人気YouTuberてんちむ氏が、プロデュースしたナイトブラ「モテフィット」をめぐる訴訟で、約3.8億円の賠償を命じられた。12月16日の東京地裁の判決は、豊胸手術の事実を隠しながらバストアップ効果を謳う商品をプロデュースしたてんちむ氏の責任を重く見た形となった。
この判決は、インフルエンサーマーケティングにおける契約の在り方、特に契約不備が招くリスクを改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。
3.8億円賠償命令 契約書不在が争点複雑化の要因か
2020年に端を発した「モテフィット」炎上騒動。てんちむ氏が豊胸手術を受けていた事実を隠蔽したまま、バストアップ効果を暗示させる商品をプロデュースしたことが発覚し、大きな批判を浴びた。販売元のYUIKU株式会社は、てんちむ氏を説明義務違反で提訴。てんちむ氏もYUIKU社を反訴し、両社の主張は真っ向から対立した。
12月16日、東京地裁はてんちむ氏に3億8457万4504円の賠償を命じる判決を下した。YUIKUは本訴被告、反訴原告であり、判決主文では被告とされている。判決は、原告であるてんちむ氏の請求を棄却し、被告であるYUIKUへの賠償を命じたものだ。
この訴訟で注目すべきは、返品・返金対応に関する契約書が存在しなかった点だ。てんちむ氏は「モテフィット」の売り上げを37億円(争いあり)、原価を1億円、自身のシェアを1億円と認識しており、残りの20億円はYUIKU社が取得していると考えていた。そのため、返金と返品に係る経費はYUIKU社が負担すべきと主張した。
一方、YUIKU社は2020年の事件発生時点で利益は337万円に過ぎないと主張。モテフィット事業のために設立されたYUIKU社の社長は、「通販は広告先行。数字は3年後の黒字化が定石」と述べ、2018年から2020年7月までの業績に基づき、「モテフィット」と関連商品「モテホイップ」の利益は約2400万円程度と説明した。
返金費用をめぐる攻防 倉庫代、人件費、炎上対策費用も争点に
両社の主張の不一致 は、返品・返金対応に係る費用の負担割合にも及んだ。YUIKU社は返品・返金業務を外部委託し、高額な倉庫代を計上。さらに、てんちむ氏に無断で高額な炎上対策費用を支出していた。てんちむ氏は、これらの費用負担についても異議を唱えた。人件費についても、YUIKU社は5名分を請求したが、てんちむ氏は1名で対応可能だったと反論した。
インフルエンサーマーケティングのリスク 契約書の重要性を再認識
今回の判決は、インフルエンサーマーケティングにおける契約の重要性を改めて示すものとなった。インフルエンサーと企業は、契約内容を明確化し、権利義務関係を明確にする必要がある。特に、売上分配、費用負担、商品の効果に関する表現、トラブル発生時の対応など、重要な項目については、契約書に明記することが不可欠だ。
てんちむ氏はXで「圧倒的敗訴」と自虐的な投稿をしているが、この一件はインフルエンサー業界全体への警鐘となるだろう。インフルエンサーは自身の影響力の大きさを自覚し、企業はコンプライアンス遵守を徹底することで、健全な市場発展を目指していく必要がある。
YUIKU側の責任は?契約内容の精査必要性
てんちむ氏の説明義務違反が認定された一方で、販売元のYUIKUにも問題点はなかったのか。YUIKUがてんちむ氏の豊胸手術について事前に確認していなかった点、また、広告内容が誇大表現と取られかねない点などは、企業側にも一定の責任があるように思われる。
「モテフィット」の広告には、「着けている間、いつでもどこでもバストケア!」といった、豊胸効果を想起させる表現が含まれていた。仮に、てんちむ氏が豊胸手術を公表していた場合でも、このような広告表現は適切だったと言えるだろうか。
インフルエンサーマーケティングにおいては、『プロデュース業務委託契約』や『コラボレーション契約』など、様々な契約形態が存在する。企業は、契約締結前にインフルエンサーの過去の活動や発言、健康状態などを含め、詳細な調査を行うべきである。また、広告表現や商品情報についても、景品表示法や薬機法などの関連法規に抵触しないよう、厳密なチェック体制を構築する必要がある。
YUIKUは被害者 企業イメージを大きく棄損
ただ、不祥事を起こした企業のイメージは低下する。今回YUIKUが負ったダメージは非常に大きい。実際に、YUIKUにとっても、今後の業績に影響が出ることは必須であり、メーカー側に立てば、てんちむを訴えるのは当たり前ではないかとも思える。
何より、てんちむ氏に勝手に顧客の返金対応をされたことで、YUIKUにとってみれば、顧客とのイメージ回復の機会を奪われたという事実は否定できない。
てんちむの今後とインフルエンサー業界への影響
てんちむ氏は自己破産も視野に入れていると発言していたが、今後の活動にどのような影響が出るのかは不明だ。今回の判決は、商品コラボを考える企業や他のインフルエンサーにも警鐘を鳴らすものとなった。契約書や事前確認の重要性を認識し、インフルエンサーマーケティング全体の健全な発展に繋がることを期待したい。