万610人を擁し業界最大規模を維持する。多角化では2024年に観光子会社アンコールグループを設立し、富裕層向け旅行会社マゼラン・リゾーツ・アンド・トラストを子会社化するなど観光事業への本格参入を発表した。加えて、QRコード決済などキャッシュレス対応を順次拡大し店舗オペレーション効率化と若年層の取り込みを図っている。
3 位 村田製作所〈長岡京市〉 売上 1兆7,433億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上収益は1兆7,433億円で、営業利益率16.0%を確保した。MLCC(積層セラミックコンデンサ)の世界シェアは同社資料で約40%とされ、EVの電装化需要を主導する。さらにLiDAR向けに高Q誘電体を採用した低ESLシリコンコンデンサを量産し、長距離検知の高解像度化に寄与すると説明している。AR/VR機器向けでは無線モジュールと小型MEMSセンサを展開し、メタバース関連需要を新たな成長ドライバーとして位置付ける。海外売上比率は約90%と高く、スマートフォン需要の減速を補う形でサーバー・車載領域の拡大が収益を支える。足元では在庫調整の影響を織り込みつつも、中期経営計画で営業利益率15%の維持を掲げ、収益基盤の強化を図る。
2 位 京セラ〈京都市伏見区〉 売上 2兆144億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は 2兆144億5,400万円(前期比+0.5%)、営業利益は636億円と減益ながら黒字を維持した。電子部品とソリューションの両セグメントが微増し、なかでも太陽電池・蓄電池などを束ねるスマートエナジー事業は売上 1兆1110億円に拡大して全体を下支えした。成長投資では滋賀・野洲キャンパスに 2025年4月稼働予定の開発センターを建設し、セラミック成形からレーザー加工までを備えたパイロットラインでマイクロLEDパッケージなど次世代デバイス量産技術を内製化する計画だ。あわせて京都・綾部工場でも関連設備を増強しており、セラミック部材とスマートエナジーの二本柱で中長期の売上成長と高付加価値化を狙う。研究開発費は1,200億円(売上比5.9%)と過去最高水準を継続し、マイクロLED量産や車載パワー半導体用基板への対応を急ぐ。
1 位 ニデック〈京都市南区〉 売上 2兆6,070億円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:2025年3月期連結売上高は2兆6,070億9,400万円(前年同期比11.1%増)となり、営業利益率も9.2%へ改善した。電動車向け駆動モジュール「E-Axle」は2019年の量産開始以来、中国での累計出荷が37万台に達し、同社は2025年度に360万台販売、700万台の生産能力構築を掲げている。欧州ではステランティスとの合弁会社 Nidec PSA eMotorsが第2世代モデルの量産を始動し、車載事業の収益力を補強した。一方、生成AIサーバの高熱化を見据え、精密小型モータ事業で高風量ファンや液冷モジュールを投入。決算短信は「AIデータセンター向け水冷モジュール」を新規戦略商材に挙げ、次世代GPU需要の取り込みを示した。さらに6月には千葉県印西市のデータセンターでIn-Row型液冷装置の実証を開始し、空冷比30%の電力効率向上を検証している。車載電動化とAIインフラ向けサーマルソリューションの両輪で、同社は中長期成長への布石を打った。
総評
京都府の産業構造は「電子部品+半導体装置+ゲーム・エンタメ+物流」が四輪を成す。電子部品大手は車載・再エネ向けシフトで高付加価値化を進め、装置系の SCREEN や島津は EUV 量産や医療 DX に投資を加速。物流の SG、金融の京都フィナンシャルグループは域内 DX と脱炭素金融で存在感を示し、伝統産業でも宝ホールディングスがバイオ事業で成長を図る。2025年度も「カーボンニュートラル」と「生成 AI 活用」が共通テーマとなり、各社の研究開発費は前期比 2〜10% 拡大している。