中小企業にとって、若い人材の獲得・定着は頭の痛い問題。一方で、日本全国のフリーター数は約155万人(2016年現在。総務省調べによる)と言われており、正社員としての就業を望みながら就職できない人も少なくない。
株式会社ジェイックは、そんな矛盾に教育と採用・就業支援の2つの分野から挑む企業だ。現在の年間就職支援実績は約2200人。大手には真似できないそのサービスの秘密について、代表取締役社長・佐藤剛志氏に伺った。
※本記事は、2017年9月に株式会社Sacco運営のメディア、BIGLIFE21で掲載した記事を再構成して転載したものです。
「中小企業を支援したい」がすべての始まり
株式会社ジェイックは、企業の教育研修を中心とする「教育研修サービス」と、就職を希望する若者に十分な教育・研修を施した上で中小企業に紹介する「就業・採用支援サービス」の2つの事業を軸とする、人材教育・紹介の専門会社。
人材教育の専業会社、人材紹介サービスの専業会社はどちらも星の数ほどあるが、1社で教育と紹介の両方を手がける会社は珍しく、それが同社の特徴にもなっている。
ただ、元からこのような形態だったわけではない。最初は教育研修ビジネスからスタートし徐々に形作られてきたものだ。
佐藤氏の前職は、中小企業を対象としたコンサルティング業。もともとは家業の衣料品店を継ぐつもりで、大学卒業後、勉強のためにコンサルティング会社に就職した。しかし最終的に兄が家業を継ぐことになったため、10年間勤めた後に個人コンサルタントとして独立。数年間の活動を経て、1991年に仲間と一緒に同社を設立した。
会社を作るにあたり、その根底にあったのは、コンサルティング会社時代に多くの中小企業社長と会う中で育まれた「中小企業を支援したい」との思いだったという。そこで、中小企業の大きな悩みの種である「人材育成」に特化し、マネージャー研修や営業マン研修などの教育プログラムの提供を開始。
しかし、企業の社長を相手に研修の提案や報告をする中で徐々に、教育も重要だが採用に困っているケースが非常に多いことを実感するようになる。そして、企業の採用支援、逆から見れば若者たちの就職支援へと事業が広がっていったのは、「中小企業を支援する」という事業観から見れば必然とも言えるものだった。
現在ではそのボリュームは逆転し、教育:採用支援=3:7となっているが、「両方とも同じぐらい大事なもの」として同社を支える2本柱となっている。
教育と就職支援が一体化した紹介サービス
平成27年度の厚生労働省の集計によれば、企業から手数料をもらって人材を紹介する民間の人材紹介会社の事業所数は全国で1万8457件。新規開業も多い一方、人材紹介のオファーや転職希望者をうまく集めることができず、廃業に追い込まれる企業も珍しくないと言われている。
そんな中で同社が年間紹介者数2200人という実績をあげ、順調に業績と支店の拡大を続けている秘密は、「就職に不利な条件を持っている人たちに特化した支援を行っていること」「通常の登録型の紹介はせず、教育と紹介が一体化したサービスを提供していること」「スタッフ全員が1人ひとりの就職の価値の重さを感じ、就職希望者に対し自分の甥や姪、親戚の子どもぐらいの気分を持ってきめ細やかな対応をしていること」の3つの点で他社と大きな違いがあるからだ。
同社の就職支援サービスが対象としているのは、フリーターや大学中退者、高校卒業後就職したものの早期退職した若者など、就職に関して不利に働きそうな要素を持っている又は持っていると思っている人ばかり。
素直でまじめな性格の人が多い反面、自分の人生を自ら切り開いていく強さやハングリー精神を持った人は多くない傾向があり、同級生と同じタイミングで就職しなかった後ろめたさを抱えていたり、大学を卒業しなかったことでどこか自信を失っている人も少なくない。
そういうバックグラウンドを持つ就職希望者に対して同社が行うのは、1週間~2週間に渡る研修で、社会人としてのマナーや基礎的な考え方、人生観を身につけ、自分の価値を見つめ直して自信を取り戻してもらうことだ。
通常の「登録型」と呼ばれる人材紹介のように、1~2時間ほどのカウンセリング及びパソコン技能などのテストを実施しただけで、企業に紹介することはない。研修への参加は無料だが、企業への紹介を受けるには研修を修了することが条件となっている。
研修内容も決してありきたりのものではなく、例えば1週間の研修なら、初日に講師が全員の顔つきを確認して「○○君はちょっと元気がないな」など1人ひとりの状態をチェックするのは当然のこと、毎日の終わりには全員に日報を書かせ、講師がチェックして翌日に返すなど、非常に地味だが丁寧な仕事が徹底されている。ドロップアウトを防ぐために、受講生がすぐに周りと打ち解けられるタイプか、なかなか親しくなれないタイプかなど、性格にも気を配り、馴染めていない場合はフォローをすることもある。
そうした教育の機能と就職支援の機能が一体化したビジネスモデルを持つ会社はとても少なく、ほぼ同社ならではだといえるだろう。
1人ひとりの就職は重いもの
なぜ手間と時間をかけてまでそんなことをするのかといえば、それだけ1人ひとりの就職を重く考え、就職先の企業のためにも、そして何より就職者自身のためにも、納得のいく就職をして、長く働いてほしいと願うからだ。
「若い人たちはすごい可能性があるじゃないですか。けれど、就職できないとか、早期退職してしまったとか、大学を中退したなどの理由で〝自分はできない〟と思ってしまう。自分の可能性を低く見てしまう若者がすごく多いんですね。我々はそんな若者たちに、自分の可能性に気がつくきっかけを提供したいんです」という佐藤氏の思いは、同社の社員に共通する思いでもある。
