2030年で創業100年を迎える、社会福祉法人 東京児童協会。「ひとりひとりを大切にする家庭的な保育」を基本理念に保育事業を展開し、現在都内で認可保育園、認定子ども園を合わせて26園運営しています。
大切なのは子どもたち一人ひとりの「個性」を育むこと。そのために園を「大きなおうち」と捉え、多様な立場の人との関わりの中で、子どもたちに様々な体験を提供しています。
同時に、保育業界の社会化もめざし、異業種とのコラボレーションでSDGsに繋がる取り組みにも挑戦中。
今回、社会福祉法人 東京児童協会の広報担当 有金さんに、それらの取り組みや保育理念などについて詳しくお伺いしました。
保育園は「大きなおうち」
2030年で保育事業を始めてから100年を迎えるそうですが、そもそもの成り立ちや、これまでの保育の歩み、考え方などをお聞かせください。
有金
始まりは、関東大震災後に開いた青空保育です。社会福祉法人東京児童協会の前身は、昭和5年に東京都江東区に設立された大島中央幼稚園の設立に遡ります。
そこから代が引き継がれ、現理事長が経営を担うようになったのが40年程前。一斉保育が主流だった時代です。
「みんな一緒に同じことを」という保育のあり方に疑問を感じ、幼児教育の先進国である北欧を中心に視察して取り入れたひとつが、今では一般的な*「コーナー保育」。その頃は先進的な取り組みだったようです。
それからは一貫して子どもたちの「個」を大切にする保育を掲げ、個々の興味や関心を引き出す「体験」の機会を設けるなど、「自分で考え、判断し、行動できる子ども」たちが育つことを目標にしています。
有金
同時に、家庭的な環境での保育も重要だと位置付けています。
園を「大きなおうち」、そこに関わる保育士や保護者、地域や企業の方々を、おうちの屋根を支える「柱」と捉え、一人でも多くの方に柱になっていただくことで、安心できる環境の下での体験の場を広げていきたいと考えています。
子どもたちにとっては、多様な未来の選択肢、また生きる力を育む糧にも繋がっていると思います。
また、「大きなおうち」に関わる様々な立場の方々が、互いに支えあい育ちあう一つの家族のような関係になることも理想ですね。
*「コーナー保育」とは、子どもの個性や主体性を重視し、遊びごとのスペースを設けて、子ども自らが選んだ場所で遊ぶ保育のこと。
「大きなおうち」の考え方は、「ONE ROOF ALLIANCE」の活動と共通していると伺っています。
有金
その通りです。「ONE ROOF ALLIANCE」とは、弊法人の「大きなおうち」の保育理念をもとに、子どもたちや保護者に体験価値を提供する活動の総称です。
現在、社会福祉法人としては保育園運営、株式会社としては企業主導型保育や学童保育事業の運営を行っています。そして、このビジョンに賛同する異業種と連携を図ることも重要と考えています。
弊社のDNAである、常に新しいことにも挑戦し、保育の質をさらにブラッシュアップしていきたいという強い想いがベースにあるからです。
社会全体で子どもを育む「保育の社会化」に繋がるSDGsな取り組み
新たな取り組みにも挑戦ということで言えば、これまでどんなことに力を入れてきたのでしょうか?
有金
まず早くから取り組んでいるのが「食育」です。
子どもたちが普段口にしている食べ物が、どのように育ち、どのような過程を経て料理され、自分たちの元へ届いているのかまで、包み隠さず伝える機会を設けています。
また、「いただきます」「ごちそうさま」の意味を伝えることで、命の大切さや自然の営みについても学んでいます。
いくつかの大学から、子どもの成長をテーマにした共同研究をしたいとお声掛けいただくのも、これら長年の実績があってこそだと思います。
それから、保育業界の長年の課題でもあった待機児童への取り組みとして、ここ10年程で園の数を増やしました。現在、都内に、認可保育園と認定子ども園を合わせて26園運営しています。
さらに、「保育の社会化」をめざして現在力を注いでいるのが、企業と連携したSDGsの取り組みです。
「保育の社会化」とはあまり耳慣れない言葉ですが、どのようなことですか?
有金
社会全体で子どもたちを育んでいこうという考えです。保育の現場を社会と繋ぎ、様々な方との結びつきの中で、子どもたち一人ひとりの成長を見守る重要な視点だと思っています。
その考えの下で取り組まれている、SDGsに繋がる企業とのコラボレーションですが、具体的にはどのようなことを実践されているんですか?
