「廃業の理由は、親が子に継がせたくない」継ぐ子供がいない、息子が継ぎたくないといった従来の事業承継の悩みから近年大きく変わっています。2000年当初、34万社存在していたモノづくり事業者はコロナ前の2020年には17万社に半減しました。そして注目すべきはその減少したほとんどが30名未満の加工を主とした職人企業であるということです。ではこの先20年、この国で同じモノづくりができるのか?そして、職人企業が継続する仕組みとは?悩みの当事者である株式会社丸菱製作所の取り組みを紹介します。
我々から見た製造業のイマ
当社株式会社丸菱製作所は、愛知県春日井市に位置する創業70年のモノづくり企業です。三菱電機の一次サプライヤーとして、特注のエレベータ部品や、工作機械のフレーム、ベッドなどの重厚長大な大型製品を、板金から溶接、機械加工、組み立てまで社内で一貫生産をする金属加工のプロフェッショナルです。また日本の強みだった小型化、量産化という掛け算の技術が、今や海外生産が主体なった一方で、自動化が難しい基礎技術を必要とする少量多品種、コア技術といった足し算のモノづくりを大切にしてきました。
そして日本の町工場の8割と同様に、主要顧客の売り上げが90%に迫る一本足経営の会社でもあります。この構造で長きにわたり日本のモノづくりをQ品質、Cコスト、Dデリバリー(納期)を高いレベルで維持してきた一方、生産の主体が海外に移行した中で少量多品種、短納期、受注生産から発生する生産負荷変動や、計画変更によるロスコストに対応できなくなってきたという業界の課題がありました。また、新規顧客の開拓が必要になっても既存顧客の繁忙期に仕事が増える際には、せっかく開拓した新たな顧客の仕事を断らなければならないこともある。今までの枠組みから抜けられないジレンマがその状況に拍車をかけています。
2025年に向け人手不足が大きく騒がれる一方で、主要顧客の売り上げの増減により、工場の稼働を停止する企業も同時に発生している歪な状況にあります。つまり、我々町工場が持つ生産リソースは、未活用なものが多く残されているのです。そのような状況において我々日本がこの先も現在と変わらないモノづくりの国であるためには、完結したサプライチェーンの枠組みを開放し、リソースを最大限活用することが必要な時期が来ていると考えています。
そこで悩みの当事者でもある丸菱製作所が始めた新たな取り組みがあります。「工場の困った『イマ』を解決する。技術を出品する製造業のフリマサイトASNARO(アスナロ)」です。
製造業のフリマサイトASNARO(アスナロ)とは
ASNAROは新しい主要顧客を探すマッチングサイトではなく、双方向に取引をするフリマサイトの特徴と、技術という無形物を商品として取り扱うスキルマーケットという既存のサービスを応用して、工場間が相互取引をすること目指して立ち上げた技術のECサイトです。
主要顧客の仕事量の増減によって大きく左右される町工場は、徒に顧客拡大を行うことは難しい。そんな職人企業を主体としたリソースのシェアリングの場を提供します。受注時には溶接など自社の持っている技術を空き状況も含めて工程単位で出品し、発注時には困っている日程と困っている工程のキーワードを入力することで、ホテルの予約サイトのように今頼める技術を検索することができます。
マッチングサイトが会社同士を会わせることをねらいとしているのに対し、ASNAROはECサイトとして打合せ、帳票、決済まで取引をサポートします。町工場が不得意としているシステムを持つ必要なく、明日から無料でできるDXなのです。
きっかけは協力会社の社長の言葉
ASNAROはの誕生は、「この設備が壊れたら、この事業はやめようと思っている。」という協力会社の社長の言葉がきっかけでした。競って投資をした設備を使い倒して30年、モノづくりの業界は岐路を迎えています。今はまだ設備があるから仕事は続けられる。しかし、先の5年が読めなくなった今、30年先に元を取る、そんな再投資ができなくなったというモノづくりの悩みがあります。
老朽化した大型設備が並ぶ弊社も同じ悩みを抱えていました。一次請け、二次請け、三次請けサプライチェーンには多くの階層がありますが、モノづくりをしている各階層で同じく共有の課題がありました。
