(撮影:安藤ショウカ)
一般社団法人リリース(以下、リリース)代表の桜井肖典氏は、「HIRAKU IKEBUKURO 01-SOCIAL DESIGN LIBRARY-(以下、SDL)」のファウンダーの一人だ。
そしてこれからマテックスが創立100年を迎えるにあたって、さらに共創を加速させていくこととなる。
京都と東京、拠点を異にするリリースとマテックスがどのように出会い、共創し、これからの未来を描いていくのか。桜井氏の視点で伺った。
自己紹介
桜井
弊社は京都を拠点とした、ビジネスデザインを専門とする非営利の会社です。
「未来が歓迎する経済をつくる」をミッションに、日本各地で文化や自然資本を将来世代へと繋げるようなビジネスをしている方々の支援をしています。
例えば、地域企業の新規事業や社会的な事業を開発する時に、自治体と一緒になってそれを社会的に良い形にブラッシュアップするようなことが、私たちの役目です。
非営利の会社なので、売上は森づくりやNPOの支援にあてています。
桜井
前職でデザインコンサルティングの会社を経営していたのですが、一番売り上げが伸びて従業員も増えたタイミングでリーマンショックに見舞われました。
その時に、お金を回していくことのストレスを身に染みて感じたんです。
「こんなに頑張ってお金を求めて、何をしているんだろう」と思い、仕事をするならお金以外の価値も生み出したいと強く願うようになりました。
経済性だけではなく、より社会性も求めるようなことをしていきたいと。
そのタイミングでパタゴニアさんやLUSHさんなど、社会性の高い企業と出会うことができ、彼らとともに新規事業を100日間で考えるというプログラムをはじめました。
それが「RELEASE;」という名前で、それがそのまま会社になりました。
これまでの御社の取り組みの中で、特に印象に残っているものを教えてください。
桜井
京都の企業が集まって新規事業や事業連携を生み出すという、京都市さんとずっと取り組んでいた事業でのことです。
その中で、「大企業」「中小企業」といった分け方や呼び方をそもそも変えるべきなのではないか、という声が上がったんです。
それをきっかけに、業種・業態を超えて1,164人もの方々による議論が行なわれました。そして規模の大小にかかわらず、地域に根ざし、地域とともに飛躍する企業は「地域企業」と呼ぶことを宣言しました。
それが「京都・地域企業宣言」です。そして、宣言に応じるかたちで京都市では「京都市地域企業の持続的発展の推進に関する条例」ができました。
このことは、京都における企業の捉え方そのものの変化に繋がり、特に誇りに感じていることですね。
(京都・地域企業宣言を支援するため、「京都市地域企業の持続的発展の推進に関する条例」が施行された。全国で初めて、企業規模ではなく、地域との繋がりに着目した条例だという)
桜井肖典さんから見たマテックス
京都と東京で拠点が異なる中、マテックスとはどのようにして出会ったのですか。
桜井
出会いは2019年でした。その時、京都の地域企業とその経営者さんたちの経営課題として「事業継承」が挙げられていました。
そこで、「地域に愛され続けている会社はどんな経営をしているのか」「時代に合わせて代を継いでいる方々は何をしてきたのか」ということを知りたくて、その参考になる会社を探していました。
そこで弊社の理事から「マテックスさんっていう良い会社があるよ」と教えてもらったんです。
マテックスさんは、それぞれの代によってその時代に即した形に社会的なミッションをうまく変えていること、そしてそれに全社を挙げて取り組んでいることを聞きました。
それはぜひ話を聞きたいと、セミナーのゲストに松本社長に来ていただいたのがはじまりです。
そこからどんな取り組みを一緒にすることになったのでしょうか?
