創業100年以上を迎える企業の数は、世界で7万4037社。日本企業がその半数を占め、日本は世界一の長寿企業大国だ。
(出典:日経BPコンサルティング・周年事業ラボ 調査データ『2022年版100年企業<世界編>』)
長寿企業は、どのような理念を受け継ぎ、どのように事業を続けてきたのだろうか。社歴100年を超える企業の中でも、百貨店のデパ地下で有名な老舗和菓子屋に注目。
151年にわたり和菓子舗を営む たねやグループ(以下、たねや)営業部 広報室 室長の青木 志歩さんと、同室の高曽 津弥さんに話を伺った。
発祥の地は滋賀県の近江八幡。「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の理念を商売の主軸に据え、江戸から明治にかけて活躍した近江商人のふるさとだ。
生粋の地でその精神を継ぐ同社。明治5年の創業から今に受け継がれる商いの心得や、ステークホルダーとのつながり、未来でもお菓子屋を続けるために進むべき道が語られた。
これまでの歩みや未来構想から、永く愛される所以をひも解いていく。
近江商人の哲学「三方よし」を継ぐ “たねやさん” の心得
「『あの会社、あの人ってなにしてはるん?』と言われるようでは、生産者のみなさんに応援していただけないですし、お客様にも愛していただけないんです。」
デパ地下で老舗の風格漂う「たねや」だが、のれんの先には飾らない言葉が待っていた。
「菓子業は4代目ですが、家業としては10代目。材木屋から始まり、和菓子屋の前は穀物や根菜のタネを売る種屋でした。よくお客様から、『なんで “たねや” なんですか?』と聞かれますが、ここに由来します。」と青木さんは語る。
たねやは1872年(明治5年)に創業。山や丘、水郷に恵まれた滋賀県 近江八幡を拠点に、うつろう季節に沿った和菓子をお客様に届けている。
創業からの理念は、「天平道(てんびんどう)」「黄熟行(あきない)」「商魂(しょうこん)」の三つ。
「天平道」は、商いの道はそのまま「人の道」であること。「黄熟行」は、自然に学びながら手塩にかけ、思いやりや真心を忘れないように。「商魂」は、お客さまに喜んでもらえたかの心を基本とする心得だ。
理念を掲げても、浸透に苦労する企業は多い。
「伝える」だけでなく「伝わる」ように、同社には三つの理念をやさしい文章にした「末廣正統苑(すえひろしょうとうえん)」が在るという。入社時に全従業員が手にし、朝夕それぞれの持ち場で唱和する。
1984年、先代が初めて県外の日本橋三越本店に出店。その後は全国の百貨店へ店を出し、家族で営む小さな和菓子屋は拡大へ。
人が増えても、たねやの生き方や商いの道を貫くため、大切な「八つの心」を同書で伝え続けている。店舗経験を経て広報室へ異動した青木さんと高曽さんが、現場での様子を振り返った。
「例えば、『六つ、私は感謝の心をもっていただら(ろ)うか』。私たちは、自然があり、生産者の方々が手塩にかけて育ててくださった農作物があって成り立ちます。おいしく加工された和菓子をありがたい心で店頭へ並べます。そして、購入していただけるお客様への感謝を忘れてはいないか、ということです。」
「『七つ、私は親切の心を大切にしていただら(ろ)うか』。ご年配の方には袋が重い場合、お車までお見送りするなど、販売員がその場で良いと思ったことを行います。お客様がその先のお客様にお渡ししても、恥ずかしくない包装であったかなど、日々の営みを省みます。」
近江商人の「三方よし」を源流に、たねやの心得は身近な言葉で語られていく。
地元の人たちを中心に、 “たねやさん” の愛称で呼ばれているというが、取材中、思わず擬人化したくなるような親近感に包まれた。
たねやには、挙動を細かに記したマニュアルがない。振り向けば、「人として、会社として、社会に必要とされていることは何か」に思いを巡らせ、従業員一人ひとりが歩み続けた道がある。
変わらないことは、惜しみなく変えること
先述の通り、たねやの始まりは材木屋。「何をするか」にこだわらず、「精神や考え」を継ぎ、時代に合わせて移り変わっていく。「惜しみなく変えること」に挑み続けてきたという。
「『今日も変わらず美味しいね』とお客様がおっしゃる栗饅頭も、リニューアルを重ねています。」
栗饅頭は創業時からある代表銘菓だ。当時は敗戦後で物不足の時代。貴重な砂糖で作る甘い饅頭が人気だったと想像するが、今の私たちには甘すぎるだろう。