有金
有金
まずは、イベントやコンサートの舞台美術、会場運営を行うイベント業界の大手企業「株式会社シミズオクト」とのコラボレーションです。
2022年から共同の取り組みとして、卒園製作でプランターカバーを作っています。
そもそも、シミズオクトに勤める保護者からお話をいただいたことがきっかけだったんです。
イベントの際に出た部材や、装飾物を作ったときの端材など、捨てるにはもったいないもの、ゴミとして処理するしかなかったものをなんとか有効活用できないだろうかと。
そこで挙がったのが、園の工作や体験などで利用できないかというアイデアです。
有金
子どもたちへのアプローチとしては、まずシミズオクトがどんな会社なのか、そしてなぜこの部材が子どもたちの元へやってくることになったのかを、わかりやすく説明していただき、その理解があった上で、ゴミと捉えていたものを工夫してもう一度活用しようと意識付けしました。
そこから実際にプランターカバーを製作しました。社員の方の説明がとても丁寧で、子どもたちも終始目を輝かせて聞いていましたね。普段は触ることもない道具も使えるとあってかなり興奮気味でした。
さらには、仕事に真剣に向き合うプロから直接ものづくりを教えてもらったことで、将来の仕事へのイメージや、大人のかっこよさのようなものも感じてくれたようです。
今後も継続していきたい大切な取り組みです。
有金
次に、セレクトショップの「株式会社ユナイテッドアローズ」とは、園児のTシャツを通じてコラボレーションしています。
昨今、ファッションロスが大きな問題になっていますが、成長の早い子どもたちが園で着用している園Tシャツのリサイクルは大きな課題でした。
そんな時に、再生繊維化の話を耳にしたんです。これは何かできるかもと思いましたね。
そこで保護者に声を掛け、まずは前年度着用したTシャツを回収して糸に再生。それをユナイテッドアローズに預け、再び園Tシャツの素材として利用していただきました。
着られなくなった服が新しく蘇ることで、子どもたちにとっては、目に見えるわかりやすいSDGsの取り組みだと実感しています。
有金
食育にも繋がる取り組みとしては、バナナを通してフードロスを学ぶ機会もありました。
バナナジューススタンド「BANANA JUICE TOKYO」からお声掛けがあり、当初はバナナジュースをご提供いただくというものだったんですが、せっかくなので、バナナの不思議にまつわる話やバナナの皮のゴミ問題などもお話しいただくことに。
さらに、私も初めて知ったんですが、バナナの皮が肥料として利用できるということで、肥料作りも体験しました。こちらは後日、子どもたち自ら、園で育てている野菜のプランターの土に混ぜ込みました。
実はそこからのご縁で、世界有数のバナナ生産国であるエクアドルの大使館とも繋がり、公使がお見えになる交流会に発展したんです。
子どもたちにとっては思いがけずエクアドルの文化に触れる機会にもなりました。
いずれも、子どもたちの興味や関心を引き出す魅力的な取り組みで、なおかつ企業との共創が「保育の社会化」にも繋がっていると感じます。
有金
おっしゃる通りです。子どもたちにとってSDGsをテーマに大変貴重な体験をさせていただいています。
同時に企業にとってはCSRに繋がる取り組みだとも言えますし、弊法人としては保育の現場を知っていただく良い機会だとも捉えています。
保育従事者のスペシャリストとして社会価値を高める。それが100年企業の役割
保育の現場、と言われましたが、そこで大切なことはどのようなことでしょうか?
有金
やはり「自ら考え行動できる子どもたちを育てること」だと考えています。そのために欠かせないことは、園と保護者の連携。「大きなおうち」のファミリーとして子どもたちを共に支えていくことです。
そもそも園には、保育士はもちろん、栄養士や看護師などもいます。
保育士は養成学校で保育の知識を身に付けた専門家、栄養士は食育に精通し、個々の子どもたちの食の好き嫌いやアレルギーを全て把握しています。
さらに、看護師は日々の健康やケガへの対応はもちろん、心のケアや命の大切さについて子どもたちに伝えることもあります。
それぞれがスペシャリストとして活動しながらお互いの情報を共有し、連携を図った上で子どもたちと接しているんです。
もちろん、保護者から何かしらの相談があったときには、そこで共有した情報を元にアドバイスやサポートを行います。
常に園と保護者が連携することで、より多くの目で子どもたちを見守ることができると考えています。
企業とコラボで行うSDGsの取り組みなど積極的に行なわれている東京児童協会ですが、今後の保育事業に必要なことはなんでしょうか?
有金
先程触れた待機児童問題ですが、実は現在の東京都の保育園充足率は約90%と園が余る状況になりました。
つまり今後は、「選ばれる園」をめざす時代に変わっていくと言えます。子どもたちに提供する体験も、質と量をさらに充実させていく必要があります。
そのためには弊法人が積み重ねてきた知見に、企業や地域、有識者の知見をプラスし、「大きなおうち」として、さらに魅力のある保育の仕組みを作ることもひとつの手段だと考えています。
さらに、保育業界全体において必要なことはどのようなことでしょうか?
有金
「保育や保育士に対する社会的な価値」を発信することが急務だと感じています。
私は異業種からの転職したのですが、保育業界はガラパゴス化しているなと感じました。
例えば情報発信の面。保育の現場にメディアが入りにくかったことも一因となって、保育施設や保育士の仕事とは何か、どんな目的があるのかなど、保育の情報そのものが発信されにくかった。
それが結果的に保育士の価値を低くしてしまったことに繋がったのではないかと感じます。
保育士は常に子どもたちの個性に合わせ、成長を促すための体験や経験の機会を作り出しています。言ってみれば、子どもの体験・経験づくりのスペシャリストです。
こどもの成長過程においてとても重要な存在です。保育や保育士の価値を社会に伝え、より関心を持つように社会を巻き込んでいくことが大切だと考えています。
有金
東京児童協会は「大きなおうち」という保育理念を基に、時代のニーズ・課題に対して柔軟にチャレンジをしています。先に述べたように、保育と社会を繋いでいく事も大切な取組です。
そのひとつの手段が、SDGsを活用したコラボレーションです。それだけでなく、お互いの知見を組み合わせれば、子育てに関する社会課題を解決する仕組みやプロダクトもできると考えています。
弊法人は2030年に100周年を迎えます。
その時に向けて、子どもたちに質の高い保育を平等に提供すること、保育士に働きやすい環境を提供すること、そういったプロダクトを皆様のご協力のもとで1つでも多く積み上げて行きたいと考えています。
◎会社概要
会社名:社会福祉法人東京児童協会
URL:https://tokyojidokyokai.com/index.shtml
代表:菊池政幸
所在地:〒134-0091東京都江戸川区船堀2-23-10
設立:1960年2月15日
代表電話:03-3680-1441