- YTRディア法務事務所さんは、貴団体の業務委託先となる障がい者就労施設を紹介してくださっているのですね。そんなYTRディア法務事務所さんは貴団体にとって、どのような存在だとお考えですか?
篠原さんは、もとが福祉業界のご出身ということもあり、大変経験豊富な、障害福祉サービス事業指定申請手続きのプロフェッショナルです。現場の実情を踏まて、その課題を十分に理解して提案をしていただけるので、本当にありがたい存在だと思っています。
一方で、障がい者就労施設の開設にあたって一番の課題は「どうやって仕事を作るか」ということです。そこは私がお役に立てる分野です。
障害福祉サービス事業指定申請手続きの専門家である篠原さんに対し、私は施設に向けた仕事を作る人間として、お互いにサポートし合う補完関係にあると考えています。
障がい者就労施設と連携し、古本ネット通販事業を展開するワーキングバリアフリー
- 「お仕事を作る」というのは、メッセージにもあった「古本のネット通販」ということでしょうか。どのような仕事なのかを簡単に教えていただいてもよろしいですか?
当法人で行っている古本のリユース事業は「ジョブボン」といいます。役目を終えた本を回収して、障がい者就労施設でネット販売を行い、その本を必要としている人に届けるという内容です。
本の回収については、商業施設や学校、大規模マンションなどの様々な場所に「ブックポスト」などを設置し、読み終わった本を入れて寄付していただきます。お近くにポストがない場合は送っていただくこともあります。
回収した本を仕分け・クリーニングし、Amazonへの出品、購入された本の梱包、配送のネット販売の一連の流れを行うのが障がい者就労施設です。販売は「早稲田ブックス」というAmazonの店舗で行っており、売上に応じて、障がい者就労施設に業務委託費用をお支払いしています。
本の査定や作業内容は全てマニュアル化しているので、場所を問わずどこでも取り組みが可能です。現在、全国で21施設ほどにご協力いただいていますが、その中には金沢QOL支援センター株式会社もいらっしゃいます。
障がい者就労施設では、仕分け・クリーニング、出品、ピッキング、梱包・配送までを行っている(画像提供:一般社団法人ワーキングバリアフリー)
-なるほど。家庭にある読み終えた本を捨てるのではなく寄付していただくことで、ゴミを削減するだけでなく、本の販売にまつわる作業を障がい者就労施設で行うことで、新たなお仕事を創出されているのですね。
はい。本の回収規模を広げればその分仕事が増えますので、委託先が必要となります。私の方でもこうした仕事をしている中で、障がい者就労施設の方から「新しい施設を作りたい」という話になったりすることもあります。
私は仕事を作るのが得意でも、障害福祉サービス事業指定申請手続きについては全く分かりません。そこで、篠原さんの方にご紹介しています。
一方、施設を開設する時の一番の問題は仕事を作ることです。仮に許認可が通ったとしても、運営を続けるためには継続した仕事が必要となります。
このように、お互いの得意分野で互いに役立てる関係です。
YTRディア法務事務所さんと共に、「障がい者だからという同情」によって商品を買っていただいたり、仕事を発注いただくのではなく、「障がい者だからこそできる強み」を生かした商品やサービスの価値によって、商品を買っていただいたり、仕事を発注いただけるような価値観を形成していければと思っています。
- まさにお互いに助け合えるパートナーなんですね。素晴らしいご関係だと思います。今後はどのようにその関係を発展させていくお考えでしょうか。これからの事業の展望、篠原さんに期待する点などについてもお聞かせください。
私たちがサポートしているメンバーには、発達障がいなどの特性がある方や、働きすぎて心を病んでしまった30~40代の方たちが多くいらっしゃいます。一度退職した人が、元のように働くことはとても難しいです。本当は能力があっても、ちょっとした食い違いによって、現代社会で「働くこと」から漏れてしまいます。
実は、私も働きすぎて「うつ病」の診断を受けて仕事を辞めたことがありました。現在は回復していますが、障がい者就労施設に来てしまうと内職的な仕事が多くて、障がい者の方の様々な能力を活かす、マッチングがうまくいきません。非常にもったいないことです。自分は彼らの気持ちが分かるからこそ、この支援は意味がある活動だと思って続けています。
