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株主総会前に有価証券報告書を提出する企業が急増 55%の背景に何が? IR担当不眠物語

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株主総会、有報前倒しの波

2025年、株主総会の開催前に有価証券報告書(有報)を開示する上場企業が急増している。金融庁の集計によると、3月期決算の企業約2300社のうち55%にあたる1241社が、総会開催前に開示する見通しとなった。前年のわずか2%(42社)から大幅な増加で、特に銀行や輸送用機器などの業種で顕著な動きが見られるという。

 

金融庁の要請で企業の姿勢が変化

この変化の背景には、加藤勝信金融担当相による要請と、金融庁による働きかけがある。2024年3月、金融庁は全上場企業に対し、株主総会前の有報開示を促す通知を発出。非財務情報への注目が高まる中、特に海外の機関投資家から「対話」の前提として有報の早期開示を求める声が強かった。

有報は、従来の財務情報に加え、設備投資、株主情報、人的資本、サステナビリティ欄の記載などの非財務情報を含む。これらの開示は、企業と投資家のエンゲージメントを深化させる鍵とされており、透明性の向上が上場企業に求められる時代に突入した。

なぜ、有価証券報告書の開示前倒しがここまで急務となったのか。その理由は、国側が企業に求める情報開示の質とタイミングの変化にある。

有報の前倒しが求められる理由は?

 

金融庁は従来、企業の財務健全性を把握するための情報開示を重視してきたが、近年では「投資家との建設的な対話を可能にする非財務情報の整備と早期公開」に重点を移している。特にサステナビリティや人的資本に関する記述の充実は、企業の中長期的価値を評価するうえで不可欠とされており、機関投資家が“総会前にこれらを知りたい”というニーズが高まっていた。

2023年にはESG関連開示のガイドライン整備が進み、金融庁はその延長線上で、総会前に有報が提出されていないと、対話も評価も十分にできないという投資家側の声を受け止め、3月に全上場企業に向けた開示前倒しの要請へと踏み切った。これは、「株主総会を単なる“儀式”ではなく、対話と説明責任の場とするための制度的後押し」であったといえる。

投資家側にとっても、有報の開示が総会直前では、事前に読み込む時間が足りず、十分な質問や議案検討ができないという課題があった。

グローバル基準は1週間以上前

 

特に海外投資家の場合、言語や時差の問題もあり、1週間以上前の開示がグローバル基準とされている。こうした背景を踏まえ、総会前の提出が進むことで、企業と投資家のエンゲージメントは形式的なものから、実質的で双方向性のある関係へと質的転換が促されている。

一方で、現場では新たな負荷も生まれている。あるプライム上場企業のIR担当者は、「ゴールデンウィーク中もほぼ毎日出社して、有報作成の調整に追われた」と明かす。業界全体で開示の早期化が進む中、「うちだけ出さないわけにはいかない。やるしかない」という空気が社内に強まったという。情報の正確性とスピードを両立させる難しさに直面するなか、IR実務は新たな局面を迎えている。

提出時期も前倒し傾向、HOYAは模範例に

 

有報の提出時期にも変化が現れている。2024年は総会前日や直前の開示が多かったが、2025年には「総会7日以上前」に開示した企業が41社と、前年(11社)の4倍近くに増加。最も早かったのは、HOYA(レンズ製造大手)で、株主総会の3週間前となる6月5日に提出した。同社は2013年3月期以降、総会前開示を続けており、「グループ子会社からの情報収集とスケジュール管理の徹底により、早期提出が可能になった」としている。

「スタンダード化」へ向けて今後の課題も

 

SNSではこの動きを歓迎する声も多い。X上では「これは思ってたより多い。1~2割に留まるかと思っていた」といった驚きや、「来年度以降は総会の7日以上前開示がスタンダード化するのでは」といった期待も投稿された。

とはいえ、金融庁の要請がなければ進みにくかった現実もある。企業側には手間や内部体制の問題が根強く残り、特に開示スケジュールの前倒しにはなお業種や企業体力により温度差があるのが実態だ。

今後、開示の「早さ」が企業の対話力や信頼性といった非財務的な評価に直結する可能性もあり、有報の提出タイミングは企業価値の新たな指標になるとの見方もある。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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