前回、日本自動ドア株式会社が各ステークホルダーとどのように向き合っているかをお伝えしました。
その日本自動ドアの取引先であり、且つ地域社会、地球環境を共に良くしていくステークホルダーでもある「株式会社アースカラー」。今回は、アースカラーにとって、日本自動ドアがどういった存在なのかをお聞きしました。
日本自動ドアの吉原さんは、アースカラーのことを「循環型ビジネスを共創している大切なパートナー」と評します。
「資本関係はないが、当社が所有する飯能の山を中心にして、彼らは人材育成、当社は自動ドアをはじめとしたモノを作り、互いに地球を良くしていく。地球のために組んだパートナーシップを展開しています」(吉原さん)
一方、アースカラーの代表、高浜さんは日本自動ドアを「間違いなく、アースカラーが成長する鍵となった存在です。自伐型林業プログラムの成功は大きかった。そして、一緒に良いプロジェクトが「続いていること」に意味があると思っています」と語っています。
日本自動ドア、アースカラーという二社の関係には、どういったストーリーがあるのか。自伐型林業プログラムとは何なのか。紐解いていきましょう。
「老い木は曲がらぬ」という、ことわざがある。若い木と比べると、老いた木は弾力性がない。そこから、年長の頑固さを表す言葉となった。しかし、まれに柔靭に曲がる「老い木」が存在する。
いくつもの神社仏閣が集まる東京都鷺宮。そこに、半世紀以上続く老舗企業がある。日本自動ドア株式会社は、その名のとおり「自動ドア」を扱う会社だ。しかし近年、ソーシャルベンチャー「株式会社アースカラー」と、林業家の育成やプロダクトブランドの立ち上げなど、つぎつぎと新事業に挑んでいる。
なぜ今、老舗自動ドア会社が「林業分野」に挑戦するのか。「アースカラーにとって、日本自動ドアとはどういった存在なのか」という観点から、老い木の「しなやかさ」を浮き彫りにしていく。
今、林業につどう若者たち
埼玉県飯能市の山奥に、社会問題に敏感な人々から、人気を集めているプログラムがある。全3ヶ月、計10日間の泊まり込みの研修では、チェーンソーの使い方から木の伐採方法、搬出道の開設や木材の搬出までを体験する。
2016年にスタートした、この「自伐型林業プログラム」。開始から現在にいたるまで、ほぼ毎回定員が埋まり、150名以上の卒業生を輩出してきた。そして、プログラムを主催するNPO法人「地球のしごと大學」の全スタッフが、プログラム卒業生ということからも、参加者満足度の高さが伺える。
しかし、なぜ今「林業」なのか?
一昔前まで、農業・漁業・林業などの「第一次産業」は、ネガティブなイメージが強かった。きつい・汚い・かっこわるい・稼げない・結婚できないという「5K」と揶揄されたほどだ。しかし現在、農山漁村で働くことは「憧れ」に変わりつつある。
事実、自伐型林業プログラムに集う人々は、循環型ビジネスや社会問題への関心が高い層がほとんどだ。それだけ現代人は、都市部での働き方やライフスタイルに、限界を感じてきているのではないだろうか。
未来をつくる、ホワイトでもブルーでもない人材
NPO法人「地球のしごと大學」を立ち上げた株式会社アースカラーの代表取締役 高浜大介さんは、社名に込めた想いを語ってくれた。
「今、都会には人が溢れ、地方には人が足りていません。でも、都会の衣食住を支えているのは地方の資源なんです。日本の未来のため、ホワイトカラーでもブルーカラーでもない、大地に根付いた職業人「アースカラー」を育てていきたい」
アースカラーから生まれた「自伐型林業プログラム」は、低コスト少人数で行える「自伐型林業」の未来の担い手を育む狙いだ。
そして、実はこのプログラム、自動ドアの老舗企業「日本自動ドア株式会社」がコラボレーションをしている。日本自動ドアでは、同社員がプログラムスタッフとして参加するなど、積極的な関わりを持っている。
林業と老舗自動ドア会社。一見、接点のない両者を繋いだのは、何だったのだろうか。
若き社会起業家、老舗自動ドア会社と出会う
高浜さんは、今から10年前にソーシャルビジネスの支援プログラムに応募。選考通過をきっかけにアースカラーを起業した。そして、支援プログラムで出会った経営者を介し、日本自動ドア株式会社代表の吉原二郎さんと出会う。
「当時から、林業家を育成するプログラムを作りたいと思っていて、その話を吉原社長にしたところ『じゃあ、うちの山でやりましょう』とすぐに提案してくれました」
