
医療機関や介護・福祉事業所が、燃料費や人件費の高騰により経営難に直面している。こうした事態を受けて、全国知事会は2025年5月15日、厚生労働省に対し、診療報酬や介護報酬の臨時改定を含む緊急支援を求める要望書を提出した。現場からは、従来の制度では物価高に対応しきれないという声が強まっており、国による追加支援の行方に注目が集まっている。
高騰する運営コストに悲鳴 全国知事会が厚労省に要望書提出
エネルギー価格や人件費などの高騰により、地域の医療機関や介護・福祉事業所が深刻な経営難に直面している。こうした現場の実情を受け、全国知事会は2025年5月15日、厚生労働省に対して、支援策の強化と報酬制度の見直しを求める緊急要望書を提出した。
要望書を手渡したのは、全国知事会長の村井嘉浩・宮城県知事と社会保障委員長の内堀雅雄・福島県知事。厚生労働省で仁木博文副大臣に直接訴え、医療・福祉の現場における物価高の影響と、それに対する緊急の財政措置の必要性を強調した。医療機関への支援と診療報酬の見直しを要請
要望内容の一つは、医療機関への支援強化である。現在の診療報酬体系は、物価高騰やエネルギー価格の上昇といった社会情勢の変化を十分に反映しておらず、多くの中小規模医療機関が採算割れの状況に追い込まれている。
そのため知事会は、診療報酬の臨時改定を含めた早期の対応を求め、経営基盤を強化するための財源確保と制度設計を急ぐよう要望した。
介護・障害福祉分野では「臨時の基本報酬改定」を要請
もう一つの焦点は、介護・障害福祉分野である。2024年度の報酬改定で訪問介護など一部サービスの基本報酬が引き下げられたことにより、事業所の休廃業が相次いでいる。帝国データバンクの調査によると、訪問介護事業所の休廃業・解散件数は過去最多を記録しており、地域の高齢者福祉サービス網が崩壊の危機にある。
このため、全国知事会は2027年度の次期改定を待たず、臨時の基本報酬引き上げを実施すること、加えて経営難にある事業所への緊急支援策を講じることを訴えた。
現時点で実施されている主な物価高対策
政府はこれまでも物価高騰への対策を段階的に講じてきた。医療・福祉分野においては以下のような措置が実施されている。
- エネルギー価格高騰に対する一時的な補助制度(電気・ガス料金の抑制支援)
- 中小企業支援金の対象に医療・介護事業者を含めた特例措置
- 新型コロナ対応で創設された診療報酬上の特例措置の一部継続
- 福祉施設向け物価高騰対応緊急支援金(都道府県単位での実施)
これらの施策により、一定の下支え効果はあるものの、持続的な経営改善には至っていないとの指摘も強い。
現在検討されている今後の支援策
厚生労働省内では、2025年秋をめどに以下のような追加策の検討が進められている。
- 物価高への対応を目的とした2026年度の「診療報酬中間改定」
- 介護報酬の一部サービスに対する「臨時改定モデル」の導入検討
- 障害福祉分野における小規模事業所の存続支援策(事業継続支援金)
- 医療・福祉従事者の処遇改善手当の対象拡大
これらの対策は、地方自治体の意見も取り入れながら、政府の「骨太の方針2025」に盛り込まれる見通しだ。
現場の声:「このままではサービス維持が困難」
全国知事会の要望後、報道陣に応じた内堀知事は「政府は一定の対応をしているが、現場からするとまだまだ足らざるものがある」と指摘。「医療・福祉サービスの持続可能性を守るには、国と地方が一体となった再構築が不可欠だ」と強調した。
訪問介護の現場では、ヘルパーの離職が続き、利用者の訪問回数を減らさざるを得ないケースも出ている。ある事業者は「人件費が払えず、利用者の受け入れ制限をしている。地域の高齢者が安心して暮らす基盤が崩れかねない」と訴える。
おわりに
医療や福祉は社会の根幹を支える基盤であり、その持続可能性を脅かす経済的圧力には迅速かつ的確な対応が求められている。物価高への対策は、単なる一過性の補助ではなく、制度全体の再設計を視野に入れる時期に差し掛かっている。