
たばこの健康リスクを巡るカナダでの集団訴訟が、ついに和解へ。日本たばこ産業(JT)など大手3社が総額3.5兆円の支払いに合意し、訴訟は大きな節目を迎えた。長年にわたる法廷闘争の末、企業側が下した決断の背景と今後の影響を探る。
訴訟の背景と経緯
カナダでは1998年以降、たばこの健康リスクを巡り、消費者がたばこメーカーを相手取る集団訴訟を起こしてきた。特にケベック州では、喫煙によって健康被害を受けたとする原告団が、日本たばこ産業(JT)、フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の3社に対し、十分な警告なしにたばこを販売したとして責任を追及。
2015年、カナダの裁判所は3社に賠償金支払いを命じ、2019年の控訴審でも敗訴が確定した。これを受けて3社のカナダ法人は破産手続きを開始し、以降、裁判所の監督下で和解に向けた調整が進められていた。
3.5兆円の和解内容と支払い方法
2024年10月、カナダの裁判所が任命した調停委員が、3社に対し325億カナダドル(約3兆5600億円)の和解金支払いを求める案を提示。これに対し、JTを含む3社は2025年2月に正式合意し、カナダ裁判所に通知した。
企業別の支払い負担
・JT:総額の約11%(約4000億円)
・PMIおよびBAT:残額を分担
JTはまず頭金として約1700億円を拠出し、残りはカナダ法人の年間純利益の70〜85%を分割して支払う方式を取る。これにより、本体への影響を最小限に抑える狙いがある。
訴訟和解による影響
(1)財務への影響
JTは2024年度の連結決算において、和解金を営業費用として計上。約4000億円の損失引当金を計上するが、配当額には変更なしと発表。投資家にとって安堵の材料となった。
(2)株価への影響
和解合意の発表後、JTの株価は一時的に下落。
しかし、配当維持の方針が示されたことで、株価は徐々に持ち直しの兆しを見せている。
(3)たばこ業界への波及
今回の和解は、たばこ業界全体に大きな影響を与える可能性がある。各国で健康リスクを巡る訴訟が相次ぐ中、今回の巨額和解が今後の判例や規制の強化につながる可能性が指摘されている。
今後の展望
和解金の支払いはカナダ法人の利益から行われるため、3社の本体業績への影響は限定的とみられる。しかし、健康リスクに関する訴訟リスクは依然として高く、各国で新たな訴訟が提起される可能性もある。
また、たばこ業界全体での規制強化が進む中、各社は加熱式たばこや電子たばこへのシフトを加速させると予想される。
まとめ
JTなど3社がカナダでのたばこ健康リスク訴訟で3.5兆円の和解に合意。長年にわたる法廷闘争の末、企業側が巨額の和解金支払いを受け入れた。和解金は各社のカナダ法人が分担し、JTは約4000億円を負担する。今後、たばこ業界全体への影響や、各国での規制強化が注視されることになる。
今回の合意は、たばこ業界にとって大きな転換点となる可能性があり、今後の業界動向に引き続き注目が集まる。
【参照】当社グループのカナダ子会社に対する訴訟の進捗に関するお知らせ(日本たばこ産業株式会社)