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統合報告書を数値で読む時代へ 三菱UFJ信託が非財務資本のスコア化を試みた新手法を公表

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統合報告書の「中身」が問われる時代に

統合報告書における非財務情報の定量化

サステナビリティ情報の開示が企業に求められるなかで、統合報告書の存在感が着実に高まっている。上場企業の約3割が発行するまでに拡大した統合報告書は、財務情報と並んで「非財務情報」──すなわち知的資本、人的資本、自然資本など──を投資家に届けるための主戦場となっている。

しかし、非財務情報の多くはテキストベースであるがゆえに「読んで比較する」ことの難しさがあった。こうした課題に対し、三菱UFJ信託銀行の研究所が取り組んだ新たな分析手法が、4月8日に公表されたレポートで明らかにされた。

 

検索技術BM25とは?「重要な言葉」を数値で見つける方法

今回のレポートでは、検索エンジンにも使われている「BM25(ベストマッチ25)」という数式が活用されている。これは、検索されたキーワードと文章の“関係の強さ”を点数で表す技術だ。

たとえば、検索エンジンで「脱炭素」と入力したときに、ある文書が「脱炭素」という言葉を何回使っているか、どれくらい珍しい言葉なのか、文章の長さはどうか──こうした要素をバランスよく判断して、スコアをつけるのがBM25の考え方である。

三菱UFJ信託のレポートでは、統合報告書の中に「知的資本」や「自然資本」などを表すキーワードがどれだけ含まれているかを、このBM25の手法でスコア化している。つまり「企業が何をどれだけ語っているか」を、機械的に・公正に・数値として見えるようにした試みである。

キーワードで読み解く「非財務スコア」

このスコア化では、非財務資本ごとに選ばれたキーワード(例:知的資本=特許、ブランド、研究など)を文章中から抽出し、出現頻度と希少性に応じて点数をつけていく。自然資本なら「リサイクル」や「カーボンニュートラル」などの言葉が該当する。

注目すべきは、ただ単に言葉が多いだけではスコアは高くならないという点だ。たとえば、多くの企業が使っている言葉は点数が低くなり、珍しいけれど重要な言葉の方が高く評価される。こうすることで、「誰でも言っているきれいごと」ではなく、「その会社ならではのメッセージ」が浮かび上がってくる。

 

財務では見えない「価値」をあぶり出す

興味深いのは、このスコアが既存の財務情報と異なる性質を持っている点である。たとえば自然資本スコアは企業規模(総資産)とやや正の相関があるものの、現金保有率とは逆相関を示した。つまり、環境活動に取り組む企業ほど現預金を投資に回している可能性があるという仮説が浮かび上がる。

また、企業が報告書を発行しているか否かよりも、中身の充実度がより重要であるという示唆もある。非財務スコアは、企業価値の指標の一つであるPBR(株価純資産倍率)との統計的な関係も一部で示されており、「良い開示」が資本市場で評価される可能性をうかがわせる。

投資判断への応用と限界

レポート後半では、このスコアを使った簡易的な投資ポートフォリオの検証結果も示されている。2023年末のスコアを基に作成したポートフォリオでは、スコアが低いグループの株価パフォーマンスがやや劣る傾向が前半に見られた。ただし、後半には逆転現象も起きており、情報の陳腐化や統合報告書の発行時期の影響が指摘されている。

重要なのは、この分析があくまで「きっかけ」にすぎないということだ。非財務資本が実際に企業価値にどう影響していくのか、中長期で追い続ける必要があると筆者らは結んでいる。

 

「読む」から「測る」へ

非財務情報の開示は年々進化しており、ただ発行するだけでなく「どれだけ中身があるか」が問われる時代に入った。今回のレポートは、その評価を支える新しい視座を提供するものとして、投資家・企業経営者・IR担当者・サステナビリティ部門担当者にとって注目すべき内容と言えるだろう。

本稿ではその一端を紹介したに過ぎない。レポートの詳細は、三菱UFJ信託銀行アセットマネジメント事業部が発行した原資料をぜひ確認していただきたい。

レポートはこちら

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寒天 かんたろう

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ライター歴25年。月刊誌記者を経て独立。伝統的な日本型企業の経営や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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