桜井
セミナー以外では、SDLの設立で初めてご一緒することになりました。
京都では地域企業が繋がる拠点となる場所を複数企画運営しており、「そのような場所を作りたいのですが、一緒にできませんか?」と松本社長から言っていただいたんです。
私たちも、そういう会社を広げていくことがミッションなので、「一緒にやります」とすぐにお話を受けました。
一緒に取り組みをする中で、マテックスはどんな会社だと感じていますか。
桜井
一緒に仕事をするようになってよく分かったのは、「一人ひとりにとって価値のある、誇りに思える会社づくり」を実践している会社だということです。
京都の企業には、「不易流行」と「先義後利」という、特に大切にしている二つの精神があるのですが、まさに「先義後利」を地で行く会社だと思いますね。
利益は後からついてくるから、まず義を果たすこと。この考え方を社長も社員も、皆が持っているように感じています。
一番印象に残っていて、かつ物語っていると思うエピソードが、SDLにエレベーターを設置すると松本社長が決めた時のことです。
建物の設計が始まって、見積もりも取り始め、オープンの予定日も決めたころ、ある人が「そういえば、車いすが必要な人はどうやって二階にあがればいいんだろう」とポロっと言ったんです。
するとその時に松本社長が「エレベーターをつけましょう」と即決したんですよ。
そもそも、地域企業の方々のサードプレイスになるような場所にしようと話を進めてきたので、ビジネスマンの方々が通うイメージでディスカッションをしていました。
その中で車いすを必要とする方がおられても、とても少数となるだろうと。
一方で、エレベーターはSDLの建築施工費の中ではかなりの額を占める投資になるうえ、今からだと設計もレイアウトも工期も全部見直さなければならなくなってしまいます。
でも、「二階に上がりたくてもできなかった」という、できなかった経験をしてしまう人が出てしまうかもしれないことが、松本社長は嫌だったのでしょう。
たくさんの人でなくとも、その中のたった一人だとしても可能性を閉ざすようなことはしたくないと。
それで、費用対効果などは関係なしに「やるのは当然でしょう」と、工期も伸ばして予算も増やすことをその場で決めたんです。
人を思い、一人ひとりのことを応援しようとしている会社だとその時に分かりましたね。
(エレベーター設置を即決したエピソードは、京都に戻ってから会社のメンバーに「やっぱりマテックスさんはすごいよ」と話したという)
これからマテックスと一緒にしたいことを教えてください。
桜井
100周年に向けて、マテックスさんのさらなるブランディングのプロジェクトがちょうど始まったところです。
その中で、消費者向けではなく事業者向けの事業をしていてブランド力を獲得しにくい業態であったとしても、「これだけのことができるんだ」「社会においてこんなふうに存在意義を発揮できるんだ」ということを示せる会社になれると信じています。
近くにいる人たちはそれだけの会社であることを知っていて、だからこそ私たちもそれを望み、ご一緒しています。
それを少なくとも業界に対しては必ず示したいですし、ひいては日本において、そして世界においても信頼を集めるブランドになっていきたいですね。
マテックスさんはそれができる会社だと思っているので、一緒に成し遂げたいです。
マテックスの4つのマテリアリティである「依(よりどころ)」「自分ごと化」「脱炭素」「経済成長至上主義からの脱却」のうち、最も納得するものはどれですか。
桜井
「依(よりどころ)」です。もちろん他も大切にして取り組んでいることだと思いますが、マテックスさんらしさが一番良く表れているものはこれだと思いますね。
「経済成長至上主義からの脱却」も「脱炭素」も、他の企業でも叫べることだと思います。でも「依(よりどころ)」を作ると言って、その言葉を信じられるのってマテックスさんだからだと思うんです。
松本社長がおっしゃっている「卸の精神」を会社として体現しているからこそ、その言葉を信じられるのだと思います。
この「依(よりどころ)」は、まさにSDLにも表れていると思いますね。ファウンダーの柳田さんが、もう一人のファウンダーである中村さんを紹介するところから始まって。
まさにそういうことが積み重なってSDLという場所ができました。
つまり、SDLが完成する前から既に「依(よりどころ)」になっていたんですよね。
「マテックスさんに相談してみたら良いかも」と、人が依ってくるような場所に。これはすごくマテックスさんらしいと思います。
これからマテックスに期待することを教えてください。
桜井
”灯台”のようになってほしいと思っていて、それを一緒に作ろうとも思っています。
灯台って、それがみんなから見えてかつその光が灯ることで不安でなくなるような存在だと思うんですよ。そしてそれは目指すべき場所になったり、「依(よりどころ)」になったりすると思います。
「社長の素晴らしさだけではなく、社員全員が社会のことを思い、自社のことを思い、お客さんのことを思って行動する会社がこの世界にあるんだ」という、そんな灯をともすような存在になってほしいですね。
◎プロフィール
桜井 肖典
1977 年生まれ。 2000 年よりデザインコンサルティング会社を経営、京都を拠点に様々な分野でデザインプロジェクトの企画監修を重ねる。 2012 年より社会性と事業性を両立する「未来が歓迎するビジネス」のデザイン組織として RELEASE;を始動。時代の大きな物語を編み直す人文学的なアプローチと共創によるビジネスデザイン手法を軸に、大企業や自治体からスタートアップや非営利団体まで、領域横断的なプランニングとディレクションを行なっている。 『Community Based Economy』呼びかけ人/京都市ソーシャルイノベーション研究所コミュニティ・オーガナイザー/京都経済センターオープンイノベーションカフェ『KOIN』ディレクター/長野県立大学ソーシャル・イノベーション創出センターアドバイザー。共著に『青虫は一度溶けて蝶になる』(春秋社)がある。
◎法人情報
一般社団法人リリース
設⽴:2012年5⽉7⽇
所在地:京都市下京区朱雀正会町1−1 KYOCA 301
代表:桜井肖典、⾵間美穂
役員:11名
スタッフ:36名(役員・⾮常勤含)