EUは日本産食品の輸入規制を完全撤廃すると発表した。これにより、日本の経済や生産者に良い影響をもたらし、また被災地の復興を後押しするとも思われる。しかし、未だ風評被害は残り続けており、本当に復興の後押しとなるかどうかは私たち消費者にゆだねられている。
輸出拡大の希望と未だ残る風評被害
2023年7月13日、EU(欧州連合)は日本産の食品に対する放射性物質輸入規制について、全ての規制を撤廃すると発表した。
これまでEUは、2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて特定の10県で生産される食品の輸入規制を行ってきた。規制の対象は福島県産の魚やきのこなどだが、そのほかの都道府県の生産品に関しても規制地以外で生産したことを示す証明書が求められる。
農林水産省は、この輸入規制撤廃について「被災地の復興を後押しするもの」であると言及した。
農林水産物の輸出額は年々増加しており、2022年には過去最高の1兆4,148億円を記録している。そのうちEUに対する輸出額は約680億円と、輸出額の大きい国や地域は近隣のアジアばかりである中で6番目に大きい。そのため、EUへの輸出拡大は日本経済にとってはもちろん、農家や漁師といった第一次産業の生産者や、それを加工する第二次産業、運ぶ第三次産業へも良い影響をもたらすと予想される。
一方で、国内外問わず、規制対象の地域でとれたものに抵抗がある人は未だ残っており、輸出ができるようになるのと同時に、産地を気にかける人が増えることも考えられる。また、今回の流れとは逆に輸入の規制を強化する姿勢を見せている国や地域も一部ある。つまり、日本産の食材のイメージや安全性への理解を上げていくことが重要となる。
消費者に求められる安全性の判断
規制の対象となっている地域は、これまで食の安全の確保や情報開示、風評被害の払拭に尽力している。その一例として福島県では、米の安全性確保のために「ふくしまの恵み安全対策協議会」が中心となって2012年産の米以降、米の全てに対して放射線検査をすることに踏み切った。それは出荷米だけでなく自家用米やくず米に至るまで、文字通り全ての米だ。生産量の一部を抜き取って行うサンプル検査が一般的である中、これは世界で初めての試みだったという。その上、米どころである福島県においてそれをするのは並大抵のことではない。
現在出回っている食材は、こうした検査を通り安全と判断されたものだ。消費する側は、こういった取り組みや科学的な数値や根拠をもとに、その安全性を再度自ら判断することが必要だ。何も知らずに、または確かでない情報に踊らされて「そこの生産物は安全ではない」と判断すべきではない。
輸入規制撤廃はたしかに「被災地の復興を後押しする」かもしれないが、それをもたらすのは実際のところ消費者の適切な判断である。輸出したところで、適切に判断して購入できる消費者がいなければ、輸出額も日本の食材のイメージも変わらない。今後EUでどのような反応があるかはまだ分からないが、少なくとも国内において未だ残る風評被害は私たち日本の消費者が責任の一端を担っていると自覚したい。
[参考]
「農林水産輸出入概況 2022年(令和4年)」(2023.4.7 輸出・国際局国際経済課)
EUが日本産食品の輸入規制の撤廃を公表(東日本大震災関連)(2023.7.13 農林水産省)
「2022年の農林水産物・食品の輸出実績」について(2023.2.3 農林水産省)
風評被害からの脱却と新たな市場開拓(2023.03.15 長田真理)