ユニチカが創業以来続けてきた繊維事業からの撤退を決定。
再建を目指す中、取引先2万社への影響が懸念されている。
ユニチカ、歴史的決断――繊維事業からの撤退
日本の繊維産業を牽引してきた老舗企業ユニチカが祖業である繊維事業からの撤退を発表した。
2025年8月までに衣料繊維、不織布、産業繊維(中空糸を除く)の3事業を売却し、食品包装用フィルムなどの高分子事業に経営資源を集中する方針だ。
金融機関からの多額の債権放棄を受け、官民ファンド「地域経済活性化支援機構(REVIC)」の支援を受けることで、再建への道筋を模索している。
ユニチカの上埜修司社長は、繊維事業撤退の背景について「幾度となく構造改革を行ったが抜本的な改善には至らなかった」と説明。
さらに、2025年4月を目処に現取締役全員が辞任する意向を明らかにした。
原因分析――繊維事業の赤字構造と失敗の歴史
繊維事業から撤退する背景には、長期的な赤字体質と国際競争の激化がある。
ユニチカの繊維事業は、原材料価格の高騰や価格競争の影響を受け、収益性が低下。新型コロナウイルス感染拡大時には一時的に防護服需要で黒字化したものの、慢性的な赤字から脱却するには至らなかった。
さらに、同社が生き残りをかけて注力した包装フィルム事業でも失敗が重なった。
インドネシアでの生産能力拡張では、コロナ禍による稼働遅延や市場の競争激化が響き、106億円の減損処理を余儀なくされた。
この影響で金融機関との財務制限条項をクリアできず、巨額の返済義務が発生する事態に陥った。
再建計画――高分子事業への集中と金融支援
ユニチカはREVICの支援を受け、総額870億円に上る金融支援を活用して事業再編を進める。計画では、REVICが約200億円で議決権付き優先株を取得し、さらに430億円の債権放棄を金融機関から受け入れることで財務基盤を立て直す。
今後は食品包装用フィルムを中心とした高分子事業に注力する方針だ。同分野では国内トップシェアを誇る商品力を生かし、収益性の向上を目指す。ただし、同事業も過剰投資が課題となっており、収益改善には慎重な運営が求められる。
波及する影響――地域経済と2万社への不安
帝国データバンクの調査では、繊維関連の仕入れ先や販売先が多く含まれることが判明している。調査によると、直接取引先664社、さらに2次的な取引先を含めると約2万社に影響を及ぼす可能性があると見られている。
特に、岡崎事業所など主要な生産拠点が事業整理の対象となるため、周辺地域の経済や雇用情勢への影響が懸念される。上埜社長は「雇用維持に最大限配慮する」と述べているが、採算が悪い事業を引き受ける企業が現れるかどうかは不透明だ。不調に終われば生産停止や清算に追い込まれる可能性もある。
歴史に見るユニチカの変遷――栄枯盛衰の繊維産業
ユニチカは1889年に尼崎紡績として創業し、戦前から戦後の高度経済成長期にかけて日本の繊維産業を支える存在だった。1964年の東京オリンピックでは、バレーボールチーム「東洋の魔女」を輩出し、国内外でその名を轟かせた。
しかし、繊維産業全体が中国や東南アジアとの競争激化により衰退。ユニチカも繊維事業から非繊維分野へのシフトを試みたものの、他の大手メーカーほどの成果を上げられなかった。
この長い歴史に幕を下ろす今回の決断は、時代の流れに逆らえなかった結果と言える。
今後の課題――再建のカギと地域への責任
ユニチカの再建が成功するかどうかは、主力である高分子事業でいかに収益を改善できるかにかかっている。同時に、繊維事業の撤退に伴う影響を最小限に抑えることも重要だ。
取引先を含む地域経済への影響をどこまで軽減できるか、REVICの支援の下で進められる再建計画が試される。老舗企業の再生が日本経済全体にとっても重要なモデルケースとなるだろう。