~開業8年目で綾瀬市民の4割超が受診~
神奈川県綾瀬市。ベッドタウンとして発展を続けるこの街に、地域住民の健康を支えるクリニックがある。「医療法人ONE きくち総合診療クリニック」だ。院長の菊池大和医師は、内科、外科、小児科、皮膚科、心療内科など、あらゆる診療科の患者を受け入れる「総合診療かかりつけ医」として、日々地域医療に奔走している。
同クリニックは、市内のショッピングモール内にある。2017年の開業からわずか8年目にして、綾瀬市民の4割を超える約3万6000人が、同クリニックを受診したという。近隣には複数の医療機関が存在するものの、菊池医師の診療方針や、クリニックの評判は口コミで広がり、今では近隣住民にとって、なくてはならない存在になっている。
「医師は世のために」シュバイツアーに憧れ
「幼い頃から、医師になる以外の選択肢は考えていませんでした」
穏やかな口調でそう語る菊池医師。医師を志したきっかけは、ノーベル平和賞を受賞した医師、アルベルト・シュバイツアーの生き方に感銘を受けたことだった。アフリカのガボンで医療奉仕活動に従事したシュバイツアーの「生命への畏敬」の精神は、菊池医師の医師としての根幹を築いた。
「シュバイツアーは、医師としての使命感はもちろんのこと、人間性も素晴らしいと感じました。医療を通じて、困っている人を助けたい、社会に貢献したいという思いが、幼いながらに芽生えました」。
外科医時代、手遅れの患者を見て危機感
福島県立医科大学を卒業後、菊池医師は外科医としての道を歩み始めた。静岡県内の病院で救急医療の現場に立ち、多くの患者の命と向き合う日々を送る中で、ある危機感を抱くようになる。
「病院に搬送されてくる患者の中には、『もっと早く病院に来ていれば…』と感じるケースも少なくありませんでした。高齢化が進み、通院が困難な患者が増える中で、地域で必要な医療を提供できる体制が整っていないことに、課題を感じていました」。
「何でも診る」地域に根付くクリニックへ
菊池医師は、勤務医として13年間勤務した後、開業を決意する。そして、2017年、「きくち総合診療クリニック」の門を構えた。
「開業当初は、『総合診療医』『総合診療かかりつけ医』という言葉すら浸透していませんでした。医師仲間からは、『専門性がない』『経営が成り立たない』など、否定的な意見もありました」
それでも、菊池医師は「患者を第一に考え、地域に密着した医療を提供したい」という信念を曲げなかった。クリニックでは、内科、外科、小児科、皮膚科、心療内科など、あらゆる診療科の患者を受け入れる体制を整えた。
高齢化が進む日本では、病院の再編統合や閉院も相次いでいる。医療へのアクセスがますます困難になることが懸念される中、菊池医師は、地域医療を守るためには、総合診療かかりつけ医の存在が不可欠だと訴える。
「患者さんの多くは、『どこの診療科に行けばいいのかわからない』という悩みを抱えています。当院では、まずは患者さんの話をじっくりとお聞きし、必要な検査や治療方針を丁寧に説明することを心がけています」
菊池医師の診療方針は、多くの患者の支持を集めている。患者からは、「先生はどんな症状でも親身になって話を聞いてくれる」「安心して治療を任せられる」といった声が寄せられているという。
「医師不足は起こらない」理想の医療を体現
国も、何でも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医を紹介でき、身近で頼りになる総合的な能力を有する医師であるかかりつけ医を持つことを進めているが、日本医師会総合政策研究機構の2024年の「日本の医療に関する意識調査」では、かかりつけ医を持つ人は56.9%(n=1162)で、いまだにかかりつけ医を持っていない人が多いことを示している。
また、菊池医師は、膨大な数のクリニックがあるけれど、名ばかりのかかりつけ医が多いのが実情」と話す。
「気軽に相談できる“かかりつけ医”を持つことで、病気の早期発見・治療はもちろん、健康不安の軽減にもつながります。地域の皆様のかかりつけ医として、どんな時でも頼っていただける存在でありたいと思っています」
菊池医師の挑戦は、日本の医療が抱える課題に対する、ひとつの解決策を示しているのかもしれない。