企業成長の要、内部統制とリスクマネジメント
企業が持続的な成長を遂げるために避けて通れないテーマが「内部統制」と「リスクマネジメント」だ。特にIPO準備中の企業や上場企業にとっては、これらが単なる内部管理の枠を超えて、事業の信頼性や投資家からの評価、さらには事業リスクへの対応力を直接的に左右する要素となる。だが、その重要性を認識しながらも、効果的な仕組みを構築できていない企業が少なくないのが現状だ。
その課題に挑むのが、コントロールソリューションズ株式会社の代表取締役社長・佐々野未知さんだ。同社は、内部統制やリスクマネジメントに特化したコンサルティングを行い、上場企業やIPO準備段階の企業を顧客とする。これまで佐々野さんが登壇したセミナーの累計参加者数は20,000人にのぼる。まさに、業界を代表する専門家として、企業経営者たちの信頼を集めている。
「内部統制やリスクマネジメントが形だけのものでは意味がありません。実際に機能し、会社全体がリスクを共有し合う仕組みをつくることが重要です」と佐々野さんは言う。その言葉には、長年上場企業を支援してきた経験に裏打ちされた確信が込められている。
内部統制とは、ルールをつくり、守ること
内部統制とは一体何か? 佐々野さんはこれを「会社のルールづくり」と簡潔に説明する。創業間もない企業では、経費精算や就業規則のマニュアルすら整備されていないケースも少なくない。しかし、IPOを目指して外部から資金を調達し、上場企業としてさらなる成長を目指す以上、企業にはその規模に見合った厳格なルールが求められる。
例えば、取引先の選定においては、信用調査や決算書の確認、反社会的勢力チェックを行う。あるいは、情報開示においては、事業リスクを正確に評価し、必要な情報を投資家に適切に伝える責任が生じる。これらは、上場企業としての信頼を守るため不可欠なステップだ。
だが、課題となるのは「ルールをつくる」だけで終わってしまう企業が少なくないことだ。その背景には、担当者が引き継ぎや運用を十分に考慮しないまま、不釣り合いなルールを導入してしまうケースがある。結果として、ルールが属人的になり、担当者が退任する際に次の担当者に適切に引き継ぐことができず、運用が止まってしまうリスクが生じる。
「どんなに立派なルールをつくっても、それが社内で徹底されていなければ絵に描いた餅です」と佐々野さんは語る。
佐々野さんが企業に対して提案するのは、会社の規模や現場の実態に即したシンプルなルールづくりである。属人的な運用や現場任せの管理ではなく、全従業員がルールを理解し、実行に移せる体制を整えることが求められている。
リスクマネジメントは経営の質を高める武器
内部統制と密接に関連するもう一つのテーマがリスクマネジメントだ。だが、リスクマネジメントの重要性が叫ばれながらも、それを全社的な仕組みとして機能させている企業はまだ少数派だという。
「リスクマネジメントの最大の課題は、取締役会や執行役の間で、リスクを全社的に共有できておらず、議論されていないことです」と佐々野さんは指摘する。
たとえば、ある部門がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために多額の予算を要求し、別の部門が気候変動への対応としてサステナビリティ対応を強化したいと主張する場合、どちらを優先すべきかという判断が必要となる。
佐々野さん
「それぞれの部門が個別に自分たちのリスクを訴えるだけでは、会社全体としての最適解にはたどり着けません。取締役会での意思決定をより質の高いものとするためには、複数のリスクを俯瞰的に比較し、優先順位をつける能力が必要です」
「担当役員は、どうしても自らの所管領域でしかモノを考えられないことが多いのです。全体を見通した視座が欠けてしまい、リスクマネジメントや事業戦略の組み立てが不得手になりがちです」
各部門がそれぞれのリスクに対処するだけでは、会社全体としての最適解にはたどり着けない。
佐々野さん
「取締役会での意思決定をより質の高いものとするためには、全社的なリスク共有が不可欠です。個別対応ではなく、企業の戦略としてリスクを見つめ直す仕組みをつくることが経営資源の適切な配分や優先順位の判断の質を高める武器になります」
全社的なリスク共有と意思決定の質を高めるための仕組み。それこそが、企業が長期的に成長を続けるための必須条件だと佐々野さんは強調する。
内部監査の意義と価値
内部統制やリスクマネジメントを実現するための有効なツールが「内部監査」である。佐々野さんが手掛ける内部監査サービスは、法定監査とは異なり、企業が任意で採用するもので、その内部支援を目的としている。そのため、外部の独立性を保つ監査法人とは異なり、企業に寄り添う形で課題を解決していけるのが特長だ。
「内部監査は、会社のルールや仕組みが実際に機能しているかを確認し、改善点を洗い出すツールです。形だけ整備されたルールを、実際に生きたものに変えることができます」と佐々野さんは語る。
同社は100社を超える企業を顧客に持ち、彼女が開催するセミナーには延べ20,000人が参加した。企業経営者にとって、佐々野さんが手掛ける内部監査は、信頼できる助言者としての大きな役割を果たしている。
佐々野未知氏の歩み – 会計士から独立へ
現在、内部統制やリスクマネジメントの分野で第一線を走る佐々野さんだが、そのキャリアのスタートは経済学部の学生時代に遡る。1994年、就職困難期に直面した佐々野さんは、安定したキャリアを模索する中で公認会計士の資格取得を目指すことを決意した。
佐々野さん
「資格を取れば、自分を証明する“武器”になると思いました。勉強は大原簿記学校に通いました」
大学卒業の翌年には会計士資格を取得した佐々野さんは、大原学園で講師を務め、その後現PwCや現KPMGといった大手監査法人でのキャリアを積み重ねた。特にKPMGではニューヨーク勤務を経験し、エンロン事件や9.11と向き合ったことが、自身の人生を考えるうえで大きな岐路になったという。
2001年に起きたエンロン事件は、企業の内部統制の欠如が経営破綻を招くリスクを世界に知らしめる契機となった。「エンロン事件を目の当たりにし、内部統制の重要性を肌で感じました」と佐々野さんは振り返る。
2006年、独立を決意しコントロールソリューションズ株式会社を設立。当時はまだ内部統制という分野が広く認知されておらず、彼女は日本における業界のパイオニアとして歩みを始めた。
佐々野さん
「内部統制の専門家として自分に何ができるか。それを追求する中で、ここまでの道を歩んできました」。
経営者へのメッセージ
「内部統制やリスクマネジメントは、企業の未来を守る盾であると同時に、次なる成長への扉を開くカギでもあります」
佐々野さんは、企業経営者に対し、形だけのルールではなく、それを運用し、全社で共有する仕組みを構築することの重要性を改めて強調する。
そして、こう締めくくる。
佐々野さん
「どんなに困難に思える課題でも、仕組みを作り、運用し続ければ、必ず成長の道筋が見えてきます。未来を切り開くのは、仕組みの力です。そしてその力を信じ、最初の一歩を踏み出してください」。
【プロフィール】
佐々野未知さん
青山監査法人勤務を経て1998年KPMGニューヨーク事務所に入所。2002年以降はKPMG東京事務所(現あずさ監査法人)にて外資系企業の法定監査、デューデリジェンス、サーベンス・オクスリー法対応支援業務等を担当。2006年2月に株式会社Bizコンサルティング(合併後、現コントロールソリューションズ㈱)を設立。2008年7月より当社代表取締役副社長、2009年1月より代表取締役社長に就任。執筆、講演会、セミナー等多数。