国連は2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)で、「すべての人に健康と福祉を(目標3)」、「働きがいも経済成長も(目標8)」を掲げた。
従業員の健康管理や健康づくりを目指す「健康SDGs」は、一定のコストはかかるが、企業にとっても大きなメリットがある。企業イメージの向上を通じて、業績拡大や採用力の向上を期待できるからだ。
最近では、企業がウエアラブル端末などハイテクを活用したり、パーソナルストレッチなどを実施したりして従業員の健康を守る動きが増えている。
(株式会社イーヤス社長 遠藤基平)
当社(イーヤス)は、240を超える日本全国の企業と提携し、整体マッサージのサービスを提供している。主なクライアントはIT(情報通信)や外資系企業などだ。
特にIT企業では仕事の負担増やストレスなどから高い離職率に悩む例も多く、メンタル面も含めて従業員のヘルスケアや福利厚生への意識が高まっている。
■ウエアラブル端末を全従業員に配布して健康管理
企業がハイテク機器を活用して従業員の健康管理する事例が増えている。例えば、時計型やリストバンド型など身体に装着するタイプの「ウエアラブル端末」の活用だ。
電子通信業者のK社は2020年から、全従業員へ運動量、睡眠などをリアルタイムで記録するウエアラブル端末を貸与。個人の健康に対する意識を高めてもらうよう努力している。
同端末は、1日の歩数や睡眠時間の記録、心拍数、血圧、呼吸の記録などを計測できる。
スマートフォンと連携させることで、取得したデータを時系列で記録。自身の健康状態やその変化を把握できるという。K社はさらに、ウエアラブル端末を利用したウォーキングイベントも2020年から実施している。
ウエアラブル端末導入の効果はすでに出てきている。同社では、従業員の高齢化に加え、新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワーク主体の勤務環境となったことから運動不足の社員が増加。
健康診断の数値悪化が懸念されていた。
端末の配布をきっかけに、「健康意識が高まった」「端末で測れる睡眠の質の数値(眠りの浅さ、寝がえりの数等)が改善された」などといった声が多くの従業員から寄せられた。
毎年実施している従業員のストレスチェックのストレス度評価も導入前に比べて改善した。
■スマホやタブレットなどで「健康支援アプリ」を活用
生命保険大手のM社は、2019年から、AI(人工知能)管理栄養士が食事・運動などの毎日の生活をサポートする「健康支援アプリ・プログラム」を始めた。
健康支援アプリは、スマホ・タブレット・パソコンなどから利用でき、動画やクイズなどで健康に関する知識を配信したり、生活習慣に関するアンケートをもとに健康行動を提案したりする。
企業側も利用状況データを確認できるので、企業健康度を随時把握できる。
ソフトウェア開発のA社が導入したのは、「睡眠動画コンテンツ・プログラム」。
このプログラムは、動画コンテンツなどを通じて、睡眠に関する基礎知識のほか、自分の仕事のタイプに応じた睡眠の質を高められる。
同社によると、任意でのプログラムへの参加にしたにもかかわらず、約60%の社員が視聴した。
■パーソナルストレッチなど対面サービスも増加
ハイテク機器の活用が増える半面、対面サービスを導入する事例も増えている。
例えばパーソナルストレッチだ。ストレッチで筋肉をよく伸ばすと血液やリンパの流れが良くなる上、リラックス効果や姿勢を正す効果がある。
肩や腰、膝などの痛みも正しいストレッチによって症状を改善できる。ランニングや筋力トレーニングとは違い、気軽に実施できるのが特徴だ。
東京都にあるゲーム関連企業であるA社は2018年から、週2日、2名のストレッチトレーナーに会社を訪問してもらい、会議室でパーソナルストレッチを実施している。
約300人の社員は1回30分の施術を月2回まで無料で受けることができる。
新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが増え、社員らから「同じ姿勢で仕事をするため、肩こりや腰痛がひどくなった」という声があった。
パーソナルストレッチは好評で、予約は常に満員だという。
都内の通信機器メーカー、R社も16年に会社オリジナルの3分間ストレッチ動画を8パターン制作した。このうち1つの動画を毎日、始業前に社内モニターに映し、会社全体でストレッチに取り組んでいる。
社内アンケートで「ストレッチが肩こりや腰痛の緩和に効果があったか」と質問したところ、全体の6割が「効果があった」と回答した。
■ヨガの導入で8割が「ストレス発散できた」
深い呼吸と全身を使ってポーズをとる「ヨガ」を取り入れる企業もある。
都内のIT関連企業であるL社は19年から月2回、朝の始業前1時間で、ヨガインストラクターに会社に来てもらい、社内のエントランススペースでヨガを実施している。
同社の社内アンケートでは、「体を動かしたらストレスが発散されましたか」という質問には約8割の人が「発散された」と回答。
「ヨガの後は、仕事の生産性があがりましたか」という質問にも約8割が上がったと回答したという。
従業員の健康管理や健康づくりを目指す「健康SDGs」のメリットは、企業イメージの向上につながることだ。
営業や採用にとどまらず、将来的にはESG(環境・社会・企業統治)投資投資などの対象になることも考えられる。
従業員が健康になれば、生産性の向上も期待できる。企業にとって、SDGsはコスト高で倦むべきものではなく、むしろ積極的に取り組み、自社のブランディングに活用するべきものなのです。