
化粧品の美しさを支える厳格な品質基準が、皮肉にも膨大な廃棄を生んでいる。製品化されながら、外装の微細な傷やリニューアルによる棚替えで「価値」を失わされるコスメロス問題に対し、単なる値引き販売を超えた「資源の再定義」というアプローチで挑む企業が現れた。
コスメロス削減を掲げた3社協業。新宿ルミネに全16ブランドが集結
2026年1月2日から3日間、ルミネ新宿にて開催される「コスメリゴランドストア supported by Cosme Kitchen」は、新春の消費行動に一石を投じる試みである。株式会社マッシュビューティーラボが運営する「Cosme Kitchen(コスメキッチン)」、株式会社ルミネ、サステナブルコスメアワード事務局の3社が協業し、本来は高品質でありながら市場から弾かれた16ものブランドが集結した。外装のキズやリニューアルによって店頭から姿を消した製品を特別価格で提供するだけでなく、会場では購入数が「コスメの再循環スコア」として可視化される。消費者の購買が直接的に環境貢献へと結びつくプロセスを、デジタルスコアボードという形で公表する仕組みが整えられた。
安売りで終わらせない独自性。ワークショップが可視化する資源循環の体験価値
本取り組みが一般的な在庫処分セールと一線を画すのは、購買を「終着点」ではなく、資源循環という物語の「出発点」と位置づけている点にある。最大の特徴は、消費者が自ら手を動かすワークショップの充実だ。単に安く買うだけでなく、不要になったプラスチックを溶かして「チューブスクイーザー」を作るなど、自らの消費行動を見直す体験がセットになっている。さらに、ルミネが主導する「コスメの掻き出し体験」は特筆に値する。使用済みコスメから中身を分離し、パッケージを資源として再利用する工程を消費者に開放している。こうした裏側の苦労をエンターテインメントとして共有することで、消費者は単なる安売り品の購入者から、資源循環の担い手へと意識を深めることになる。
年間約2万トンの廃棄問題に挑む哲学。完璧な美という業界の呪縛を解く
この取り組みの背景には、化粧品業界が長年抱えてきた構造的な歪みがある。国内大手5社だけでも年間約2万トンの中身が廃棄され、生産される化粧品の約半数が売れ残るという過酷な現実は、あまり知られていない。薬機法に基づく厳格な管理、そして「完璧な美」を求める市場の要請が、防腐性や色味のわずかな差異も許さないからだ。ブランド価値を維持するために「完璧でないものは存在させてはならない」という強固な哲学が、結果として膨大なロスを生んできた。しかし、マッシュビューティーラボらは、この完璧主義の定義を書き換えようとしている。オーガニックやナチュラルの思想を背景に持つ彼らにとって、自然界の揺らぎは本来許容されるべきものだ。「外装に傷があっても、中身の生命力は変わらない」という信念が、ブランドの垣根を越えた連帯を支えている。
サステナブル経営の要諦。負の資産を教育とエンタメへ転換する編集力
本事例から学べるのは、社会課題の解決を「義務」から「喜び」へと変換する編集力の重要性である。まず、競合を越えた共通価値を構築し、16ものブランドを一つの大義で束ねた点は評価に値する。また、スコアボードを用いてトレーサビリティを心理的に還元し、消費者の自己肯定感を高めた点も巧みだ。さらに、廃棄されるはずの物をリテラシー教育の教材に変えることで、負のコストを資産へと転換した点に経営の知恵が光る。「美」を売る産業が、その裏側にある廃棄から目を背けず、生活者と共に解決策を探る。この誠実な姿勢こそが、成熟した消費社会において、最も強力なブランド価値となるのではないだろうか。



