2013年に設立したLIXIL Advanced Showroom(以下、LAS)。合併当初は社員の不安の声も散見されていた同社だが、この10年で社員が働きやすい職場環境を追求し続けてきた。
本記事では、社員が笑顔で働ける職場を目指して歩んだ10年間の軌跡を追う。
困難なスタートラインからの挑戦
LIXIL Advanced Showroom(以下、LAS)は、国内の主要建材メーカー5社(トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリア)が統合して誕生した日本の建材・住生活産業のトップブランド「LIXIL」と、人材サービス大手のアデコが合弁して2013年に設立された企業。
全国約80カ所以上に展開するLIXILショールームを運営し、LIXIL製品の魅力を体感しながら伝えるための接客サービスを提供している。
現在では、ショールームのリアルな体験に加え、オンラインでのリモート接客も取り入れ、多様なニーズに応える体制が整備されているが、設立当初のLASは決して順風満帆なスタートを切ったわけではなかった。
当時、5社の統合による文化の違いやショールーム運営のばらつき、さらには合併による従業員の進退や働き方に関わる不安感と不満が渦巻いていた。
統合前は競合関係にあった5社の従業員が、突然同じ組織の一員として働くことになり、現場には混乱が広がっていたのだ。
「5社がそれぞれ全く異なる文化を持っていて、それを一つにすることがいかに難しいか。従業員の離職率も高く、現場は混乱していました。いわば『文化がない』状態での船出だったと言えます。」(鈴木氏)
こう振り返るのは、LASの代表取締役社長である鈴木浩之氏だ。鈴木氏はアデコ出身で、人材ビジネス領域でのキャリアを持つ。
LAS設立時からショールーム運営の課題に取り組み、ショールーム運営の現場と従業員一人ひとりに寄り添う姿勢で、文化再構築をリードしてきた人物である。
彼が就任した当時、従業員たちの間には「LIXIL本体から切り離された」という不安や不満が広がり、「私たちは捨てられた」という声も上がっていた。
合併した5社とは異なる「6社目」の文化を作る挑戦
こうした課題を解決するために鈴木社長が打ち出したのが、「6社目」としての新しい文化の構築だった。
他のいずれかの文化に合わせるのではなく、全く新たなルールと価値観を作り上げる。
これが従業員の不安や不満を解消し、一体感を醸成する近道と考えたのだ。
具体的な取り組みとして、社長自らが全国に点在する90箇所以上のショールームをすべて直接訪問し、従業員一人ひとりの声に耳を傾ける「ラウンドミーティング」を実施。
最初の頃は1拠点につき1時間程度の予定であったが、話し合いが止まらず3~4時間に及ぶこともしばしばだったという。
「最も多かった声は、『私たちはこの先どうなるんですか』という不安でした。方向性を示すのが私の役割だと痛感し、何度も現場に足を運びました。」(鈴木氏)
ヒアリングを重ね、鈴木氏が感じたのは社員自らが考え、行動するための指針がないこと。
そこから鈴木氏はミッションである「お客さまの笑顔のために」を、そしてミッションを実現するための行動指針として、「SMILE Values」を策定。従業員全員が共通の価値観を持てるよう、”SMILE”の頭文字の「Speed(スピード)」「Motivation(こころざし)」「Improvement(挑戦)」「Leadership(主体性)」「Esteem(敬意)」という5つのキーワードを掲げた。
この指針作りは、単なるスローガンの策定にとどまらず、自社の文化づくりの第一歩として、目指すべき方向性を明確化するものだった。
従業員がこの価値観を体現し、日々の行動に反映させることで、組織全体の方向性が一致し始めたのである。
社員が笑顔で働ける環境を目指して
「SMILE Values」を策定し、新たな文化の再構築に取り組んできたLASだが、実際に現場で働く従業員が働きやすいと実感できる環境を整備するには、さらに具体的な取り組みが必要だった。
そのため鈴木氏は、従業員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、多様な働き方に対応する制度や仕組みの整備を進めていった。
たとえば、子育てをしながら働きたいという要望に応えるために「時短勤務制度」の「時短時間」および「対象年齢」を拡大。
これに加え、保育園のお迎えなどで時短勤務となっているが早朝から働きたい従業員のニーズに応えるべく、「早出勤制度」を新設した。
この制度により、勤務時間を前倒しすることで子育て社員でもフルタイムで働くことができる仕組みを実現。
従業員にとって収入が減ることなく柔軟な働き方が可能となった。子育てに限らず介護が理由の場合にも利用できるため、ビジネスケアラー世代にも好評を得ている。
また、ダイバーシティ推進の一環である障がい者雇用にも力を入れ、多様性を尊重した環境づくりに取り組んでいる。
障がいの種類は精神的なものや身体的なものなど様々だが、個々の特性に応じたサポートと配慮で、彼らが安心して働ける環境も提供できている。
鈴木氏は、「障がいの有無に関係なく誰もが活躍できる環境を整えることこそが、多様性を尊重する企業としての責任だ」と話す。
さらに、LASはコロナ禍以前から働き方改革の一環として、リモートワークやリモート接客の導入を検討していた。