再投資をしないと決めても誰かに助けてもらうことで事業を継続する、または勇気を出して投資をした設備をシェアすることによりきちんと稼働させることで、事業を継続する新しい枠組み・インフラを構築すること、それはこのASNARO事業のミッションです。
自社を継続するのではなく、サプライチェーン全体、そして他業界のモノづくりに対しても応用可能なインフラ作りを目指します。
私が今息子に事業を継ぎたいと思えるか?その問いの答えは出ていません。しかし、当事者として息子が継ぎたいと思う、私が継いでほしいと思えるそんな業界づくりを目指しています。
サプライヤが主役となるプラットフォーム
モノづくりにおいて、これまでプラットフォームがなかったわけではありません。工場の情報を掲載したデータベース型や、発注者の案件に対してサプライヤからの入札を集める案件入札型、発注案件に対し調達を代行する商社型などののサービスがそれにあたります。
しかし、データベースは大手中堅の検索には便利なものの、町工場が検索されることはほとんどなく、入札型は相見積もりの効率化、商社型は手配業務の効率化など、今までのサービスはどれも大手中堅の調達に向けた需要目線のサービスであったという特徴があります。
ASNAROは自身の受けたい枠での受注が先行するサービスであり、地域、特徴、空き状況といった複数の要素から検索することで、特定の条件における選択肢を提供し、会社の規模ではなく目的を達成する企業を検索することができる、我々サプライヤのためのプラットフォームです。
「主要顧客があるためリピートしないほうが都合がいい」
「自社でできない部分だけ頼めるのが良い」
「近年いなくなってしまった小回りの利く父ちゃん母ちゃん企業を探したい」
「忙しくても稼働しない設備をシェアしたい」
どれも大手から見れば小さな取引には違いがありません。だからこそこのインフラが必要とされています。
丸菱製作所が目指す職人企業大国
ASNAROは町工場間のリソースのシェアから始まりました。しかし既存のモノづくり企業の中で完結させてしまってはもったいない。次に目指す未来は我々の技術を開放する「モノづくりの民主化」です。
昔は大手メーカーが大規模に新製品を開発しましたが、今やスタートアップやインフルエンサーがクラウドファンディングを用いながら小規模にニッチな新商品を生み出す時代になってきています。しかし、既存のサプライチェーンを活用できないために、新商品が海外生産で始まってしまうケースが多々あります。コスト競争以前に競争自体が行えていない現実があるのです。
それでは次の世代にモノづくりの文化は残せません。ASNAROは既存のサプライチェーンにアクセスできる窓口を用意することで、日本でもう一度新しいものをつくる共創の場を提供することができます。
元来プラモデルのようにお金を払ってでもするほど、モノづくりは面白いものである。誰でも参画できる業界になることでモノづくりの面白さを再評価したい。
過去から続いてきた哀愁ではなく、次の世代には面白いという希望を残したいと考えています。
◎会社概要
会社名:株式会社丸菱製作所
URL:https://www.marubishi-co-ltd.com
URL : https://asnaro.co.jp/about/
代表者:代表取締役 戸松精三
設立:1952
資本金:3600万円
従業員数:102
事業内容:
エレベータ部品、工作機械部品製造を主とした金属加工業
製造業加工受発注プラットフォームASNARO(アスナロ)の運営
◎執筆者プロフィール
専務取締役 戸松裕登
1986年8月5日愛知県生まれ。2010年早稲田大学教育学部卒業後、家業である株式会社丸菱製作所に入社。町工場の三代目として今まで目をそらし続けてきた鉄工業という家業に向き合う。主要顧客との営業、生産管理、自社ブランド製品の開発・設計に携わりながらモノづくりの面白さを実感する。
必ずしもスポットライトが当たらなかった町工場の持つモノづくり技術に主体を置いたサービスを作り、モノづくりの魅力を再評価される環境を目指す。次の世代に業界を継続させる新たな枠組みとして、2022年4月に技術を出品する製造業のフリマサイトASNARO(アスナロ)をオープン。