日本自動ドアは、木製自動ドアを作るために埼玉県飯能市に山林を所有していた。吉原さんは、高浜さんの想いを聞いて、山の貸出と林業体験プログラムの協働を提案する。
なぜ、自動ドア会社が林業事業に興味を示したのか。高浜さん自身、疑問はなかったのだろうか。
「違和感はありませんでした。吉原社長は、自動ドアをビジネスとしてやっています。でも、前提に「社会に良いことを事業としてやりたい」という想いがあって、その先に自動ドアがある。吉原社長の想いに、林業と日本自動ドアさんの資産がマッチしたんだと思います」(高浜さん)
吉原さんは、高浜さんに提案したときの想いをこう語る。
「単に研修だったら一緒にやらなかったと思います。当社は木製の自動ドアを製品のラインナップの一つとしていました。自動ドアといえば、完全にアルミやステンレスといった金属でできているイメージが定着しています。それが今、再び木材に回帰しつつあるトレンドがある。象徴的なのが、隈研吾さんの国立競技場であり、最近のウッドブームです。ただ、弊社で使っている木材は、他社から仕入れているものでした。これが自前の木で製品を作ることができたら、こんなに面白いことはない。しかも、それで森の再生にも寄与することができたら、自然に優しい循環型の気持ちのいいビジネスになりますよね。アースカラーさんとの話合いの中で、その可能性を見出せたので、共創しようということになりました」(吉原さん)
両者を繋いだのは、「何のために企業活動をするのか」という企業としての存在意義の一致だった。
その後、アースカラー主催のセミナーや田植え体験などに、吉原さんや日本自動ドアの社員も参加し、林業への理解を深めていった。山を貸出してからも、日本自動ドアからの協力は続く。
日本自動ドアによる、絆を醸成する場作り
「山の管理もそうですけど、日本自動ドアさん自ら、バーベキューの機材や焼き窯、油圧ショベルなど、受講生が楽しめる設備を増やしていってくれました」
自伐型林業プログラムには「日本の山を良くしたい」「循環型ビジネスをしたい」といった同じ想いをもった人が集う。泊りがけということもあり、日本自動ドアによる環境と設備の拡充は、その絆の醸成に一役買った。
「環境がすごく良かった。山には日本自動ドアさんの寮があって、受講生たちが夜遅くまで熱く語り合ったり、山にあるグラウンドでバーベキューしたり。濃密な時間が過ごせる環境なんです。大人になると、会社くらいしか接点がないですが、同じ志で集まるので絆も強い。卒業後も、受講生同士で集まったりしているみたいです」
協働ビジネスの主な役割は、一言で言えば「資産のシェア」だ。所有する山がきっかけとなり、協働関係をもったアースカラーと日本自動ドア。しかし、両者の企業としての存在意義が一致するからこそ、山やヒトといった目に見えるものの共有だけではなく、「より良くするためには、どうしたらいいか」という「創造性」が生まれるのではないだろうか。
そして2020年、2社による第二弾プロジェクトが始動する。
間伐材をハイデザイン・プロダクトに。
現在、高浜さんは自伐型林業プログラムの指導から離れ、代わりに指揮を執っているのが、アースカラーの田中新吾さんである。自伐型林業プログラムの第一期生だった田中さんは、林業によって人生が変わった「アースカラー」な一人だ。
その田中さんと日本自動ドアが、新たに生み出したのがプロダクトブランド「KIK(キイキ)」である。
両者は、自伐型林業プログラムの開始当初から、間伐で出た木材を活かせないかと模索していた。そして、2020年7月、あるアイデアをブランドとして発表。 担当者の田中さんにブランドに込めた想いを伺った。
「山と海は繋がっています。山に雨が降り、山から川に水が流れ、それが海に流れ着く。自伐型林業プログラムを行っている飯能の山は、関東の荒川と繋がっているんです。山を管理するということは、その地域全体の自然環境を豊かにすること。KIKは西川地域を良くするブランドでありたいと思い、ビジョンをもたせています」
自然と関わる生活や仕事をしていないと、あまり知ることのない事実を「KIK」のプロダクトを通して知ってほしいと田中さんは語る。KIKは、雨水が川に至るまでの「流域」を、一つのストーリーとして捉え、物語性ある商品を生み出していく予定だ。
その第一弾となるのが、キャンドルホルダー「燈心地(あかりごこち)」である。
2社共同による「第六次産業」への挑戦
