
若手の力を信じ、地方から業界構造の変革を目指すベンチャーがある。
株式会社アイディエーションは、東京と愛媛・松山を拠点に定性調査に特化したマーケティング支援を展開。大手調査会社を取引先に持ちながら、自社育成の若手モデレーターを軸に急成長を遂げている。
同社を率いるのは、楽天インサイトの立ち上げを経験した白石章兼社長。調査業界に新風を吹き込む企業が描く、これからの「人と地域」を基軸にした未来像とは――。
若手を主役に据える育成力

株式会社アイディエーションは2015年創業。社員22名・アルバイト16名というコンパクトな規模ながら、定性調査という専門性の高い分野で存在感を放つ。
定性調査とは、消費者の「なぜそう思ったのか」「どのように感じたのか」といった内面の声を深く掘り下げる調査手法。
定量調査では測りきれない意識や感情の部分を、インタビュー形式で丁寧に引き出していく。
このような調査において、対象者の話を聞き出す「モデレーター」の役割は極めて重要であり、その質が調査結果の深度を左右する。
同社はこの重要なポジションを、経験者ではなく若手の未経験者に担わせ、育成するスタイルを採用。
白石氏は「Z世代の共感力が、同世代のインサイトを引き出すカギ」とし、これまでの“業界の常識”をあえて覆した。
2020年、コロナ禍に直面した際には、あえてリスクを取って人材への投資を決断。
5000万円の借り入れをもとに育成を加速させ、初期採用の若手2人が大きな成果を上げたことで、その戦略は実を結ぶこととなった。
大手と共創する営業不要モデル
アイディエーションのクライアントには、日本を代表する大手調査会社が名を連ねる。
これらの企業が受託する大規模案件の一部、特にインタビューなどの定性調査部分を専門的に担うことで、同社は営業活動に頼らずとも案件を獲得できる仕組みを確立している。
その背景には、確かな品質と高い専門性に対する信頼がある。
モデレーターとしての技術だけでなく、プロジェクト管理やデータ整理、報告書作成に至るまで一貫して対応することで、大手企業との強固なパートナー関係を築いてきた。
社内には業務ごとのノウハウを体系的に共有・蓄積する環境が整備されており、属人化を防ぎながら高い品質を維持。
これにより、クライアントからのリピート率も高く、安定した収益構造の基盤となっている。
利益は社員に還元――公平な評価制度が生む成果
同社では、税引き後利益の50%を社員に還元する独自の制度を導入している。
成果に応じて配分されるこの制度は、社員一人ひとりに「自分ごと」としての当事者意識を芽生えさせ、業務の質を押し上げる原動力となっている。
20代の若手社員が年収1000万円に迫るケースもあり、「結果を出せば正当に評価される」という明確なメッセージが若手の挑戦意欲を後押ししている。
特筆すべきは、地方拠点である松山オフィスにも同制度が適用されている点。
東京との地域格差を設けず、同一の成果に対して同一の評価がなされることで、地方在住の社員も高いモチベーションで仕事に取り組んでいる。
地方から変える 松山モデルの可能性
コロナ禍以降、Zoomなどを活用したオンライン調査が定着し、同社の業務の約8割が非対面で実施されている。
これにより、地方拠点であっても都市圏と同等の業務が遂行可能となり、アイディエーションは「地域を起点とした高付加価値ビジネス」の可能性を提示している。
松山オフィスでは、地元出身の若手社員がリモートで全国の案件を担当。都市部への人口流出や機会格差といった地域課題に対し、「地元にいながら働ける」という解を提示する形となっている。
白石氏は、「地方創生のために何か特別なことをしたわけではない。自然と成果を上げられる環境を整えた結果、地方でも都市と同じように働けることが証明できた」と語る。
育成が業績を生む 教育と実践の融合
白石氏は、「育成こそが最大の投資」と強調する。実際、入社時は未経験だった若手社員が、1年足らずでモデレーターとして年間数千万円を売り上げるまでに成長する例もある。
その背景には、現場での実践に加え、先輩社員によるOJTやロールプレイング形式の社内研修など、体系的な育成プログラムの存在がある。
定性調査という感覚的・職人的要素の強い分野において、こうした教育環境を構築できていることは、業界全体でも珍しい事例といえる。
同社の現在の売上規模は約3億円。国内の定性調査市場規模が200億円前後とされる中、今後も人材育成による成長余地は大きい。
調査から製造へ インサイト起点の新たな挑戦
将来的には、自社のリサーチ力を活かして製造業への展開も見据えている。「人々の潜在ニーズを調査し、それに応える商品を自ら開発する」構想は、単なる調査会社の枠を超えたビジネスモデルだ。
「AIや自動化が進む時代だからこそ、人間の感性に根ざしたものづくりが価値を持つ」と白石氏は語る。市場ニーズに対して高感度に応える力を持つ企業として、同社の進化は続いていく。
白石章兼という人物
白石氏は愛媛県松山市に生まれ育ち、神奈川の大学を卒業後、不動産営業やITベンチャーでの新規開拓など、さまざまな業種で現場を経験した。
その後、楽天に入社し、楽天インサイトの立ち上げに関与。マーケティングリサーチの最前線を経験したことで、自らのビジネス観が形成されたという。
2015年の創業当初は、フリーランスに近い形で小規模にスタートした同社だが、着実に信頼と実績を積み上げ、現在では全国から案件が集まる体制を築いている。
「歴史に名を残す存在になりたい」。その言葉には、表層的な成功ではなく、本質的な価値創造にこだわる姿勢がにじむ。
地域社会、業界、人材育成――すべてに対して誠実に向き合いながら、同社は今日も新たな可能性に挑んでいる。
◎プロフィール
白石章兼(しらいし・あきとも)
株式会社アイディエーション 代表取締役社長
◎会社概要
会社名:株式会社アイディエーション 代表:白石 章兼
設立:2015年11月
所在地:東京都
事業内容:定性調査・定量調査の実施、モデレーター育成
URL:https://www.ideation.co.jp/(仮)