「時代の風潮や日本人の舌の変化に合わせ、砂糖の量はずいぶん減りました。栗の食感や風味をより感じられるようにし、栗のサイズも少し大きくなっています。」
「社長が4代目の山本昌仁に代わり、全ての和菓子を見直しました。」
フードロス問題に向き合い、切れ端として破棄するしかなかった「カステラのみみ」や、表面がふぞろいな栗饅頭の販売を開始。味は変わらずリーズナブルな価格で購入できるため、毎日完売する商品に。
夏に人気のゼリーや水羊羹などの容器は、プラスチックから再生率の高いアルミに変更。3.8トンのプラスチック削減を見込んでいる。
SDGsやサステナブルという言葉が生まれる以前から、自然やステークホルダーとの共生を念頭に商いを続け、変わることを厭わない。
これらは取り組みの一部だが、環境や人への配慮ができないなら、トップは商品を廃番にする覚悟だ。変化には反対やリスクがつきものだが、その真剣さに従業員は信頼を寄せ、力を合わせるのだろう。
お米ひと粒を大事にする組織風土は、こうして創られる
「『あんたのとこへは、うちで作ったもんをおろさへん』と生産者さんに言われれば、お菓子が作れないんです。キレイな水がなければ、おいしい和菓子は生まれません。」
「人気商品の 『本生羊羹(ほんなまようかん)』は、北海道産小豆のおいしさが決め手です。もう一つの主役は水。鈴鹿山脈の地下水を使用しており、この地の澄んだ水が小豆のおいしさを際立たせます。」
安心・安全でおいしいお菓子づくりには、自然の恵みや上質な素材が欠かせないことから、社長や原材料管理室のメンバーを中心に、生産者の方々を訪ねる。
農作業を手伝いながら、農家の方のものづくりや和菓子づくりへの想いに触れ合う。一緒に食卓を囲み、人となりを知ってつながるのが、たねやの流儀だ。
「先日、社長が北海道の生産者さんを訪ねたんですが、『畑の真ん中でトウモロコシを食べさせていただいた』と嬉しそうでした」
そう話す青木さんも、取材当日の朝に別の生産者を訪ね、走り回る鶏を柵に入れる手伝いをしてきたという。
「多くの従業員が農作業のすばらしさや大変さを体感し、生産者の方々の顔を知るからこそ、お米ひと粒、小豆ひと粒を大切にする組織風土が生まれたと自負しています。」
相手を敬い、つながりを大切にする心は、出店の地へも届けられる。
「たねやには、“本店” という概念がありません。お菓子はその土地の歴史や伝統文化に色濃く紐づきます。『本店』から『支店』へ一方的に届けるのではなく、その土地の方々に親しんでいただくには、どのようなお店が良いかを考えて創り上げます。」
未来もお菓子屋であり続けるために「自然にまなぶ」
2015年、たねやはグループの本拠地として、「ラ コリーナ近江八幡」を開業した。
びわ湖岸の八幡山のふもとに広がる敷地は、甲子園3つ分に当たる。先代が2008年に「厚生年金休暇センター」の跡地を23億円で購入。
市民が憩うホテルやテニスコート、プールなどがあった土地は、鮮やかな緑に姿を変え、虫の音が響く。
「自然に学ぶ」をコンセプトに創られた空間は、年間320万人以上の観光客で賑わい、滋賀の人気NO.1スポットに。
美しい自然に触れながら、たねやを始め、同グループでバームクーヘンが人気のクラブハリエのお菓子もたのしめる。
「私たちは創業の地である近江八幡を大切にしていきたい。すべての発信地と捉え、本社も敷地内に移しました。」
「つながりある生産者の方々に、安定して原材料を届けていただくのは変わらず大切なことですが、従業員によるお米作りにも挑戦しています。ところで、カブトエビを知っていますか?」
水がきれいな場所にしか現れない、雑草を食べてくれる小さな生物だと教わった。農薬を含む土を除染し、開業から無農薬のお米を作り続けているという。本来の生態系に戻ることを願う取り組みだ。
今後もSDGsと連動し、発展を続ける「ラ コリーナ近江八幡」。目先の利益を度外視した広大な構想が実を結ぶのは、まだまだ先だろう。
未来もお菓子屋であり続けるために、進むべき道とは。
「豊かな自然を守り、自然に学びながら変革し、次の時代へつないでいく……。持続可能なお菓子づくりの道です」明快な答えが返ってきた。
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デパ地下和菓子屋編では今回紹介したたねやもありますので気になる方はチェックしてみてください。