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大企業出身者のSDGs企業設立相次ぐ~キャリアを捨てて転身したワケとは【SDGs新時代を読む第6回】

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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中村優子さん

大企業出身者らがSDGs(持続可能な開発目標)関連の企業を設立する事例が相次いでいる。

元大手製薬会社出身の小野氏が立ち上げたVALT JAPAN(東京・千代田)は全国で1500万人にのぼるという就労困難者の就労支援事業に挑む。

元世界的I T企業出身のガルグ氏が率いるITE社(東京・千代田区)は、アイスバッテリーという保冷システムで日本発、世界に向けたSDGsを掲げ、株式投資型クラウドファンディングで個人投資家から約6000万円を集めた。

両者に共通するのは、大企業出身ながら、そのキャリアを捨て社会課題の解決を目指している点だ。

障害者の雇用を人手不足解消の一助に

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VALT JAPANは障害者が仕事で活躍できる社会を目指している

「就労困難者が大活躍できる社会を作りたい」。VALT JAPANの小野貴也代表は強調する。
同社は就労困難者に向けた就労支援事業「NEXT HERO」を展開している。厚生労働省によると、現在日本国内において、障害者手帳を保持している人は約600万人。中には高いスキルや能力を持った人もおり、彼ら、彼女らの能力を活かすことは、これから人口減、労働力不足に直面する日本の将来に向けて一縷の光となるはずだ。

一方で同省の障害者雇用状況によると、企業へ就職できているのは約60万人と全体の10%ほどに過ぎず、働きたくても働く機会を得られない人が多いのが現状だ。

VALT JAPANは障害のあるワーカーの特性に合わせた仕事を企業から受注し、その仕事を分配、新たな仕事も創出している。企業と働き手とのマッチングビジネスは多いが、就労継続支援事業所との連携や、納品の品質のチェックなど手のかかる部分も多く、不安を抱える企業も多かった。VALT JAPANの場合は同社が受注者となり、納品品質も管理するため、企業も安心して発注できるようになった。

小野代表が起業したのは26歳の時。大手製薬会社の医薬情報担当者(MR)だったサラリーマン時代に扱っていた精神疾患の患者会に参加した。その際、障害や疾患を抱える多くの方々には、仕事の成功体験を積み重ねた経験がほとんど無い実態を知った。 医薬品にできることには限界があると思い、社会的就労困難者が「仕事を通じて活躍できる社会(社会的インフラ)」を作ると決心。わずかな貯金を全額投じ、同社を創業した。

人口減、人手不足という差し迫った問題がある中で、障害者雇用の促進は喫緊の課題でもある。「安定的な収益を得ながらこのビジネスモデルを成長させようとすると約20年かかると言われているが、それでは遅い」と小野代表は語る。

コロナ禍で業績悪化した時期もあったが、足元では業績は急回復しており、IPO(新規株式公開)も目指しているという。

高性能保冷剤でフードロスやワクチンロスを軽減

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輸送中も一定の温度を保ち、製品の鮮度を保つように設計されたアイスバッテリー

社会問題解決に挑む企業は他にもある。高性能保冷剤「アイスバッテリー」を手掛けるアイ・ティ・イー(東京・千代田)だ。

同社は独自開発した保冷剤を活用してコールドチェーン(低温輸送)関連サービスを提供している。代表のパンカジ・ガルグ氏はインド出身で、1988年に株式会社神戸製鋼所にエンジニアとして来日。米インテルを経て2007年に同社を起業した。グローバル企業でのキャリアを捨て、なぜ異国の日本で起業したのか。

ガルグ氏には幼い時に姉を亡くし、母親が悲しむ姿を間近で見た経験がある。インドではこうした悲劇は珍しいことではなく、今も食料やワクチンが手に入らず命を失う子どもが大勢いる。幼いガルグ氏は「いつかお母さんのように悲しむ人を無くしたい、子供達を感染症などの病気から救おう」と決意したという。

世界自然保護基金(WWF)によると、現在、世界では年間約25億トンもの食品が廃棄されており、これは全世界で生産される食品の約40%に当たる。先進国では過剰生産によって、新興国では作物を保管しておく設備や低温物流のインフラが不十分であることが原因で、フードロスが発生している。

医療分野でも大きなロスが発生している。医薬品を届けるためには適切な温度管理が求められるが、インドやアフリカ等の新興国では、温度管理の不備により、ワクチンがなかなか行き渡らない。このため、およそ2,000万人の乳児が予防接種を受けられず、年間150万人の子供が命を落としていると言われる。

食品や医療ワクチンのロスを防ぐコールドチェーン、世界規模でニーズが増えている技術である。同社は従来の電気代を50〜70%削減することを目指した技術の市場導入にも力を入れており、日本だけでなく、米国など海外でも事業拡大する計画だ。

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ライター:

nakamura_SDGs

(なかむらゆうこ) 中村優子

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元UHB北海道文化放送アナウンサー、作家のエージェント、インタビュアー、スタートアップ広報。作家・林真理子さんのYouTubeチャンネル「マリコ書房」、および著者インタビューサイト「本TUBE」を運営。インタビュー動画の企画から出演、編集まで一人でこなす。年100本以上の動画制作に関わる。

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