日本自動ドアが所有する山には「西川材」と呼ばれる全国有数の銘木が植林されている。キャンドルホルダー「燈心地」は、込められたストーリーもさることながら、銘木の目地を活かした彫刻的な造形が特徴だ。
「一般の人が手に取りやすく、買うなら良いものを、そして、生活にはまると豊かになりそうなもの。そのようなイメージで、まずは、なかなか見ることのないデザインのキャンドルホルダーを日本自動ドアさんと作りました」
KIKの日本自動ドアの担当者であるエグゼクティブマネージャー長嶺安浩さんは、アースカラーの存在についてこう語る。
「アースカラーさんには、弊社にはないデザイン力や考えがあるので、そうした社外の力を取り入れて、西川地域発のブランドを作っていきたい。アースカラーさんの協力もあってこそ、本当にいろんなことが出来ています。KIKプロジェクトも軌道にのるまで一緒に頑張りたいです」
木の育成や調達をする「第一次産業」、木材をプロダクト化する「第二次産業」、プロダクトを流通させる「第三次産業」。両者は今、そのすべてを融合した「第六次産業」に挑戦しようとしている。
アースカラーにとって、日本自動ドアはどういった存在か
高浜さんは、日本自動ドアの存在について、こう語る。
「日本自動ドアさんは、間違いなく、アースカラーが成長する鍵となった存在です。自伐型林業プログラムの成功は大きかった。そして、一緒に良いプロジェクトが「続いていること」に意味があると思っています」
事実、2013年に株式会社アースカラーの一事業としてスタートした「地球のしごと大學」は、2018年に自伐型林業プログラムの成功をきっかけに独立。さらに高浜さんは、協働事業の成功だけではなく、関係性の継続にも意味があると述べる。
自伐型林業プログラム、そして、コラボによるブランド設立にも携わる田中さんは、日本自動ドアとの関係について、こう語る。
「日本自動ドアさんとは、かれこれ3年ぐらいのお付き合い。林業もそうですが、最近では伝統工法で山小屋をつくる研修もやっています。こちらから新しいことを持ちかけては、そのたびに『一緒にやりましょう』と握手してくれる。提案する側としては、熱い想いになります。なかには、ビジネス的にチャレンジフルな提案もあるのに、チャンスをくれるんです。めったにない企業だと思います」
「自動ドア×林業」という異色の組み合わせの成功は、単なる幸運からではない。アースカラーの熱意と積極性、そして、しなやかに受けとめる日本自動ドアの器量。そんな彼らの強みを、両者の「信頼関係」が引き出しているからではないだろうか。
半世紀を経て、つながる二本の木
「矯(た)めるなら若木のうち」という言葉がある。樹木の形を整えるには、柔らかい若木のうちが良いということから、柔軟性のある若い頃に、性格や癖を直せという意味だ。曲がった木が、老いて急に真っ直ぐにはならない。
日本自動ドアは、一朝一夕に「しなやかさ」を身に着けたのではない。創業期に整えられた公器性が、家族・社員へと受け継がれ、今の柔靭な日本自動ドアをつくっているのだろう。そして、それは半世紀を経て、老舗企業とソーシャルベンチャーという二本の木を繋げた。
高浜さんはインタビューの最後に、アースカラーと日本自動ドアの関係性をこう表現した。
「事業をやるからには、それが社会にどういう影響を与えるのか、そこまで考えないとやる意味がありません。日本自動ドアさんもそうですが「儲かるから、やる」という発想ではない。地球、人類全体で、みんなで生きていくために力を使っていきたい。日本自動ドアさんは、その「同志」……というと失礼ですけど、少なくとも私はそう思っています」
日本自動ドアとアースカラーは、「同志」という対等性のもと、これからもユニークで創造的なコラボレーションを生み出していくだろう。
<プロフィール>
高浜大介
株式会社アースカラー 代表取締役
立教大学観光学部卒。大手国際物流企業、人事・教育ベンチャー企業勤務後、2010年に、地球・大地に根ざした職業人「アースカラー」の育成・輩出を手掛ける株式会社アースカラーを設立。2018年12月に「地球のしごと大學」をアースカラーから独立させ、NPO法人地球のしごと大學設立。
<企業概要>
株式会社アースカラー
http://earthcolor.org/
〒130-0024 東京都墨田区菊川2-5-16
設立:2010年7月
NPO法人地球のしごと大學
設立:2018年12月19日
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-21-1042
代表:高浜大介