接客業でも場所や時間に縛られない柔軟な働き方を目指すべきだと考え、社内でデジタル化を進めていたのだ。
この取り組みにより、コロナが蔓延した際には他社に先駆けてリモートワークやリモート接客をスムーズに導入できたという。
「リモート接客の可能性を検討していたとはいえ、緊急事態宣言下でショールームを開けられない状況に直面したときには大きな決断が必要でした。従業員に不安や反発もありましたが、デジタル化の下地が整っていたおかげで、すぐにオンライン接客を開始することができました。現在では、これが当たり前になり、全体の接客品質向上にもつながっています。」(鈴木氏)
現在では、リモート接客を担当する従業員は約300名にのぼり、オンライン上でもLIXIL製品の魅力を十分に伝えられる体制が整っている。
さらにリモート接客を通じて、従業員が時間や場所に縛られることなく働ける環境も実現した。このような柔軟な働き方の実現は、従業員を大切にするLASの企業文化を象徴する一例と言えるだろう。
これらの仕組みづくりの根本には「従業員一人ひとりの声に耳を傾ける」というLAS設立当初から変わらない姿勢があった。
月に一回全社員を対象にコンディションサーベイ(※)を実施。そのフリーコメントは社長も全回答チェックし、困りごとについては解決やサポートができるか毎週行われるミーティングで検討。
特に多い声などについては、毎月社長が自撮り撮影する「サーベイコメント回答動画」にまとめ、全社員にフィードバックしている。
こうした従業員一人ひとりの声を反映し、全員で働きやすい環境を整える姿勢が、鈴木氏の経営スタイルを如実に表している。
鈴木氏は、「社員が自分の意見を反映できる仕組みは、彼らが働きがいを感じられる組織づくりの土台になる」と語る。
(※)LIXIL Advanced Showroomの「コンディションサーベイ」とは:従業員自身の仕事や人間関係、健康状態がフィードバックされる取り組みのこと。フリーコメント内で会社に対する要望や、日々の業務における悩みや困りごとなどを記入することが可能。
常に社員と共に新たな文化づくりを
設立から10年、LASは「社員が笑顔で働ける職場」を目指し、多様な働き方や文化の醸成に取り組んできた。しかし、LASが目指すのは現在の環境に満足することではなく、絶えず変化に対応し続けることだ。
鈴木氏は今後の展望を次のように語る。
「私たちが目指すのは『ゴール』のある職場づくりではありません。むしろ、ゴールがないからこそ、常に変化し続け、進化し続けることが求められます。これからも社員と共にはたらきやすい職場づくり、文化づくりを進めていきたいと考えています。」
LASではすでにリモートワークやリモート接客を導入し、従業員が場所に縛られずに働ける環境を整備してきた。
今後はさらにAIや最新のデジタルツールを活用し、業務効率を向上させながらも、従業員が創造性を発揮できる時間を確保することを目標としている。
また、日々の業務を支える仕組みの進化にも注力し、より柔軟で働きやすい環境を目指している。
「社員一人ひとりの声を反映させる仕組みがあれば、はたらきがいを感じ、主体的に動く文化が育まれます。それが、これからの時代に必要な組織のあり方だと考えています。」(鈴木氏)
未来のLASの社員になる人へのメッセージ
LASは、従業員の多様な働き方を尊重し、それを支える仕組みを進化させ続けている。
鈴木氏から、新たに仲間となる採用候補者に向けて、次のようなメッセージをいただいた。
「私たちは、大きな変化を経験しながらも10年間一歩ずつ成長してきました。そのプロセスには、社員の声を大切にし、共にはたらきやすい環境を築いてきたという自負があります。これからも挑戦を続ける企業として、新しい視点や価値観を持つ皆さんと一緒に、さらに素晴らしい未来を創り上げていきたいと思います。」(鈴木氏)
LASでは、多様性を受け入れ、社員一人ひとりが輝ける職場づくりを目指している。
常に変化に対応しながら、社員と共に成長し続ける環境がここにはある。
これからも進化を続ける同社で、新しいキャリアを築ける仲間が待ち望まれている。
インタビュアーの所感
今回のインタビューを通じて、LASの働きやすさや文化は、単なる制度や仕組みの整備にとどまらず、社員一人ひとりの意見が反映されるからこそ、成果を達成するための働き方やお客様のための提案ができる環境に支えられていることを実感しました。
「ゴールはない」と語る鈴木社長の言葉は、絶えず変化に対応し、社員とともに未来を切り開こうとするLASの姿勢そのものを象徴しています。
多様性を尊重し、柔軟な働き方を追求するLASだからこそ、社員が自分ごととして会社の文化を考え、主体的に行動しながら、お客様に寄り添った価値を提供し続けているのだと感じました。
また、今回の取材を通しても終始笑顔が絶えない鈴木社長。取材前も社員と談笑するシーンが見られ、社員一人一人と真摯に向き合っている姿が印象的だった。
社長が心から社員を信じ信頼しているがゆえ、役職の垣根がなく一人一人が自立し、意見を出して働きやすい職場であるのだと感じられた。
この文化を大切にしながら、さらなる挑戦を続ける同社の未来が非常に楽しみだ。
◎会社情報
会社名:株式会社 LIXIL Advanced Showroom
本社所在地:東京都港区浜松町2-5-5 PMO浜松町7階
代表者:代表取締役社長 鈴木 浩之
設立日:2013年9月20日
資本金:1億円
事業内容:ショールーム施設等の運営管理