本のリユースを始めたのは、先ほども申し上げたような、同情されることが当たり前の障がい者就労スタンスを打ち破りたいと思ったことがきっかけです。法人名の「ワーキングバリアフリー」は「ワーキング=仕事」と「バリアフリー」を合わせた造語ですが、どんな境遇の⼈でも、⾃分の強みを活かして仕事ができる。その実現のために、あらゆる障壁(バリア)を失くしたいという思いを込めました。
障がい者支援には、人材・仕事が足りないなどいろいろな課題がありますが、私は、彼らの得意なことを生かした価値ある仕事をもっと増やし、収入を高める方法を模索していきたいと考えています。
私たちがブックポストに本を寄付することは、サステナブルな行為です。学校や企業などでSDGsへの取り組みとして活動ができる上に、ご自宅も整理されてキレイになります。さらに、本を必要としている人達に届けることができ、購買活動によって障がい者の自立支援にもなります。循環型社会の第一歩として、これからも活動を大きく広げていきたいですね。
この活動を広めるためには、もっと多くの施設に関わっていただく必要があります。篠原さんについて特に素晴らしいと思うのは、専門家に特化しがちな士業でありながら、いろいろな人を集めたり、イベントを企画したりするなどして人々を結び付ける活動を行動的にされていることです。
行政書士YTRディア法務事務所さんとは、これからも互いの連携を強化するだけでなく、多くの様々な方たちを巻き込みながら協業していきたいと考えています。
企業や学校のSDGsへの取り組みとも連携した業務拡大への仕組み
-古本のネット販売というのは、失礼ですがそこまで収益が上がるものなのでしょうか?
古本というと、購入価格、販売価格の設定に際してプロの目利きが必要になるのですが、この本が売れるかどうか、その利益はいくらになるかを判定してくれるAmazonの出品ツール「バル君」を自社開発したことで、利益が出る仕組みを構築しました。その結果、私どもは、回収した本から利益が出そうな本を判別したうえで出品することができるようになったのです。
回収した本の裏のバーコードを読み込むと、画像と商品名、著者名、出版社発売日、商品サイズなどの他に競合他社との価格比較表、Amazon からの手数料が表示されるというものです。
施設の方で製造・出荷部分をしっかりこなしていただいているので、私の方では、調達する仕組みの構築に注力できます。つまり、どうやってより多くの古本を集めてくるかということです。
ここに不要な本を入れるとSDGsへの貢献になるというブックポストを増やす
ブックポストを設置してくださっているゾーホージャパン株式会社さん(画像提供:一般社団法人ワーキングバリアフリー)
-どのようにして多くの古本を集めるのでしょうか?
皆さんのご自宅には、必ずといっていいほど「もう読まない本」があると思います。かといって、古本屋さんに持ち込むのも大変で、手間がかかる。そんな状況なので、罪悪感を持ちつつ本を捨てている人がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、「ここに不要な本を入れるとSDGsへの貢献になる」というブックポストがあったらどうでしょう。本を気持ちよく手放せますよね。
例えば、雑誌を置いている美容院では、月ごとに多くの雑誌を破棄しなくてはいけません。また、企業では最近どこでもサステナビリティ推進をやっていますし、学校でもSDGsの勉強などがあるので、中学・高校の生徒会活動の一環として集めていただいています。
とある大手企業のサステナビリティ推進部門やコンビニエンスストアとの提携も進行中です。
そのほかにも、議員の方の事務所や大規模マンションのエントランスにブックポストを置かせていただくことで、様々な本が集まる仕組みを整えています。こうした動きがどんどん波及することで「本は捨てるのではなくてブックポストに寄付するもの」という機運が高まることを期待しています。
- 確かに、不要な本や雑誌は、売りに行くのも面倒で大したお金にならないのでとやむなく廃棄する場合もあると思います。身近に1冊からでも投函できるブックポストがあれば、私たち一人ひとりの行動も変わりますよね。
そうですね。私としては、現在の古本業によりしっかりと取り組み、障がい者の皆さんのお仕事をもっと作っていきたいと考えています。
出荷前のクリーニングも本当に丁寧な仕上げ(画像提供:一般社団法人ワーキングバリアフリー)