自信を失くしている人にとって就職は大きな成功体験になり得る一方、もし2、3カ月後に早期退職してしまうようなら逆により一層自信を失う原因にもなり、中にはショックが大きすぎて働けなくなってしまう可能性もある諸刃の剣。
「1つの就職の意味はそれぐらい重いというか大きいからこそ、本当に丁寧に1人ひとり目配りする必要があるんです」。それが佐藤氏をはじめとする同社の基本的な考え方であり、その思いこそが、同社と同業他社を分ける決定的な違いだ。そしてそんな「青年たちの支援をすることをわが喜びとするような社風」は、逆説的なようだが1~2週間の研修を通してこそ生まれるものだとも佐藤氏は話す。
「1週間一緒に関わっていると情が湧くじゃないですか。そういうのはすごく大事で、スタッフも知らず知らずのうちに、自分の兄弟姉妹のようにとはいかないまでも、甥っ子や姪っ子を見ているような気持ちになるんですね。当社では大学生の就職支援もしていますが、中には卒業式当日に決まることもあって、3月20日に4月1日入社で就職が決まったりするんですよ。そうなると、就職が決まった若者は本当に泣いて喜ぶんです。そういう人たちの支援をしていると、思いが強くなっていくんです」
そんな社内の気風がよく分かるのが、社内用語にまつわるエピソードだろう。人材紹介・人材派遣業界では、会社によっては紹介する人材のことを社内用語で「弾」と言ったり、紹介することを「売る」と表現することがある。
同業他社からの中途採用は少ない同社だが、もしこのような表現を使う人物がいれば周囲が眉をひそめるぐらいでは済まず、「間違いなく騒動になり、〝誰だあいつを採用したのは!〟と責任問題も発生しますね」とのこと。就職を希望する若者を大事にする精神はそれぐらい社内に浸透しているのだ。
採用力の弱い中小企業の味方に
1人ひとりを非常に大事にする同社のやり方はユニークで画期的なものとして注目を集め、過去には人材紹介業界大手の数社に模倣されたこともあった。しかしいずれも長続きせず、しばらくすると撤退している。その理由を佐藤氏は「地道で丁寧な仕事が要求され非常に手間がかかるので、登録型の人材紹介をしているところからすると効率が悪く、なぜここまでするんだと思われたんでしょうね」と分析する。
確かに大手の多くが採用する登録型に比べれば、手間も時間もかかる分、効率が悪いのは間違いない。だが、一見手間に見える同社のやり方は人材を求める企業側にも大きなメリットがある。
人材紹介会社のサービスは、紹介に応じて人材を求める企業から手数料を受け取る仕組みだが、事前の手厚い教育・研修プログラムのおかげで高いモチベーションを持つ人材を採用でき、その人が長く働いてくれるならば、企業にとってそれ以上のことはないからだ。
中小企業の場合、技術や市場のシェア率、マーケティング力は高くても、採用力は高くないという企業は多いが、遠方など若者が集まりにくい中でも良い企業はもちろんある。同社は、そういう企業の人材獲得にとっても非常に心強い存在となっている。
就職で不利になりがちな人を支援したい
同社の支店は、現在全国に7カ所。2018年の頭には2か所目の大阪支店が置かれる予定だ。現在のところ北海道と東北、中国地方には支店がないが、ゆくゆくはこれらの地域を含め支店を増やしていく予定。同時に、採用支援サービスの対象も拡大していきたいと言うのが、佐藤氏の今後の計画だ。
「今のフリーターを対象とした就職支援サービスは、たまたまその若者たちと遭遇して見つけたようなもの。けれど就職する上で不利になりがちな条件はまだいろいろあります」といいつつ考えているのは、まず現在「セカンドカレッジ」という名称で展開している、大学中退者向けのプログラムの更なる充実。それから、就職後3年以内の離職率が50%に上る高卒就職者が転職を希望する際に、適職を見つけられるような仕組みを作ることだ。高卒生の就職は自分の適性や社会を知る前に、〝かっこいい〟などの基準で選んでしまうことも多いもの。だからこそ、「転職する際にはしっかり選んでほしいんです」という。
同様に、派遣社員の約半数と言われる正社員として働くことを希望する人たちや、子どもが中学生になりある程度手が離れたことで仕事の再開を希望する女性たちの就職支援、また日本での就職を希望する留学生の就職支援も、同社にとってはこれから手がけていくべき課題の1つだ。
「そうやって就職に関してちょっと条件が悪い人たちの支援をいろいろやっていこうというのが、我々の今後の方向性です。例えば大学を中退する人は年間約7万人。大学生の数は1学年55万人ぐらいですから、毎年7万人というのは相当な数ですよね。大学を中退した後はフリーターになるか働かないというケースがほとんどなので、そこをうまく支援できれば大きな効果があると思います。
また経済的な理由で中退せざるを得なかったという場合は、仕事へのモチベーションが高く、就職してから活躍する若者が多いですし、そういう人たちの支援もしていきたいですね」
大手にしかできないこともあれば、中小企業だからこそできることもある。競争が激しい市場において中小企業が勝抜いていくための、お手本の1つを見せてもらった気がした。
◎プロフィール
佐藤剛志(さとう・たけし)氏…1962年生まれ。東京都江戸川区出身。早稲田大学卒業後、経営コンサルティング会社に入社。その後独立して個人コンサルタントの仕事をした後、1991年に株式会社ジェイックを設立。2000年に代表取締役社長に就任、現在に至る。
株式会社ジェイック
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